ぽめがば「ん……」
ピピピ……という電子音に起こされる
ひっつきそうな瞼を何とかこじ開け見慣れた天井を見つめぼう……としたところで携帯のリマインド機能がしっかり働き電子音が再び鳴り響く。
ふわぁ、と大きな欠伸をし、凝り固まった体を伸びをして解していく。
ふと、今日はバイトがないと言っていた同居人の姿が見えないことに気づく。
「トキヤぁ~?」
もう学校にいっちゃったのかな。
トキヤは向上心の鬼なので、たまに自主練として朝早くに登校していることがある。今日もそれなのだろう
俺からしたら、ちょっと頑張り屋さんすぎる気がしてならない。バイトやたらと詰め込むし、食事は徹底管理の元許されるのは少量の野菜やスープ。あんなの、いつか絶対倒れちゃうよな
「……あれ」
ベットから降りると床に散らばった服が目に入った。
トキヤのだ
向上心の鬼は、整理整頓の鬼も兼用しているので、脱ぎ散らかすなんてまず無い。ないんだけども…
「うーーん?めちゃくちゃ急いでたのかな?」
そういう日もあるかもしれない。よし、ここは俺が片付けといてあげよう!と、トキヤの服を拾いあげようとしたその時。服が蠢いた
「……へ」
もぞもぞ、もぞもぞ、とまるで服の下に何かが潜んでいるように、動いている!
「えっなになになになに?!」
驚きとすこしの不気味さに半歩後ずさる
かと言ってその服を拾い上げその下に存在する何かを確認する勇気もちょっともちあわせては無い。
注意深く観察を続けていると、遂にもぞもぞが服の端にたどり着いた。
そして
「……クゥン」
鳴いた
「……い、いぬかぁ…よかった……いぬ?」
「わん!」
現れたのは 同居人を彷彿させる深い紫の毛をまとったポメラニアンだった
▫️▫️
「て、ことがあって」
「なるほどな」
「うーん、朝起きたらトキヤくんはいなくて、このポメラニアンが……不思議ですねぇ。でもとーーってもかわいい!」
腕の中のふわふわ、基、朝俺の部屋にいたポメラニアンは那月に顎下をなでられ、どうやらご満悦のようだ。さすがにこのちいさないきものに殺人的ギューっはしないらしい。
「しかも、一十木から離れようとしないと」
「そうなんだよぉ、部屋で待ってもらおうとしたらすっごい悲しげな目で見つめてくるし、それ振り切って出ようとしたら足にすがりついてきてさぁ」
「ふふ、音也くんと離れたくなかったんですね。」
「しまいめには服の裾噛んできてね」
「ああ、若干しめってるのはそれでか」
「そう。こまったさんだよほんとに~」
怒ってるぞ!の顔を作ってポメラニアンと目を合わせると、まるで理解しておらず、むしろ、なにか?と言わんばかりに小首を傾げてきた。困らされてるのにな~んか憎めないのは、この可愛さのおかげだとおもうな。お前の話だよ~とポメラニアンのもふもふとした頬をうりうりとらなでまわす、遊んでもらえると思ったのか嬉々としてじゃれついてきおれの手を舐めてきた。
「はは、くすぐったいよ」
「わん!」
「2人とも仲良しで素敵ですね」
「ああ。それにこのぽめらにあんは、知らない人間に囲まれても吠えたりせず、なかなかにお利口だ。」
偉いぞ、と今度は頭をマサになでられる。
くぅん、と甘えたな声をだし、もっともっとと頭をまさの手におしつけている。
「はは、なかなかに愛らしいな」
「なでてもらってよかったね」
「わあ、尻尾すっごくふっています!嬉しいんですねぇ」
那月の問いかけに、わん!と元気に答える。
その返事に俺たちはまた笑いが漏れた。
暫くそのままマサに撫でてもらっていたが、満足したのか手から離れていく。もぞもぞと腕の中で体制を変えようとしているのを手助けしてやる。
「どうしたの?」
「クゥ……」
「おや、なんだかおめめがとろんとしてません?」
「ああ、眠たいのかもしれんか」
「そうなのかな?まあ授業始まるし、静かに寝て貰えたら助かるかも」
「そうですね、うーん、どこか眠れそうな場所…」
辺りを見渡すも特にそれと言っていい場所は無い
「よかったら、ひざ掛けつかいますか?」
「七海!」
「余っている机の上で寝かせたらいかがでしょうか?ひざ掛けを簡易ベッドにして…」
「たしかに!でもいいの?使っちゃって」
「今の時期はあまり使ってないので、構いませんよ」
「たすかるよ~」
七海が作ってくれた簡易ベッド(ひざ掛け折りたたんで置いたやつ)の上にそっとポメラニアンを降ろす。
が、はなそうとした途端俺の腕にすがりついてきた
「え、ちょ、どうしたの」
「ぐぅ…」
腕のシャツに噛み付いて離れなくなってしまった。
「一十木くんと離れたくないのでしょうか…?」
「ええ…」
「うーん、離れると不安になっちゃうのでしょうか?」
「ありうるな。一十木のそばなら安心するのだろう。」
わん、とみんなが憶測で語る言葉にそうだと同意するように一声あげる。
そしてくぅん、と何かを訴えるような目でおれをじぃっとみつめてくる。
「……一緒に授業うけよっか」
「わん!はっはっ わん!」
漫画ならきっとパァっと言う擬音が着くであろう、小さな体で飛んだりまわったり、喜びを全身で表す。
俺はふぅ、と一息つき、満更でもない気持ちでポメラニアンを抱き上げる。
「静かにしろよ~」
「わう!」
◾︎◾︎
「音也ぁ~!」
「ん、翔!どうしたの?」
授業を無事にのりきり、待ちに待ったランチタイムだ。
今日はポメラニアン同席だから食堂はやめにして外で食べよう、天気もいいし!そう話し合っていると、Sクラスの小さい王子様からおこえがかかった。
「いやさ、トキヤって今日休みか?」
「え?」
「午前中授業にでてなくてよ、携帯も繋がんねぇし、お前なんかしらねぇ?」
「うーん、俺が起きた時にはもう居なくて」
「まじか~無断欠勤とかするやつじゃないしなぁ……つか、その腕にいる紫の毛玉なんだよ」
むく、と丸まっていた体制から顔を上げ、自分のことか?と翔の方に顔を向けた
「犬?!」
「そう!トキヤはいなかったんだけど、代わりにコイツかいたんだぁ、トキヤ内緒で犬飼ってたのかな」
「……いや、いやいやまて、まて!」
「え、なに」
あー、あーそうだったそういえばぽろっときいたわ!とハイハイ納得しました、とこっち置いてけぼりに1人でウンウン頷き話を纏めだした。
俺はなんとことやらさっぱり
なんなの?、と聞いたところ
「トキヤ、だよな、おまえ」
「は?」
「グゥ…」
今日1度も聞いたことない様なひっっくい声で唸った紫のポメラニアンは、どうやらおれの大事なルームメイト、一ノ瀬トキヤ…らしい
◾︎◾︎
この世には、ポメがバースという、男女とは違う、第2の性があり、うんたらかんたら
とにかくトキヤは、ポメラニアンになる個性(と表現していいのかな?)をもっているらしい!
俺も存在は知っていたけど本当にいるんだ、しかもこんなに身近に
「ストレスがめちゃくちゃたまったときとかなるらしいぜ」
「ストレス…」
「イッチーって、なんか無闇矢鱈と忙しそうだもんねぇ」
よしよし、とレンの大きな手に撫でられウットリとしている。どうやらレンのテクニックは女のコのみならず、犬にも適用されるらしい。なんなら己からグイグイ頭押し付けてるもんな。レンもそれに楽しそうに相手している。
「朝ははやいくて夜は遅い、でも課題とか自主練はきっちりするし、風呂長いしスキンケアは鬼だし…」
「忙しいな」
「もうすんごいんだよ、何それ何が違うのみたいな液体ばっしゃばっしゃぬりぬり、永遠にやってる」
「わうっ!」
「うける、さすがだな、日焼け止めとかもなんかすごいぜ、髪用と肌用とか、屋内はこれで~とか」
「イッチーらしいね、今度色々試供品持ってきてあげるよ。」
「わぅ!!!」
「あ、ときや?!」
俺の膝からレンの膝にぴょんっととびのり、前足を腹筋あたりにおき器用に2本立ちのような体制になってる。相当興奮していることがしっぽの揺れ具合から伝わってくる。すげーブンブンしてる。めっちゃ喜んでるんだな
「あはは、まってそんなに嬉しいんだ?かわいいね、イッチーは!よしよし!」
「わう!わん!」
「たしかに、犬になってからのトキヤは結構感情表現豊かかも」
「それがよ、ストレス溜まって犬になる訳だから、犬になった時はタガがはずれるというか、素直になるらしいぜ。」
「へぇ」
これが素直なときやかぁ、と未だブンブン振られ続けているしっぽを眺めながら、同時にルームメイトのシワのよった眉間を思い浮かべる。思い返しても笑顔よりしかめっ面の方が多いな、むしろ……笑顔って…
……よし、今度からちょっと片付けとか頑張ろうかな!
よし!と意気込んだところで、ガラガラ、と教室の扉が開かれた
「もどりましたよ~」
「おかえり~」
「ああ、遅くなって済まない。一ノ瀬も、腹が減っただろう」
ポメガバースはたしかに犬になってしまうが、食べ物耐性は人間のままらしく、人間の食べ物を摂取しても問題ないらしい。
一ノ瀬はこれだ、と野菜スティックを差し出す。
「くぅ……」
「あれ、どうしました?」
「む、きにいらぬか?」
「どうしたのトキヤ?」
手ずから食べるのが嫌なのかも、と適当な蓋にばらっとよそってみたけど、ぷいと顔を横に向けて食べようとしない。
「う~ん、どしたの?いつもたべてるやつだよ?」
「くぅ、わん、わん!」
すんすん、と鼻を鳴らし、まだビニールの中になにか入ってるだろうと言わんばかりに吠える
「袋が気になるのか?あとはそうだな、めろんぱんとか、やきそばぱん、フライドポテト、おにぎり…」
「くぅ~ん」
マサが食べ物の名前を口々にしていくと比例して、トキヤの目もキラキラとしている。
なるほど
「いつもは我慢してるから、たべたいんだ」
「わん!」
「ふふ、みんなでたべるので、色々買ってきたんですよ?トキヤくんは何が食べたいかなぁ?」
「くぅ……」
「はは、悩んでる悩んでる!」
「イッチー、この激辛ソースホットドックはかなりオススメだよ」
「いやそれ食ってんのお前くらいだろ。」
そうかい?とビリっと包装をはがし、ほぉら、美味しそうだろ?とトキヤの目の前に差し出した。
すんすん、と匂いをかぎ、かぷっとはみ出したソーセージ部分にかぶりつく。
「あっ!」
「お、いいたべっぷり」
「と、トキヤ大丈夫?!」