営業時間は終了しましたいいところでインターホンが鳴った。どれくらいいいところだったかというと、ベッドに押し倒し、先輩のパンツをずらしたところだった。
正面から俺を見る先輩の目がぱちぱちと瞬く。ピンポーン。また鳴る。知らねー。だってめちゃくちゃにいいところだから。先輩のボクサーのゴムに指を掛け、下に引っ張る。すると、我に返った顔の先輩がでかい声で言った。
「あ!やべえ時間指定してたんだった!」
そうして勢いよく俺を押しのけると、陰毛が出るまで下げたばかりのパンツを元の位置に戻した。時間指定って何。別にいーけど……。今の今まで早くちんこほしーってとろけた顔で俺ばかりを見ていたくせに。
「はーい!」
先輩は玄関に向かって返事をしながら慌てて床の服を取り上げるけど、全部着たって人前になんか出せやしない。
「俺が出る」
ここに履いてきたデニムに脚を通す。荷物を受け取ったらどうせすぐ脱ぐ、パンツは履かない。半分勃ってたけどギリギリちゃんと収まった。上……もいいか、面倒だし。
「え?」
Tシャツとボクサー姿できょとんとしている先輩の顔を見る。三井さーん、お届け物でーす!ドアの向こうから宅配業者の声。
「お前出んの」
「そんな顔のあんた出すわけねー」
「どんな顔だよ」
「これから抱かれますみたいな顔」
なかなか出てこない家主を怪しんで、拳でドアが叩かれる。先輩は怒ってるのと照れてるの半分ずつみたいな顔で唸った。……ヤマトに嫉妬かよ、って当然だろ。その顔俺のだから。
俺だけの先輩を部屋に残し、すみませんと玄関を開けたらものすごくびっくりされた。半裸だからか、それともいつもとは違う人間が出てきたからか。あ、えっと、こちらにサインか印鑑お願いします。どもりながら頼まれる。
靴がしまってある棚の上に印鑑が置いてあるのを知っていたので、それを受領印と書かれた枠内にぽんっと押して段ボールを受け取った。そそくさと去っていった宅配業者にもしかして勃ってんのがばれてたのかなとうっすら思ったが、もう会わない人間だしどうでもいいことだ。
「ありがと。ってか驚かれただろ」
「っす」
部屋に戻っても先輩はまだ複雑な顔を引きずっていた。
「次から出づらい……」
「なんで」
「そりゃお前、流川こそこれから抱きますみてーな顔してるし、んなカッコだし」
「ふぅん」
自分じゃまったくわからないが、先輩が"抱かれます"の顔をしているように俺もそうなのかもしれない。だって実際これから抱く気し、めちゃくちゃ抱くし。
なのに、先輩はベッドに腰かけ待ってましたと言わんばかりに荷物を開封しはじめた。それあとでいーじゃん。デニムを脱ぎ捨て隣に座り、太腿を撫でつつ耳の丸みを齧ったら待てって叱られる。もうたくさん待ったんだけど。
「それ今やんなきゃなの」
「今やんなきゃなの」
「中身何」
箱のサイズは小さく、側面には通販サイトのロゴが印刷されている。俺は実家暮らしだしあまり通販を使うことがないため中身の想像がつかない。なんか、日用品的な?
と思ったらゴムとローションだった。
俺たちがいつも使うやつ。
「あーよかった間に合った」
「……もうなかったっけ」
ぺちんと額を叩かれる。
「この前うち来たとき使い切ったろ、がっつきやがってよぉ。まぁ俺もなくなってんのに気づいたの昨日の夜なんだけど」
先輩はぺりぺりとローションのビニール包装を剥がしてゆく。そっちもがっついてた、と思いながら俺はゴムのほうを開ける。
「言ってくれたら来るとき買ってきたのに」
「だってお前忘れそうだし、俺も忘れそうだし。もし挿れる直前になってないってなったら地獄だろ」
「確かに」
考えただけでぞっとする。
「日本の流通に感謝だわ」
全面同意。突然の邪魔とか言って悪かった、ちょっとだけ。
「うし、じゃーやるか!」
「うす」
そうしてまたボクサーのゴムに手を掛けた。今度こそすべて脱がせ、理性の戻っていた顔が"これから抱かれます"に変わってゆく。
ピカピカのゴムをシーツにざっと散らばして、使い切っていい?と聞いたら何回やる気だよって笑われた。かなり本気。なので今晩は配達に来たってもう誰も印鑑は押せません。