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    ganiwaoo

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    nnmt夢つづき

    病弱許嫁② 体育委員会委員長の七松小平太といえば、広くは豪放磊落、傍若無人、いけいけどんどん!である。しかし関係を密にする同委員の後輩らは皆んな誤解されがちな彼のことを慕っていた。
     今日も今日とて委員会の時間である。雲一つない晴天のこの日、裏裏山までいけどんマラソンか、いやいや裏裏裏山だ、まさかこんな天気の日に備品管理なんてしないはず。なんてのんびり駄弁っていると、「おーい」と遠くから待ち侘びた先輩の声がする。皆んな一斉にそちらを向いて、一瞬で度肝を抜かれた。

     だって、あの七松先輩が!くのたま抱えて歩いてくるんだから!

    「な、な、な、な、七松先輩!?」
    「ちょっと先輩!流石に!流石にそれはアウトです!」
    「くのたまの子勝手に拾ってきちゃダメですよ!!」
    「元の場所に返してきてください!!」
    「お前ら言いたいことはそれだけか?」
     いつもよりずっとゆっくり歩いてきた(なんかもうそれだけで怖い)七松小平太が、口元ばかりでにこぉ…と笑ってそんなことを言うものだから、後輩たちは「ヒッ」と怯え切ってお互いを抱き締めあった。
    「小平太様、小平太様……」
    「ん?」
    「下ろしてくださいまし。皆様にご挨拶申し上げたいのです」
    「良いが、あまりうろうろしないでくれ。至る所に穴がある」
    「穴が…?」
    「池にも近づくな。寝ている奴がいる」
    「忍術学園ではモグラや河童を飼っておられるのですか」
    「似たようなものだ」
     小平太がそろりと丁寧にくのたまを下ろしてやるのを、後輩一同はもうずっと驚愕の表情で見守っていた。
     なまっちろくて青ざめた、線の細い痩せぎすの女だった。後ろに括った長い黒髪が宝石みたいに艶々と光っているのが印象的で、目尻が垂れているのが優しげで。こんな子くのたまにいたかしら、と皆んなが首を傾げていると、その子はぺこりと腰を九十度に曲げてお辞儀をした。
    「お初に御目文字仕ります。本日より行儀見習いとして、くのたま教室に在籍させて頂くことになりました。白雪と申します。短い間になろうかと存じますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます」
     わっ、丁寧な子ぉ…。皆んなはぺこぺことお辞儀を返して「よろしくね!」と言った。
    「で、どうして七松先輩に担がれてたんですか?」
    「いやなに、学園長先生から直々に頼まれてな」
    「学園長先生、七松先輩に頼むなんて」
    「耄碌したのかな」
    「いつもの思いつきだろ」
     
    「──そうかそうか!お前たち!そんなに体力を持て余していたのか!」
    「アッ」
    「まずは校内三十周!!それから塹壕掘り!!最後にバレーだ!!いけいけどんどーん!!!」

     ひーん!と泣きながら散り散りに駆けていく後輩たちを見送った小平太は、勢いに目を白黒させている女を思案げに見遣った。
    「……◯◯と名乗らなくて良かったのか?」
     きょとんと見上げてくる顔が心底不思議そうで、小平太はすんと口を閉じると、「白雪はここで待っていてくれ!三十周などすぐ終わらせてくのたま長屋まで送る!」と、すでに走り出しながら言った。


     小平太の奇行はあっという間に学園中の噂になった。
     元来、六年の委員長連中とは良くも悪くも後輩たちから大注目を受けており、何かあると学年の上下に関わらずすぐ知れ渡るのである。ついでに話題に上がるくのたまについても興味が尽きない。だが彼女の方は基本的にくのたま長屋と教室を行き来するだけで、ほんのたまに小平太に担ぎ上げられて体育委員会の活動を見守る程度で、忍たまたちは彼女のことをよく知らない。
    「それで。そろそろ説明してくれても良いのではないか?」
    「説明とは?」
    「しらばっくれるな。例のくのたまのことだ」
     騒がしい朝の食堂で、味噌汁に口をつけている小平太の右隣に立花仙蔵が腰掛けた。左隣に文次郎、向かいの席には長次、伊作、留三郎と、大変珍しいことに六年の各委員長が勢揃いしている。
    「最初から言っているだろう。学園長先生からの申し付けだ」
     小平太がのんびり答えると、文次郎が指をびしっと差しながら「そこだよ」と言った。
    「どこだ!」
    「なぁんで学園長先生がわざわざお前に頼むんだ?」
    「そう。それもあんなに線の細い女子」
    「委員会活動なんかに連れ回して、あの子そのうちぶっ倒れるぞ」
     四方八方からやいやい言われても小平太は顔色一つ変えない。むしろウンウン頷きながら沢庵を齧っている。
    「もそ…」
    「うむ、その懸念もわかるがな」
    「もそ…もそ…」
    「そうはいってもなぁ」
    「いや何て?」
     周りの困惑をよそに、小平太は空の食器が並んだお盆を持って立ち上がった。文次郎が思わず「おい逃げるな」と手を伸ばした瞬間、爆弾が落とされたのである。

    「なんせわたしの許嫁殿だからな!」

     食堂は一気にカオスと化した。
     耳をダンボにして聞いていた五年以下も全員驚愕の表情で立ち上がる。
    「マジかよ!おま、そっ、マジかよ!」
    「エッ!!なに?!どういうこと!?」
    「なあ!!それもう委員会に託けてイチャイチャしてただけじゃん!!!なあ!!!!」
    「三禁!!!三禁!!!」
    「教えはどうなってんだ教えは!!!!」
    「だって、だって先輩!!好きなタイプはお尻がでっかい子って言ってたじゃないですかー!!!」
    「活発なのがタイプって話じゃなかった?」
    「えっ?熟女好きって言ってたでしょ!」
     あまりの騒ぎに食堂のおばちゃんがブチ切れて表に出てきたときだった。
    「あの……」
     途方に暮れた女の小さな声に、その場は瞬間冷凍されたみたいに静まり返った。全員の視線が入り口の方へ向かう。
     生ゴミを見下ろす目付きをしたくのたま連中の真ん中に、いつもの青白い顔を真っ赤に茹で上げた話題の女がいた。
    「こ、小平太様は」
     男どもにどつかれたり押されたりしながら小平太は女の前に踊り出た。もうとんでもねえ空気である。流石のおばちゃんもハラハラが止まらない。
    「お、お、お、お尻が大きくて、活発な、じゅ、熟女好きって、ほ、本当ですか!」
    ──無理だ!これ全部聞かれてる!
    ──だめだ、終わった。
    ──ここから入れる保険があるんですか?!
    ──矢羽音の無駄遣いやめれる?
     皆んなは固唾を飲んで小平太の返事を待った。しかし待てど暮らせどウンともスンとも言わない。怪訝に思った伊作が小平太の肩を揺すった。
    「小平太?小平太!……し、死んでる」
     小平太は立ったまま白目を剥いて気絶していた。


     委員会委員長の六人はそれぞれ頭にどデカいたん瘤をこさえて六年い組の部屋に集まっていた。この中で一番物が少なく整理整頓された部屋だったからだ。
     今朝の騒ぎは教員らに届き、台風の目である六人に一発ずつ雷が落とされた。今日の授業はどの教室も浮ついて締まらなかったのもついでに怒られた。それウチらのせいじゃなくね?みたいな顔をしたので説教は長引いた。
    「あーあ、いってえな」
     葬式みたいな空気の中、留三郎が頭を摩りながら努めて明るく言った。伊作も便乗してこくこく頷いて笑う。
    「ほんと。先生の拳骨久し振りだなぁ」
    「出来れば二度と貰いたくないがな」
     アハハ…と薄気味悪く五人が笑う。
    「で……なんだけどさ……」
     留三郎は膝の辺りを指でとんとん叩きながら、ものすごく喋りづらそうに続けた。
    「小平太。お前の女の好みってあれマジ?」
    「うわ言った!」
    「いや!だってまずはそこからだろ!?」
    「どうなんだ小平太、尻でか活発の熟女なのか!?」
     小平太はさっきからずっと、大きな体躯をちんまりと折りたたんで、しょぼしょぼと畳の目を数えていた。
    「…………熟女までは言ってない」
    「あー…」
    「活発も…違う…ただ元気な子が良いと…」
    「つまり尻でかは事実か」
    「そんな話一体いつ流出したんだよ」
    「ちょっと前に実習で大きな町屋敷に潜り込んだ連中がいただろう?奴らが酒をちょろまかしてきてな、皆んなで飲んだ夜だ」
    「俺の部屋に壊れた箪笥が落ちてた日か!」
    「ああ、実習から戻ったら僕の寝る場所がなくなってた」
    「あの馬鹿騒ぎの夜か」
     ふー、と一同は重たいため息をついた。なんかこれ自業自得では?みたいな空気も流れてきた。小平太はまだ畳の目を数え続けている。
    「私からも一ついいか?」
     仙蔵がちらりと小平太の方を見て言った。
    「この辺りの大名に、白雪という名の娘はいないのだが」
     小平太もちらと仙蔵を見た。
    「うむ。通り名だな。屋敷では白雪の方と呼ばれていた」
    「なるほど。察するに武家方だな」
    「許嫁っていつから決まってたんだ?」
    「五年ほど前か。顔合わせはつい最近だ」
    「好きなの?白雪さんのこと」
     伊作から豪速球のストレートが放たれて、皆んなひゅっと息を呑んだ。遠慮して触れなかったところを純粋無垢な顔してこいつ。
     小平太は◯◯の顔を思い浮かべた。
     初めて会ったときの人形じみた顔。
     くだらない話を聞いてくるくる変わる顔。
     委員会の活動で肩に乗せたまま裏山まで疾走したときの顔。
     青ざめたあの頬に血色が宿ると、まるで世界に極彩色の花が咲いたようで、小平太はいつも、調子が狂ってしまうのだ。
     小平太は衝動のままに頭をしゃにむに掻きむしって立ち上がった。
    「……ッ結婚に!惚れた腫れたは無用だ!」
    「小平太…」
    「好みなどでなくたって……わたしは!嫁と迎えた女は全力で愛し抜いて死ぬ気で守る!それだけだ!」
     五人は小平太をぽかんと見つめていたが、うんと頷くと立ち上がって小平太に抱きついた。
    「そうだな…!それでこそ俺たちの七松小平太だ…!」
    「小平太!」
    「小平太!!」
    「万歳!小平太!万歳!!」
     五人は小平太を担ぎ上げて部屋を出ると胴上げしながら練り歩いた。普通に先生に見つかってめっちゃ怒られた。
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