ふたりのごはん、ごちそうごはん「卵かけご飯? 贅沢だろうが」
テレビでから聞こえたどこぞの親子の「久々の旅行で贅沢しました! 明日からしばらく卵かけご飯で節約ね!」というインタビューにボソリと呟く。途端に、向かいの男がガタガタ、ガタン! とやかましく椅子を蹴立てて立ち上がる。
「…んが……」
「あ?」
「本官が頑張って養うでありまぁぁぁぁぁあ!!」
「おい」
「辻田さんが! 卵かけご飯を飽きるほど食べられるように!! そう、なんなら明日から三食卵かけご飯でも!!」
暑苦しい男――カンタロウが拳を握る。バキッと箸の折れる音がした。
「黙って食え!」
こんなことは日常茶飯事なうえ先日ついにチタン製の箸まで折りやがったので、最近は諦めて割り箸を使わせている。どんなゴリラだ。
しゅん、と腰を下ろしたところに新しい割り箸を放り投げ、目の前の皿に手をのばす。
「……俺はこっちの方がいい」
「!!」
いらないと何度言っても野菜を多めに入れ込んでくる、カンタロウ特製の肉野菜炒めから肉だけをつまんで口に運ぶ。
視界の端で震える肩にちらりと視線を向けると、赤い顔がこちらを向いた。
「つ、辻田さん、本官の手料理を……毎日……?」
そこまで褒めてないだろうが。単にいつものガサツな行動から想像したよりは美味いとか、その程度の話。別にこれを毎日食べたいかと言うと――
「――まあ、食べてやってもいいが」
ぽろっと口をついて出た言葉。何をどう解釈したのか、今度は歓喜の雄叫びとともに、割られないままま折られた割り箸の悲鳴が部屋にこだました。