あらすじ妻と倅と3人で暮らす父。
父視点
ある日散歩に出掛けてある大木を見つける。その木には窓のような樹洞があって、覗き込むと美しい瞳を持つ男がいた。人間のようで同族にも似た雰囲気を持つその男は、自分を知っているような反応を見せた。どこかで出会ったことがあるのかと聞けば、「いいや」とおかしそうに否定される。そこからは他人行儀な対応をされる。
どうしてここにいるのかと問えば、住んでいるから。一人でかと問えば、夫と子どもとと言う。そこから話が弾んでいく。初めて話た気がしないくらい、息の合う会話に居心地の良さを覚えもっと仲良くなりたいと思う父。そこから出てきてくれないかと頼むが、ひとりでは外に出てくれるなと言われていると断られた。俺の夫はやきもち焼きだから、帰ってくる前にそろそろお前もここから去った方がいいと言われる。「気になっていたがお主の夫は幽霊族、ワシと同族ではないのか?」と聞く。
「まあ、それはそう、だな」
「なんと!わしら一家以外でまだおるとは!他にはがはぐらかされて答えてはくれない。「じゃあな。お前に会えてよかった」と柔らかく微笑まれて、のぼせた気持ちになり、また来てもいいかと問えば、「ダメ」と断られる。「では帰らない、お主の夫にお主を自由にさせるように文句を言うためにともに夫の帰りを待つ」と言えば、しぶしぶと言ったように「たまになら」と了承をもらった。
そこから毎日その場所は通う。
「俺はたまにって言った筈だぞ」
「ワシのたまには毎日じゃ」
暫定人間の男は、口では邪険にしながらも、妻や息子の話、今の暮らしの話をすると楽しそうに優しい笑みを受かべて聞いてくれた。目についたアイスを買って土産にすれば喜んだ。その笑顔が嬉しかった。
ある日遊びに行くと、暫定人間の男は小さな女の子と絵本を読んでいた。俺の娘と紹介された子は親と同じく美しい碧い瞳と黒髪を持つ。顔立ちもそっくりだ。そしてやはり同族の気配がする。「可愛い子じゃ」なぜだかその娘が愛おしくてたまらない。同胞の子だからだろうか。子どもを交えて話すのも楽しかった。
その晩、妻と倅から最近楽しそうと言われ、友達ができたと嬉しそうに言う。「うちへお招きしたら?」と言われてはっとした。あの男の夫は幽霊族かもしれないのだった。友は一人で出歩くなと言われてるし、子どもとともに癪だが夫の方も招けばいいのでは。鬼太郎が生まれてもたった三人の幽霊族。仲間がいると知れば妻も息子も喜ぶに違いない。今は秘密にしてうちに連れてきて驚かせてやろう。
翌朝、いつもより早いが、逸る気持ちを抑えきれず大木の前まで来た。そっと覗くと、小さな赤ん坊に授乳している水の姿。自分が来たのに気づき、さっとおくるみを赤ん坊にかけてしまう。
「何ジロジロ見てんだ、すけべ」
「いや、そんな、ジロジロなど見ておらんわ!」
「わかったから。少しあっち向いてろ」
「う、む。」
もういいぞと言われて振り返れば、赤ん坊はいなくなっていた。子どもを見せてほしいと言ったら、せっかく寝たからダメと断られた。
「今日は随分早いな?どうしたんだ?」
あからさまに話を変えられたが、本題はそれだと思い出し、お主の家族を家に招きたいとy伝える。
「気持ちはありがたいが遠慮する」
「なぜじゃ?妻も倅も同胞に会いたがっておる。ワシもお主にうちへ来てほしい。お主の夫に頼んではくれんか」
「……ごめん、本当に無理なんだ。お前ももう来るな」
そう気まずそうに言って、奥へ引っ込んでしまい姿が見えなくなる。樹洞から呼びかけるも返事はない。友の大木の棲家にはこの窓以外に外界との繋がりがない。中に入って追いかけることはできなかった。
もう来るなとも言われてしまった。もう会ってくれないのだろうか。妻も倅も出掛けていて誰もいない家にトボトボと戻り、ひとりごろりと寝転がって考えた。夫が嫉妬深いと言っていたし、自分と関わっていることを知らせたら怒られると思ったのかもしれない。まさかそれほどとは。あの男を独り占めにしている友の夫が憎い。今朝の赤ん坊に抱く姿を思い出す。あの美しい男が顔も知らぬ男の夫に組み敷かれる姿が思い浮かび胃の腑がやけそうになった。あんなところに閉じ込めて抑えつけてる男の何がいいのだ。自分なら……、自分なら?そこまで考えて頭を振った。あの男が望んであの場にいるなら自分は何もできないが、それでも少しでも窮屈だと思っているのなら助けてやりたい。自分たちは友になったのだから。それに、これっきりなんて嫌だった。とにかくもう一度話がしたい。
随分ひとりで考え込んでいたようで、家を出ると日が傾いていた。仕事帰りの妻から「どうしたの?」と聞かれて「友達に会ってくる」と言い残しあの大木を目指す。
走りながら進んでいくと、あの大木が見えた。その側に友ではない、黒い着流しの男が立っているのが見える。近づけばわかる同胞の気配。……こやつが友の夫か。そう思った瞬間苛立ちが再燃し、思わず近寄り腕を掴んだ。
「あんた!……っ!」
振り返った男の顔、それは自分と瓜二つだった。
「あーあ、とうとう会っちまったか」
驚き固まっていると、大木の樹洞から友が顔を出しているのが見える。小窓程度の大きさだったそれが広がり、友が赤ん坊を抱いて出てきた。今朝は見れなかった赤ん坊の顔。夜目の効く自分にははっきりと見える。その髪、肌色、顔立ち、どれをとっても自分にそっくりだった。
近づいてきた友を抱き寄せて、自分と瓜二つの男が呆れたように言う。
「まったく。何度記憶を消して引っ越しても、必ず水木を見つけるのじゃから、我ながら恐ろしい執着心じゃのう」
「な、何を言っているんじゃ?」
「なあに。あんたは何も知らんでよい。今回のこともじきに忘れる」
そう言って自分の額に指を突きつけられた。距離をとる間も無く、自分そっくりの男がかけてきた術によって視界が暗転する。
気がつけば、自宅の前にいた。
ガラリと玄関が開いて妻が顔を出す。
「あら、あなた。お友達は?」
「はて?……誰のことじゃ」
友達?誰のことだろうか。そして今まで自分は何をしていたのか。
「いやね、ここ何週間も浮かれてたのに。まさか化かされた?」
妻がおどけて言う。そんなバカな。幽霊族の男を化かす妖怪などそうそういないだろうに。でも、そう言い切れないほど、記憶がぼんやりとしていて何も思い出せなかった。
(種明かし)
みんなでなんとか村を脱出
父も母も元気になった!鬼太郎も無事産まれた!
これで万事解決のはずだったけど、大問題!父はもちろん妻を一番愛してるけど、水のことも好きになっちゃったぁぁぁ。水を選べないけど、水が誰かのものになったら嫌だぁ。苦しいぃ。
そこで術を使って自分を二つに分けることにした。水との記憶や水への想いだけを集めて分身を作る。本体は水を忘れて(村での記憶もぜーんぶ。妻や倅からも同様に記憶を消す)家族三人で暮らす。
父から愛の告白&「ワシの分身に攫われくれんか?」と提案された水は、「それでお前が幸せなら」と承諾。幽霊族親子から離れて分身父と暮らすことに!子宝にも恵まれハッピーエンドかと思いきや、分身父が母や鬼太郎に慈しみの気持ちを持つのと同じように、完全に分離しきれず本体父の中に残ってしまったわずかな水への思慕が、記憶がないながらも水を何度もを見つけ出してしまい接触を図ってくるので、その度に記憶を消して遠くに引っ越してるんだけど、なぜかいつも見つかるよ。そんなn回目の再会の話でした。