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    SSR_smt

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    SSR_smt

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    シロガネの夢小説に出た二人のその後

    円雷静という男は、こうして後輩の要望を聞いたり、案外面倒見が良かったりするのだが、如何せん酒もタバコもする。なんならボロ負けして後輩に慰められている。物理的な甲斐性なしなのがキズであった。
    先輩に連れて行かれた風俗嬢で童貞を卒業して以来、女の体の柔らかさなどしることもない。
    静の隣には、現在カチカチでヒエヒエの男がいた。
    そこらの人間より一等美しい顔はしている。
    静はきっと別の出会い方をすれば、心象が変わったんだろうな。と男に引きずられながらぼんやりと思っていた。
    パチリと目が合う。
    黒曜石どころかペンタブラックの目が、静の顔を映している。
    その目が三日月のようにゆるく細められる。

    「見とれちゃった?」
    「見慣れた」
    「あらら、贅沢だなぁ」

    静が素っ気なく返そうが、氷野は笑って流す。
    普段は3Bと呼称される愉快な仲間たちに囲まれているため賑やかなイメージがあったが、こうして二人きりでいると年相応の落ち着きがある。
    いつもの通りの氷野の軽口に、誰が。と静が苦い顔をするのも、同期になってから何百と繰り返されたやり取りだ。
    氷野の足が止まると、引きずられている静の鼻先が氷野の背中に当たった。

    「う゛ッ!」
    「お店、着いたよ」
    「お、おお」

    鼻の頭を擦ったまま、静は着いた建物を見上げる。
    打ち上げなんかじゃ行かない、オシャレなバーだ。女にモテる男が行きそうだ。偏見を丸出しに静は隣を見れば、既に氷野はそこにはおらず。
    「静、行くよ」と扉を開く氷野の背中を慌てて追った。

    バーの内装はモダンで洗練されており、ワニ革のようにランダムな凹凸がある壁紙や見るからに高そうな花瓶がより高級感を醸し出している。
    静は退勤後の適当な服で来たことを後悔した。
    とはいえ、氷野と会ったのも偶然であるし、氷野が初めて静を二人きりで飲みに誘ったのも初めてだったので不慮の事故のようなものではあるが。
    氷野の背中にそっと隠れるように下がった静であったが、氷野が「マスター」とにこやかに微笑んでカウンターの方に歩んでいってしまったので、1人入口付近で立ち竦むはめになる。
    氷野が長い脚をゆったりと段差に引っ掛けながら話しているカウンターには、高級な酒瓶が整然と並び、バーテンダー達がカクテルを作りながら、客たちと会話を楽しんでいた。

    ――絶対酒の味がわかんねぇな。
    と、場違いさをひしひしと感じていれば、氷野がこちらを振り返り手招きをした。
    奥にいるマスターがゆったりと会釈をしたが、静はどうせ似合わない奴が来たと思われているのだろうと口を一文字に結びながらも氷野の元へと向かう。
    こんな高そうな店にいる客なだけあって、静に目を向ける人間はいなかった。皆それぞれ自分の時間を楽しんでいるようだ。
    それに少しホッとしながらも、カウンターを通り過ぎ、テーブル席も抜け、更に奥の部屋へと案内される。
    さっすが芸能人。と、手慣れた様子で案内されている氷野を見上げる。
    その辺の大衆居酒屋じゃ考えられない完全個室だ。
    壁一面には、アート作品やヴィンテージポスターが飾られ、芸術方面に深くはない静であってもなんか高そうだな。と思う程度には空間づくりがしっかりとなされていた。
    酒の名前がズラリと並んでいる上に、アルファベットの並ぶメニュー表。
    仕事終わりの疲れた体に、居心地の悪い高そうな店の攻撃。
    静は決して英語ができない訳ではないが、二日酔いのような頭痛を感じた。

    「何にする?」
    とメニューを見せてくる氷野だったが、静の居心地の悪そうな顔に苦笑を浮かべて
    「僕のオススメでもいい?」
    と質問を変える。
    それに、もうどうにでもなれと静は気だるげに頷いた。


    氷野が店員にメニューを伝えるのを横目に、静はウェルカムドリンクとして出された食前酒をちびちびと呑んでいた。手持ち無沙汰なのである。っていうか目立ちたくない。
    ため息をつきそうになる時、注文を終えた氷野が振り返った。

    「で、さっきシロガネと何喋ってたの?」
    「ああ~?お前には縁のないハナシ!」
    「また恋人の話してたんだ」

    空気を押し殺すように喉で笑った氷野は、嫌な顔丸出しの静の睨みも何のその。
    手に顎をおいたあざといポーズをして、静を見上げる。

    「静の周りは可愛い子たくさんいるのにねぇ」
    彼の従兄弟、同期の女医、指折り数えてゆくとケッ!と静が舌を出した。

    「お前には一生わからねーよ」
    ViCaPは美しい女性たちが多いのだが、如何せん自立心が高い。
    静は過去に一度行ったことのある風俗店で女性に迫られてから、積極的な女性に苦手意識が爆誕し、飲み会、合コン……と、あらゆる機会を逃しまくっている。
    そんな過去を氷野は知る由もないが、俳優という職業柄人間観察に秀でている彼は、静の荒んだ態度にもにこやかなままだ。
    そんな氷野の態度もまた、イケメンの余裕という風に見えて静はげんなりとした。

    「静って僕のこと苦手だよね」
    「はァ?別に。苦手ってほどじゃねぇけど」
    「そう?でもさっきゲッて言ったでしょ」
    氷野にそう指摘され、静は顔を顰めた。
    別段氷野に敵対心を燃やしているだとか、そういったことはないのだが。なんとなくモテない自分とモテモテの相手と比較して勝手に凹んでいるだけで……。
    しかしこれを言うのはなんとも情けない。
    そのため、「そんなこと思ってねぇよ」と口をもごつかせた。
    それに氷野はおかしそうにクスクスと空気揺らす。

    「そう?なら良かった。数少ない同期なんだから、仲良くしようね」
    「22年目でそれか……」
    「遅すぎるということはないって言うでしょ」
    「なに?」
    「ピカソの格言」
    「はぁ……色男が言うことは違いますねぇ」
    へいへいと適当な相槌に、氷野はひどいなぁと運ばれてきた料理に口をつける。
    それを見て、静もようやくフォークを手に取った。
    ホタテのポワレだとかいう、ルッコラのソースに浮かぶホタテをちょいと突いて、口に運ぶ。

    「お、美味い」
    「でしょ」
    「ん」
    もぐもぐと口を動かす静に、安堵した氷野もまた一口進める。

    「これも美味い。サーモン?」
    「サーモンとクリームチーズの大根ロールだったかな?」
    「へぇ、これ大根なんだ」

    「肉うま!」
    メインディッシュの和牛のステーキに舌鼓を打つ。
    やはり食事は相手との距離を縮めるのに役立つツールなのだろう。静の機嫌は上向きになり、テーブルいっぱいの料理に夢中だ。
    ふとフォークを止めた静は、小首を傾げる。

    「美味い飯はいいんだけど、なんでここ?」
    「男はまず胃袋を掴めってね」
    「それ、落とすテクニックじゃん」
    「んふふ、似たようなものでしょ」
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