メイドの日ディルガイ進捗「ふふっ、ガイア、僕に隠れて何してるの?」
「義兄さん……!」
アカツキワイナリーが見える小高い丘の上で子どもが一人楽譜を眺めているかと思えばそれは小さな頭がもう一つ増えた。青い触覚は慌てて赤に目線を合わせたつもりだったが、背中から覗き込もうとしていた赤い毛玉は気にすることなくぴょこ!と義弟であるガイアの隣に座るのだ。
「はい、お水とサンドイッチ。多分ここだろうと思ったからね。適度にお休み入れないと疲れちゃうよ」
「ええと僕……」
「ガイア、最近僕から離れて一人でいること多いんだもの。なにしてるか気になるでしょ?」
晴れた日に小高い丘の上で小さな子供が紙と睨めっこをしながら一人でいる姿など、最近のラグヴィンド家の様子を知っている者ならば何をしているか一目瞭然なのだが、この活発な跡取りは中々納得がいかずに本人に突撃してくるのだから、性格がは対称的と言われる所以である。それでも大人たちに何か言われたのか子供でも持てるサイズのバスケットを持参してきたのだから、出会った頃あたり構わず連れ回していた頃よりは成長したのだろう。メイド特製のレモネードをコクコクと飲みながらガイアは練習疲れを癒すため。ディルックは冷えたままがいいだろうとばかりに走ってきたので熱冷ましに。結果2人とも喉が渇いていたので一気にコクコクと飲み干してしまったのだ。
「美味しい……‼︎」
「アデリン特製ジュースだもの。いつもこの季節になったら作ってくれるんだ」
それこそモンドの一般市民の家庭だともう少し歳がいった子供がお小遣い稼ぎとして社会勉強のためにレモネードを作って売ることはある。だが2人は貴族の家の子なのでほぼそんなこととは無縁であり、こうやってレモン果汁たっぷりのジュースで熱中症防止をしつつ、余暇の時間を有意義に過ごせるのである。とはいうものの、ガイアはガイアで悩みがあるようだが……
「で、ガイアは僕に黙ってお歌の練習捗った?」
「義兄さん……その……」
「アデリンがまたワイナリー内でコンサートをするっているから教えてあげようと思ったのに、ガイアいつもいないんだもの。心配するよ」
ディルックが家の外までガイアを追いかけてきたのには理由がある。初めてできた義弟がアデリン主催のワイナリーの家庭コンサートの話が出てから急によそよそしくなっていたのだ。ガイアにも1人になりたい時間があると考えたものの納得がいかず、あちらこちら探し回っていたのだが、人目を避けるようにしているガイアを不思議に思っていれば、大人からそもそもどうしてコンサートをするのか。その話を聞かされてここまでやってきたというわけである。
「ええと、ごめんなさい。隠すつもりじゃなかったんだけど……」
「いいよ、僕も考えが及ばなかったもの」
そもそも貴族の家庭であるラグヴィンド家では教養やディルックの情操にも良いということで定期的に開かれていたのだが、
ガイアにとって別の側面も持つのだ。
「それでガイア、1人でお歌の練習、捗ってるの?」
「それは……」
まだラグウィンドに来て一年足らずのガイアが必死に歌の練習を頑張る意味はそこにあった。モンドの言葉に不慣れなガイアは伝えたいことがあるにも関わらず、うまく言葉にできないという事象が多発していた。そもそもモンドの言語も不慣れな子供が異国の地で1人で生活してゆくのは相当なものがある。その一つが言語である。