光のお隣さん/第二話「なんだ、繁盛してるじゃないか」
引き戸を開けられた瞬間に反射で飛び出す「いらっしゃいませ」を、すんでのところで飲み込んで、カウンターの内から睨んだ。安堵と失望を混ぜ合わせ、さらに無礼でコーティングした声。果たして店の入り口には、長い銀髪を一つに括った、見た目だけなら絶世の美男がすらりと立っている。名は、エスティニアン・ヴァーリノ。大学時代からの腐れ縁だ。一応スーツを着てはいるが、終業と同時にネクタイを抜かれた襟は寛げられて、またその姿が腹立たしいくらいにさまになっている。
「そりゃ、オープン直後だからな。最初は何もしなくたって、物珍しさで来てもらえるさ。腕が問われるのは、これからだ」
予約していたかのような足取りで入ってきた男が、カウンター席に就いたのを確かめてから、小声で返す。この野郎、引き戸が開けっ放しだ。自分の手で開けたくせに、自動で閉じるとでも思っているのか。
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