お餅焼こうぜ餅が段々と色付くにつれ、香ばしい香りが辺りに広がる。ぱち。時折、火鉢に入れた炭が小さく爆ぜる音が聞こえる。
餅が焼けるのを待つ間、ふと空を見上げてみた。雲一つない、どこまでも広がる蒼穹。冬日和とは、正に今日のことを言うのだろう。きんとした寒さはあるものの、頬に感じる陽射しは暖かい。今日の洗濯物はよく乾くだろう。
視線を火鉢に戻す。太子は僕の隣に座って美味しそうに餅を頬張りながら酒を飲んでいる。餅には何も味が付いていないのだが、彼曰く、
「このままの方が米の本来の味が分かるのじゃ」だそうだ。
自分としては餡子などが入ってる餅の方が好きなのだけれど。
元旦から数日経って、天満宮への参拝客が少し落ち着いた頃、太子が新年のお祝いをしようと大量の餅と酒を土産に僕の家にやって来た。毎年、こうやって殖栗様や山背様と一緒についたお餅を持ってきてくれるが、本当に美味しい。
しかしながら米に関連した食べ物に対する彼の食欲は凄いとつくづく思う。この勢いだと、この餅も殆どが彼の腹に消えそうだ。
そういえば。
餅をひっくり返しながらふと思い出した。年末年始の忙しさと、連絡なしに急襲してきた太子の勢いですっかり忘れてしまったが、彼に新年の挨拶してをしていなかったっけ。
「太子」
新しく焼けた餅を彼に渡し、少し佇まいを正して向き合う。
「なんじゃ、あらたまって」
相変わらず口をもごもごと動かしながら太子が振り向く。さり気なく彼が背筋を伸ばしているのに気づき、やはり普段はおちゃらけても高貴な人なんだなとぼんやりと思う。
「今年も、よろしく」
一瞬きょとんとした顔をした太子だったが、すぐにこう答えた。
「うむ、今年だけじゃなくて、来年も再来年もよろしくな!」
そんな彼の笑顔は、まるで今日の陽射しのように暖かで。
ああ、本当に、今年も良き年になりますように。この世界の安寧と、昔から変わらず仲良くしてくれる友人達、そして新たに友人となった年若い兄妹の幸せを祈りながら、僕は餅を焼く作業に戻るのであった。