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    yushio_gnsn

    @yushio_gnsn

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    なんちゃって鳥パロアルカヴェその2

    求愛舞踏(アルカヴェ鳥パロ②)隣町で有名な建築家が突然姿を消した。その建築家は実は鳥の化身で、取引先に騙され、両脚を折られた挙句、愛玩用の商品として売られていた。建築家を助けたのは先日図書館の司書長となった男。彼もまた鳥の化身であった。彼は闇オークション会場に単身で乗り込み、囚われていた建築家を救出した後、関係者を全員叩きのめして治安維持局に突き出したという。

    事実が陳列されているだけなのに、一般の人間にとっては胸焼けしそうな情報量だそうで、事件から数ヶ月経っても新聞には定期的に大きめの見出しが載る。

    有名な建築家、というのはカーヴェのことで、闇オークションを一人で壊滅させた司書長というのはアルハイゼンのことである。カーヴェはフウチョウ、アルハイゼンは隼なので同じ鳥でも生態はかなり異なるけれども。

    強い元素力を持つ生物は人間と同等かそれ以上の知能を持ち、姿を変える力を持っていた。おとぎ話のような存在が本当に実在していて、人間社会の中で大事件を起こしたとなれば、騒ぎが大きくなるのも無理は無い。実際、古い迷信や伝承が紛れない事実である可能性が出てきて、歴史の教科書が変わりそうなのだとか。

    「ねえ君、あのときは随分暴れたようだけど、よく一人も殺さなかったね」
    「後が面倒だからだ。君の世話ができなくなったら元も子もない。その脚の怪我がなければ全員始末していた」
    「ああ、そう……」

    カーヴェは脚を折った元取引先に少しだけ感謝をした。フウチョウと異なり、生粋の狩猟者である隼は殺生に躊躇が無い。殺すより、弱さ故に殺される方が悪い、という考えが一般的だ。アルハイゼンにとって人間の相手など、元素力なしでも雛鳥の翼をひねるようなものだった。人間からすると、司書という殴り合いの喧嘩と縁遠い存在が血の気の多い連中を相手に戦い、圧勝したのは非常に驚愕する事態としてとらえられているけれども。

    新聞には、ついに人身売買の元締めが捕まったと書かれていた。隣には、カーヴェを救ってくれたアルハイゼンの写真が英雄という肩書と共に掲載されている。ベッドに寝転がったまま印刷された彼の顔眺め続けていたカーヴェだったが、紙の束は唐突に奪われた。見上げると、眉間に皺を寄せたアルハイゼンご本人様がこちらを見下ろしている。

    「……いい加減、新聞ではなく本物を見て貰いたい」

    そのまま寝台の上で抱き寄せられる。ようやくギプスの取れた脚に、一回り大きな彼の脚が絡んだ。強く大きく育ったのに、子供のように拗ねて甘える彼が愛おしい。

    「まさか新聞に嫉妬してる?」
    「仕事を片付けて漸く家に帰って来たのに、君が俺を見ないからだ」
    「はあ……君は本当に家が大好きだね」

    アルハイゼンは外……即ち人間世界での生活もこなし、終わったら直ぐに帰ってカーヴェの世話、という生活を送っている。本人としてはカーヴェにだけ構っていたいそうなのだが、人の社会に紛れている以上は仕方がない。アルハイゼンが最も恐れ嫌うのは、自分の家に余所者が押しかけてくること。わざわざ外に出て仕事をするのは、家を守るためでもある。帰巣本能の強い彼にとっては、それでも相当なストレスだろうが。

    「……新聞に栄誉賞を断ったって書かれているけれど、本当に良かったのか。人間に恩を売った証はあって困るものではないだろう?」
    「俺には興味も意味も無いものだ。盾だのメダルだの、余計なものを増やしたくない」

    あったとしても君が傷つけられた事件を思い出すので腹立たしい、と彼は続けた。

    「君が良いなら構わないけれど……ああ、そういえば、君の同族っぽい子から手紙が来ていたよ。この前も届いていたし、いい加減返事をしたらどうだい?」
    「それも無視していい。君に関するろくでもないことだ」
    「……僕が? なんで?」

    カーヴェは同族の元を離れて久しい。かつての知り合いは人間として生きるために連絡を一切絶ってしまった。いい加減死んだことにされているかな、などと考えていたところである。

    「建築業に勤しんでいた君は知らないだろうが、誰からの求愛も受けず、突如姿を消した高嶺のフウチョウの話は半分伝説になっている。そんな君が人間世界で見つかったと同族に知れ渡ったら?」
    「あー……僕、そんなことになってた?」
    「ちなみに家に近寄った雄は何羽か始末した」

    そっちはだめだったか、とカーヴェは頭の中で合掌した。しかしまあ、同族であれば憐みの感情よりも呆れが勝る。何も知らない人間とは事情が違うのだ。

    現在アルハイゼンに囲われているカーヴェは番として迎えられている状態。誰からの求愛も承諾しなかったカーヴェであるが、圧倒的強者に命を救われ求愛給餌までされては折れる他ない。何より、かつて助けた幼い子が成長して帰って来たというシチュエーションにぐらっときてしまった。フウチョウは皆、ロマンが大好きである。

    話を戻すが、カーヴェはアルハイゼンの番である。番を囲った者には伴侶を命懸けて守り抜く実力が求められる。猛禽類なら、なおさらに。そこから奪いたいのなら同じく命を懸けて挑み、力を持ってねじ伏せねばならない。挑んだ結果殺されようが、仕方がないのだった。狩猟のプロである隼に対して番の略奪を挑むのであれば、少なくとも同じ猛禽類でなければ話にならないだろう。

    「(いや、鷹だろうが鷲だろうが、普通にぶっ殺しそうだな……)」

    銀色の髪を撫でながら、思いにふける。この家に来てから一度だけ、完全に鳥の姿に戻ったアルハイゼンの姿を見せて貰った。幼い頃を知るものとして、どれだけ成長したのか確かめたかったからだ。ちなみにストレートな感想は「食われるかと思った」だ。産毛の残った頭でピュイピュイ鳴いていた若鳥が、威厳と雄々しさと強靭さを濃縮した化物になるとは聞いていない。今カーヴェに抱き着いて拗ねているいきものと本当に同じなのか、甚だ疑問である。

    「アルハイゼン、僕はそろそろ湯浴みをしたいんだけれど」
    「身体を許す気になったか……?」
    「そうではなくて! 昨日君が遅かったから、お風呂に入っていないんだ」

    ギプスが外れても、長らく動かしていなかった脚では未だ歩行がおぼつかない。浴室は滑って転ぶ危険があるので一人で湯浴みをしてはいけないと言われている。アルハイゼンは身体を離してはくれたものの、その顔には未だに不満の二文字が浮かんでいた。

    「そんな顔をしないでくれ。君とするのが嫌なわけじゃない……もう少し時間が欲しくて」
    「……無理強いはしない」
    「うん」

    アルハイゼンが不満なのも理解はできる。番というのは身体を繋げて、初めて正式に成立するものだ。カーヴェは求愛給餌も同衾も受け入れたが、一番最後の儀式は未だなのである。

    「(でも、やっぱり僕は……)」

    アルハイゼンはそれ以上何も言わず、いつも通りカーヴェを甲斐甲斐しく浴室に運んだ。

    ***

    「では行ってくる。新しい果物を幾つか買っておいたから、君の好みのものがあったら教えて欲しい」
    「分かった。行ってらっしゃい」

    人間としての仕事を片付けに行くアルハイゼンを見送る。本当は自分も仕事をしたいのだけれど、脚が完治するまではお預けだそうだ。彼は無表情に見えて、その実内側に激情を秘めている男である。番が怪我をしている、という状態がどうしても赦せず、治るまでは人間に近づけたくないのだそうだ。

    「さて……」

    家主がいなくなったところで、カーヴェは寝室のドアを開け、広い廊下に立った。この行動は「食事以外は寝室から離れずなるべく安静に」という言いつけと逆行するものである。アルハイゼンには絶対にバレてはいけない。それでも、カーヴェにとって決して欠かしてはならないものであった。

    「ふぅ……っ、と……」

    脚を動かし。廊下の端から端まで行き来する。至極単純な動作で、カーヴェの額には汗が滲んだ。往復の回数が二桁を超えたあたりで、壁にもたれ掛かる。

    「骨はくっついているはずなんだけどなあ……」

    手探りの歩行訓練は難航を極めていた。人の姿に変化していても、脚を傷つけられれば鳥としての脚も傷がつく。アルハイゼンの適切な治療により傷そのものは完治したが、動かし方が戻らないのだ。姿を変えれば翼を使って移動はできるが、それだけでは足りない。何としても脚を自由に動かしたい。

    「(いっそ走るか、ジャンプしてみようか?)」

    秘密の特訓を始めて既に二週間が経つ。最初に比べれば多少マシにはなったけれども、カーヴェの理想とする進捗からは大きくかけ離れている。傷は治っているのだから、悪いのは脚そのものではない。ならば、動かし方が単調過ぎるのだろう。

    「よっ……!」

    のろのろと歩くのをやめ、思い切り動かしてみる。カーヴェの脚は初めこそふらついていたが、次第に大きな動きにも慣れ始めた。継続してトレーニングしていただけあって、体幹も悪くない。次は試しにステップを、と踏み出した瞬間、足がもつれる。あ、と気づいた時には既に遅く、カーヴェの身体は床に転がっていた。同時に、ガシャンと音が鳴る。

    「痛ッた……はあ、調子に乗り過ぎたなあ」

    流石にジャンプはまだ早かった。飛んだ分派手に転んだ挙句、躓いた拍子にインテリアの花瓶をひっかけてしまった。

    「(とりあえず、花瓶、片付けないと……)」

    言い訳はすぐに思いついた。昼ご飯を取りに行く途中間違って倒してしまった、と。しかしカーヴェが行動に至ることは叶わなかった。花瓶の欠片に手を伸ばす前に、凄まじい勢いで玄関の扉が開いたからだ。

    「カーヴェ……⁉」
    「ひょあ⁉」

    間抜けな声を上げるカーヴェと対照的に、飛び込んできたアルハイゼンは今にも人を殺しそうな顔をしている。

    「あ、あ、アルハイゼン……君、しごと……」
    「書類を忘れて取りに戻った。家の中から明らかな破壊音が聞こえてきたので強盗でも入ったのかと」
    「違う違う! 僕は襲われてなんかいないよ。ちょっとへまをして、壷を割ってしまったんだ」

    興奮する彼を宥めながら、割れた花瓶を指さす。破片となってしまったそれを一瞥すると、アルハイゼンは一息ついて、しかしまた表情を険しくした。

    「もしかして、君のお気に入りだったかな……本当にすまない、次からは気を付けるから……」

    家をこよなく愛する彼のことだから、置かれているインテリアにも相当な拘りがあったのかもしれない。

    「何をしていた」
    「え……」
    「わざわざ廊下に出て、何をしていたのかと聞いている。その傷は?」

    花瓶に気を取られて気づくのが遅れた。うまく受け身をとれなかったせいで、腕に痣ができている。

    「……寝室で安静にするよう言ったはずだが?」
    「これは、ええと……歩く練習を」
    「君の仕事に脚は要らないだろう。それとも外に出たかったのか?」

    鋭い瞳で射貫かれる。駆られる前の獲物はこんな気分なのだろう。今、アルハイゼンは致命的な勘違いをしている。しかし、こうして見下ろされるとカーヴェは唇を動かすことができない。瞬きするのもはばかられる。呼吸すら、止まってしまいそうだ。

    「まさか、ここから出ていくつもりか?」
    「……ひ……っ」

    悪いのはカーヴェだ。安静に、という言いつけを守らなかった。命を救ってくれた番の言う事を守らないのは裏切りと思われても仕方がない。けれど言わねばならない。そんなつもりはなかったのだと。

    「未だ、俺が番に相応しい雄だとは認められないなら、その身に刻めば理解できるか?」

    アルハイゼンはカーヴェを抱き上げ、寝室に向かう。違うのだ、こんな思いをさせたかった訳じゃない。押し潰されそうな威圧感の中、カーヴェは必死で言葉を紡いだ。

    「……っ、あ……ぅ……ちが、う……」

    彼のシャツをぎゅっと握ると、重々しい空気が少しだけ緩んだ。もう、好機は今しか無い。逃してはいけない。

    「ちがうんだ、僕は……ダンスを……」
    「……ダンス?」

    アルハイゼンが聞きの姿勢に入ったのを感じると、喉奥につかえていた言葉が一気にあふれ出した。

    「あ、あのさ……隼である君にはあまり馴染みが無いと思うけれど、僕らフウチョウはプロポーズにダンスを踊る……僕は今まで数多の求婚を断ってはきたけれど、心に決めた相手にはとびきりのダンスを踊ろうと思って、沢山練習もしていたんだよ。でも、今の僕は……」

    治療痕の残る脚に目を向ける。今のカーヴェは踊るどころか歩行もままならない。万が一、後遺症が残りでもしたら、と思うと居ても立っても居られなかった。漸く見つけた伴侶に踊りを披露できないなんて、耐えられない。

    「君にはちゃんとダンスを見て貰いたくて……だから、その……身体を繋げるのも待ってもらっていたんだけれど」

    カーヴェを抱えたまま、アルハイゼンは深く長い溜息をついた。

    「それでも、家主である君の言いつけを破ったのはよくなかった」
    「いいや、君の習性を知らなかった俺にも問題はある。酷い態度を取ったことを赦して欲しい」

    優しくベッドに降ろされると、安堵で力が抜けてしまった。猛禽類の本気の威圧は冗談抜きで命の危機を感じるもの。彼に閉じ込められずとも、今日は暫く動けそうにない。

    「歩行訓練がしたいなら今後は俺が手伝おう。一人でいる間は、大人しくしていてくれないか」
    「うん……でも、今日ので理解した。僕が踊れるようになるには、かなりの時間が必要だ。それまで君を待たせ続けるのは流石に申し訳ない。欲しいなら、いつでも求めてくれていいよ。横になっている分には負担が無いから」

    何なら今からでも、とカーヴェは続けた。顔を上げ、番の顔を覗き込むと、明らかに瞳孔が開いている。仮にも勤務時間中の彼に、この発言はよろしくなかったかもしれない。アルハイゼンはもう一度カーヴェを抱き寄せ、心地良いテノールで囁く。

    「……どうしても踊りたいというのなら、考えがある。ペアダンスを知っているか?」

    ***

    右、左、と頭の中で唱えながら脚を動かす。ぎこちないステップは踊りを極めたフウチョウとして恥ずかしいことこの上ないのだが、しっかりと手を取ってくれる番のことを考えていると何もかも吹き飛んでしまった。

    「……ダンスの出来る隼なんて聞いたことが無いよ」
    「俺も、役に立つ日が来るとは思わなかった」

    狩猟者にそぐわない踊りの知識は、今の職を得る過程で仕方なく身に着けた者らしい。人間の身分証を発行する代わりに良家のご令嬢の相手をしろと言われたそうだ。その「相手」の中にペアダンスも含まれていたとのこと。ご令嬢には別に許嫁がいたので、アルハイゼンが言い寄られることはなかったそうだが。

    「……脚が治ったら、僕の踊りもちゃんと見て欲しい」
    「分かったから、暫くはこれで我慢してくれ。俺は心臓を増やす方法を知らない」
    「心配が過ぎる。もう一人で危ないことはしないから」
    「どうだか。君は昔、夜通し図面と睨めっこした挙句、翌朝屍のようになっていた」
    「君ってやつは、どうして余計な事まで覚えているんだい」
    「素直に俺の記憶力を褒めてくれ」

    喋っている間もステップは続く。殆ど相手がリードしてくれるので、途中から脚に意識を向けなくても良くなった……なんて思っていたら、うっかり左右を間違えて彼の足を踏んでしまった。何事も油断はいけない。驚いてよろけたカーヴェを、アルハイゼンはすんなりと抱き留める。

    「今日はここまでにしておこう」

    ひょいと抱え上げられ、いつもの寝室に戻される。カーヴェは雀や文鳥のような小鳥ではない。にもかかわらず腕力のみでほいほい持ち上げるこの隼は、よっぽど力が強いのだろう。求愛給餌を受け入れた以上、強引に身体を繋げることも可能だったはずなのに、彼はそれをしなかった。大切にされているのがこそばゆくて、思わずきゅう、と甘えた声が零れる。

    「……君は俺の理性を弄ぶのが趣味なのか?」
    「え、あ……今のは、無意識で……」
    「余計にたちが悪い」

    アルハイゼンがまた、怖い目をしている。そんなことを言われても、嬉しかったのだから仕方がない。むしろ喜んで欲しい。カーヴェがここまで気を許した相手は、アルハイゼンだけなのだから。

    「悪戯してるわけじゃないよ。ただちょっと……大事にしてくれるのが嬉しかったから、気が緩んで……」
    「緩むな。俺の前で甘え鳴きをするなら孕まされる覚悟をしろ」

    もしかしてこの猛禽類、物凄く重いのでは?
    コンクリートで外堀を埋められたフウチョウは何かを悟ったが、当然手遅れだった。
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