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    でりん

    成人。いろいろ。

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    でりん

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    洋三 ワンドロライ、お題「かさぶた」をお借りしました。

    かさぶた 梅雨が明けて、湿度はそのままにどんどん気温が上がってくる頃だった。
     少し開いた体育館のドアをズズと開けると、残っていたのは細身の三年だけだった。物音に気づいてこちらを振り向いた人は、ふいとまた顔をそらすとゴール下に転がったボールを取りに行く。

    「花道は?」
    「帰ったよ」

     ぶっきらぼうに言い捨てられた。練習に集中しているのか、もしくはまだ自分に対してぎこちない部分があるのかもしれない。元ヤンキーで、拳の弱い三年生。こっちは殴り合いの喧嘩なんてしょっちゅうだけど、あちらは不良とはいえ自分の手足を使った経験が少なそうだった。なめらかで迷いないシュートとは大違いの、振り抜きの甘いパンチを思い出す。
     今またボールを構えたミッチーは、先ほどとは少しずれた位置に移動し膝を使って跳ぶ。ゴールの斜めから放たれたシュートはスパッとネットに入った。パチパチと音の小さい拍手を送って、「じゃ頑張って」とドアを抜けようとしたところで、「待て」と静止が入った。

    「ん? なに?」
    「あー、お前、ちょっとそこにいろ」

     少し息を荒げたミッチーは胸を上下させたままふらっとどこかへ消えた。花道を探さなきゃいけないんだけど、と思いつつおとなしく待つ。あまり長くかかるなら、と思う間もなくミッチーはふらふら戻ってきた。

    「ん」
     ムスッとした顔のまま、冷えた缶を手に押しつけられる。ポカリだ。蒸した空気にうんざりした体には心地いいが、逆じゃないだろうか。部活中のスポーツマンから不良に差し入れとは。

    「いいよミッチー、自分で飲んだら」
    「あいつの親父さんに」

     眉間にしわを寄せたまま上級生は低く言う。目を細めて平熱で見上げれば、見返せば口元をきゅっと締めて、でもまっすぐ見つめ返してくる。そのまなざしがなんだかきれいで、少し目の色が薄いんだ、と気づいてふっと顔の力が抜けた。きっと花道が自分で話したんだろう。

    「……親父さんは、ビールのが喜びますよ」
    「おめーが飲むんじゃねーだろな」
    「そりゃお供えの後は分けてもらうさ」
     おいふざけんな一年坊主! と元不良のくせに真面目なことを言うのがおかしかった。


     アパートへ向かう途中で花道に合流した。きちんと線香とマッチ、小さな花束を手に提げている。よお、と振った手に握った缶を指されたので、ミッチーから、と説明した。ああ、と納得して歩き進む花道を少し後ろから追う。
     あの時俺たちは中学生だった。花道はあちこち殴られて鼻血を出して、そしてそれ以上に体の一部がちぎれたような顔をしていた。あの時の生傷が乾いて、その話をできるような仲間が増えたのをうれしく思う。

    「ミッチーって、いいやつだな」
    「フン。天才はお見通しだ」
     さすが、と肘でこづけば、手に持った缶がたぷんと音をたてた。
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