梅花の人 その人の思い出には、いつだって梅花の香りが漂っていた。
わたしの家に出入りする行商の一人。毎冬雪の深まる前にやって来ては年を越し、梅花の咲く頃にこの町を去ってゆく。
彼は、その一団とともに旅をする子どもだった。季節ごとに回る得意先へ挨拶や、軽やかな会話の中に織り交ぜる各地の情勢。そんな父の商いをすぐ隣で学ぶ少年こそが彼――ジャミルだった。
物心ついて彼を認識した頃には、もうはっきりと彼のことが好きだった。
同い年なのにわたしよりもうんと大人びた仕草、寡黙なまなざし、賢そうな口ぶりは、ひどくわたしを惹きつけ心酔させ、わたしは彼と仲良くなりたい一心であれやこれやと遊びに誘い出した。
「カリムはたいそうジャミルくんを気に入ったみたいだな」
9411