「……分かるだろう?」
夜叉の手を軽く引き、股間へ導く。
「ああ、……承知しました」
魈は鍾離の浅ましい欲望を軽く握り込むと、瞼を少し伏せてごくりと唾を飲んだ。
「鍾離様の魔羅を降魔するのですね?」
「何と?」
無骨な言葉に驚いて、食い気味に聞き返してしまった。
「……? これは魔羅では?」
ぐにぐに、と人の股間を無遠慮に触りながら神妙な面持ちで言うのは止めて欲しい。
仙人である魈の言葉遣いは古めかしく厳粛だ。世俗から離れ、気位高く生きてきた価値観が言葉の節々に表れている。さらに彼は仙人のなかでも衣食住に関心が薄く、人間の文化を知ることも無駄と考えているきらいがある。
自分が色事の当事者になっているとは思ってもいないのだろう。
相変わらず鍾離の股間を弄ったまま「かような大きさになるとは名のある魔か?」などと眉を寄せて呟いている。使命に対する責任感が強すぎるのも全く考えものだった。
呼び出した己だけが股間に煩悩を抱えているのかと、鍾離は頭が痛くなる思いだった。
「いや、間違ってはいないな……。その、魔羅という言葉を使わずこれを表現することはできないか?」
「……ふむ」
魈は片手を顎に添えて考えこむ。そそらない言葉とは裏腹に細い指が形を確かめるように輪郭をなぞり、下衣に形を浮き立たせようとする。
「鍾離様のご立派な岩柱……?」
「わざと言っているのか?」
「さ、最善を尽くしたつもりなのですが」
「すまない。怒っているわけではない。ただ驚いただけだ……」
「俺はお前を閨に誘っているつもりなのだが」
「? ……我と房事を?」
「そういうことだな。魈、俺はお前を抱きたい」
「……鍾離様」
「なんだ」
「貴方はこの身をを美しいと評してくださる」
「そうだな。お前の身と心だけではない、在り方も含めて美しいと思っているぞ」
「しかし、我は雄です」
「ああ。知っている」
「女陰はありませぬ」
「それも知っているな……」
どこまで察しが悪いのか。
「貴方ほどの方が凡人となり、男寵のご趣味ができたのですか?」
「……そうかもな」
疑問を投げかける純粋な瞳に後ろめたさを感じて、少し視線を外す。
鍾離は男を抱く趣味ができたのではなく、魈だから劣情を催すのであって、はるか昔から思うところがあったとは言えなかった。この高潔な夜叉は岩王帝君を自らの帰命する神だと崇めている。その神から煩悩まみれの目で見ていたと告げられても戸惑うだけだろう。
「しかし、畏れながら我の菊座は修業が足りません」
古風な言い回しにも慣れてきたが、さらりと破廉恥なことを言っているような気もする。女性のそれと比べるまでもなく名器ではないため満足させることは難しい、と言いたいらしい。
「……何をするのか知識はあるのだな」
「我の貪ってきた夢の中には、その、……色欲に纏わるものもありましたので」
「尻の穴に陽根を出し入れする側も、される側も、何が悦いものか我には到底理解しがたいことです」
「……ですが、鍾離様が望まれるのであれば。この身をお使いください」
「これは淫を出せば降魔が済みます」
「……待て、魈」
「はい」
「つかぬ事を聞く。お前は自らの魔羅を降魔して淫を出すことがあるのか?」
「それは、…………」
「淫がどのようなもので、どうしたら出るのかお前は分かっていて言ってるのではないか?」
「……言いたく、ありません」