なんでもない日の、日付も変わりそうな頃。二人は取引先との会食後行きつけのバーで飲んでいた。スーツのままカウンターに並ぶ。愛を囁く恋人同士のように近寄るわけでもなく、たまたま隣に居合わせた客にも似た距離で椅子に腰かけている背中は、傍から見れば二人がパートナーだと気付かないかもしれない。
マルコの役職が上がっていく度に外で飲む機会は減った。それでも今日珍しくグラスを傾けているのは、彼が部長になった日を祝ってのことだ。
「あっという間。」
「全くだ。お前から言われなかったら気付かなかったよい。」
いつもより強めの酒をぐっと流し込むマルコは機嫌が良さそうだ。
「それすらいつものことでしょう。」
ゆったりとした会話。沈黙すら心地良い。
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