徒花ーprologue「魈って、嫌いな食べ物あるの?」
何でもない日の昼下がりのこと。旅人とパイモンは望舒旅館を訪れていた。
スメールから調達を頼まれた品を手渡すと、言笑は嬉々とした顔で手早く包みを開いた。たちまち露わになる種々雑多な香辛料に、大きな獣肉の塊。厨房じゅうに芳しい香りが漂い、異国の風景がそこに広がるようだった。
つい先日まで滞在していた街の至るところで香っていた匂いだが、改めて嗅ぐと食欲が刺激される。ぐ〜、と響いた同行者の腹の音が、何よりの証拠だ。
それを聞いた料理人は大きく笑って「さっそく何か試作してみるから食っていってくれ。代金? 要らん、要らん」と言うと、機嫌よく鉄鍋を振るい始めた。
気前のいい一言に喜んだパイモンが「蛍、聞いたか!? タダでごちそうが食べられるチャンスだぞ! あっちで待ってようぜ!」と、すぐさまテーブルに腰かけるよう急かしてきたのは言うまでもない。
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