えっちなバニーは正直大好きでありまぁぁぁぁぁ!!!! シンヨコクソデカムーンが紺色の空に煌々と輝いている。本当にでかくて無駄に明るい。それはもう腹立たしいほどに。
今夜もこの町の吸血鬼たちは月光を浴びて元気一杯のようだ。あちらこちらから雄叫びと悲鳴と怒号が響き、大通りを覗く度に目の前を吸血鬼と退治人の追いかけっこが横切っていく。
おい、なぜ大半が半裸のウサギ耳なんだ…?
イヤな予感がする。こんな明るい夜はさっさとねぐらを見つけて静かに過ごすに限るな――と路地裏の奥に引っ込もうと背を向けた瞬間、ぐいっと服の裾を引かれた。反射的に振り返ると、バーコード頭にウサギ耳を着けた半笑いの中年男と目が合う。
「我こそは吸血鬼逆バニーガールスコスコおじさん!! さあ君もレッツ逆バニー!!」
「知らん! 死ね!!」
振り払い、大通りに向けて蹴り出す。
「逆バニーはロマンだぁァァァァ!!」
と、叫びつつ倒れ込む男の指先が踵に触れる。しまった…! と思った時には服が弾け飛び、秋風が肌に直接触れるスースーとした嫌な感覚に包まれていた。
またか! また裸か!!
いや今回は裸よりもたちが悪い。身体を見下ろして愕然とする。
透けるほど薄いアームカバーとニーハイソックス。頭にはウサギ耳のカチューシャ。エナメルのピンヒール。それでいて、胴体部分には布一枚ないのはなぜなんだ。
大通りからはハンターに袋叩きにされるオッサンの悲鳴が聞こえる。今こんな姿で出ていけるような状況ではないが、このまま路地裏に潜んでいても服を得られる手だてがない。クソッ、八方塞がりだ。
無防備な股間を押さえて怒りに震えていると、こんなときに一番聞きたくなかった声がした。
「ああっ! そこの人、本官の上着をお貸しするでありま…!! 辻田さん!? 辻田さんでしたか!!」
「そんなやつは知らん!」
「本官が辻田さんの匂いを間違えるわけがありません!」
「その恥ずかしい判別方法はやめろと言っているだろうが!!」
思わずツッコんでしまったのが間違いだった。
路地裏の奥に逃げ込む暇もなく、一瞬で距離を詰められる。
顔を背けるも、抱きつくようにして巻き付けられた上着を振り払うには惜しい。ワナワナと三度ほど手を開いたり握ったりする間逡巡して、諦めと憤りのブレンドされた溜め息を吐いた。
「……もういい、お前は向こうに戻ってとっとと仕事しろ」
「被害者を送り届けるのも仕事のうちであります! 辻田さんならばなおのこと! 一人にさせるわけにはいきません」
そう言いながら、身体に回した腕をほどこうとしない。
ジリジリと逃げようとするも、ぴったりとくっついたまま路地裏の奥に着いてくるカンタロウ。執着されるのは悲しくもいつものこととはいえ、不格好なダンスのように抱きつかれたまま一歩、二歩と暗がりを進むにつれ、その違和感に気づいてしまった。
「……オイ」
半目で睨めば、口笛を吹くように口を尖らせたカンタロウが照れ笑いを見せる。
「辻田さん…本官どうやら、緊急事態のようでして。主に下半身が」
腰の辺りに擦り付けられる熱い昂り。
吸対の制服を押し上げるようにカンタロウの股間の破城槌が起動している。やめろ! それをこっちに押し付けるんじゃない!!
「ど! う! し! て!! こんなところでサカるんだ!!」
「月が綺麗だからであります!!」
「……本音は?」
「辻田さんのバニーがえっちだからでありまぁぁぁぁす!!」
清々しく言い切る阿呆を目の前に、思わず口を開けたまま黙り込む。いや、この格好だぞ!?
「辻田さぁん……」
甘さを含んだ呼び掛けに、いつぞや吸対の独身寮に連れ込まれてぐずぐずに溶けるまで犯された記憶が蘇り、思わず尻に力が入る。
クソッ、どうして俺はコイツからの誘いを断れんのだ………!!
「……後悔するなよ」
パッと顔を上げて目を輝かせるカンタロウに、ここではお前の家のように好き勝手はさせてやらんぞ、と自分でもよくわからない闘争心のようなものをたぎらせて。
ふと路地裏から見上げた細い空、浮かぶシンヨコクソデカムーンはにやにやと覗き込む瞳のようにも見えた。
きっと今日の夜はこれからが長い。