主張出勤前にドタバタと支度をする彼の様子を見ながら優雅に朝食のトーストを齧る。うん、今日も完璧なさっくり具合。
「なぁ俺のベルト知らねぇか」
「そこの椅子に掛かってるよ」さっき自分で引っ掛けてたじゃない、と言えば、そうだったドジった!とベルトを付ける彼。
「あ、ちょっと待って」
ふと思い立ってシューズボックスの上に置いてあるものを持って戻る。
「はいバンザイ。そのままね」
締めたばかりのベルトを緩めスラックスのボタンを外す。私が突然し始めたことにきょとんとした後何を勘違いしているのか慌てだす。
「ちょ、えっ、朝から何やってんだよ俺今そんな時間無いんですが」
無視してシャツを引き抜いてから持っていた香水を腰にワンプッシュ。上の方から奇声が聞こえたけれどこれも無視。シャツも緩めたウエストも元に戻して完了の意味で腰をぽんと叩く。
「はいOK。わたしのだけど男女兼用だし腰ならそんなに強く香らないから。行ってらっしゃい」
ポカンとしたまま上げた手が下りないので鞄を持ってあげて、背中を押して歩く。玄関でやっと降りた腕に鞄を渡せばもにゅもにゅと口許が何か言いたげだったので促してあげれば、
「なんで突然香水なんだ…?」
なんて分かってるくせに聞くのでこの男は存外朴念仁のフリした言わせたがりだなと溜息が漏れる。オコトゴコロと言うやつなのか。今更少し恥ずかしくなってきて
「定時で帰ってきてくれたらゆっくり教えてあげる。それより早く行かないと遅刻よ大佐殿」
扉を開けて追い出すように誤魔化した。途端ハッとした顔で
「絶対だからな!行ってくる!」
と長い脚をだばだば動かして走って出勤していった彼が、帰宅するなりキッチンにいたわたしに
「一日中お前の匂いが近くて発狂しそうだったんだ」
と噛み付いてきたのはさすがに想定外だった。