無題【彰絵名】 どかりと隣に腰を下ろすものだから、私の身体も揺れた。大きく吐き出される息は充足感に満ち溢れている。
「おつかれ」
「おー」
ソファーに沈む彰人は、どことなく心ここに在らず。余韻に浸ってぼんやりしているようだ。
大きくはない箱にこれでもかとお客さんが集まっていて、みんな、彰人たちの歌に夢中だった。プロのミュージシャンとして活動をするVivid BAD SQUADが、数年ぶりにビビッドストリートで開いたイベント。彰人や杏ちゃんがまだ小学生だった頃から見守ってくれていた人から、プロになってから知ってくれた人まで、全員が彰人たちの音楽に夢中だった。
あの熱狂の真ん中にいた1人が、今隣にいる。こうして並んでいるとライブハウスでの姿は想像もつかない。大勢の人の向こうで歌う彰人はたしかにかっこよかったのに、今は溶けてるみたいにソファーに身体を預けてだらしない姿を曝している。スマホを取り出して、カメラを彰人に向けて、シャッターを押す。パシャ、と音が鳴って、彰人がこちらへ目を向けた。
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