どうしようもない彼は自身をしがない博打打ちだと名乗ったけれど、そんな嘘に騙される女がいるだろうか。それとも騙された振りを涼しい顔で出来るのが本当のイイ女というやつなのだろうか。だとしたら、私には到底出来なさそうだった。それなりに年齢も経験も重ねて、大体のことは割り切って見切りを付けられるはずだったのに。
年齢の割に衰えの気配が感じられない身体、その癖全て見通しているような老獪な瞳とか。こちらの我儘も背伸びも楽しむような余裕と思わせぶりに翻弄する言葉選びをすると思えば、ささやかな気遣いでも宝物を見つけた少年のようにはしゃぐところとか。振り回されっぱなしで、自分がただの小娘であるように感じるのは致し方ないのだろうか。ふらりと消えてはまたひょこりと戻ってくる様子を見ても、各地に私のような女がいるのだろう。どうしようもない。
「とっとと結婚でもしておけば、こんな男に引っかからなかったのかしら」
「どうだろうね。君が既婚者だったとしても私は君に出会ったら、あの時のように口説いていただろうから」
「人妻にまで手を出すの?呆れた」
「わはは、そりゃあね。宝を見たら手に入れずにいられないのさ」だから、
私から逃げるのならば、本気で逃げなさい。海の果てだろうと私は1度手に入れた宝を手放しはしないよ。
微笑む彼の眼はその言葉が真実であると語っていた。ここ最近私が及び腰になっているのを気づかれたのだろうか。だって仕方ないじゃない。昔のあなたであろう手配書を見つけてしまったのだから。
只者では無いとは感じていたけれど、かの海賊王の相棒だなんて。