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    sinsei_wasio

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    sinsei_wasio

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    片腕ない子と恋の諸々

    幸せには程遠い奴との出会いはそこまで悪いものではなかったはずであった。だが、奴のことを理解する日は一生ないだろう。
    「お前がやってることは人助けでもなんでもない。お前の、お前の自己満足でしかない」
    生き方を否定したくてそう叫べば目の前の奴は困ったように笑って少し首を傾げる。
    余計に俺のストレスは溜まる。知っている。俺の方がずっと自分勝手で最低な事くらい。いくら叫んでもこのイライラは無くならないことくらい。
    時間の流れが止まっていると錯覚してしまいそうな真っ白で静かな病室に俺の叫びだけが響いていた。
    心臓が痛かった。もっといえば心が痛かった。いくら俺の命を差し出したとしても、世界をお前の為に滅ぼしても、こいつは、叶谷はもう人としての幸せを手に入れることも普通に生きる事もできない。何があっても覆せない事実だ。いくらわかっていても納得いかない俺は、俺の口は叶谷を困らせるだけにも関わらず動くのだ。そして傷つける事ばかり吐き捨てるのだ。お前を傷つける口なんていらないのに。
    「普通に生きるのはできないかもしれないけど、お前が望むなら俺はなんだってやる。だから、自分の為に残りわずかな残りの命くらい使ってくれよ。頼むから、知らない奴の為に命も身体もすり減らさないでくれよ。そんなお前の姿俺は見たくないんだよ」
    声は震えていたしいつの間にか涙はボロボロ流れるし、嗚呼最悪だ。全て悪夢だったらどれだけいい事か。
    どうせもうこいつは俺が誰かも、俺との出会いも、お前が愛用してるパーカーを誰に貰ったかも、俺の言ってることもろくにわかりも覚えもしてないんだろうけど。
    数十分経てば頑張って覚えた事全てが記憶から消える、そんな生きるのが怖くないはずない奴に向かって言うことじゃない事を一方的に吐き捨てて俺は何をしてるんだろう。こんな事を言ってもこいつが変わることなんてないのに。人助け以外の生き方を知らない奴に自分の為に生きていい事を教えられなかった人間に俺は本当に最低だ。生き方を否定すれば死ねって言ってるのと変わらないのに。
    こいつに死が近づいてる事実を消せやしないのに。
    それでも、もう俺より先にいって欲しくなかった。傍で笑ってて欲しかった。俺にとってお前は俺が生きるのに必要な光なのに。
    「えっと、ごめん。僕、何にも思い出せなくてさ、自分の名前も出てこないし、君が誰かもわからないし...。でもすぐ思い出すからちょっと待ってて。その口ぶりだと多分僕にとって大切だったんだろうし、すぐ、思い出せるはずだからさ」
    わかりきっていた返答と俺を安心させるような笑顔。いつものやり取りだ。何千回目の初めましてになってもお前は優しい。俺はお前に優しくしてやれてないのに。
    「思い出せやしないんだ。無理するな。俺は気にしてない」
    面と向かって言えはしない。きっと殆ど声にならなかった。叶谷がキョトンとした表情で見つめてきた。作り笑いをしたら嬉しそうに叶谷が笑った。本当に理解できないよ。お前の事もお前の幸せも。
    少し安心したのか叶谷は寝た。きっと起きたらまた初めましてだ。
    静かに病室の扉が開いた。俺の目線には人の姿は無いかなり目線を下げてその人物を見ることが出来たが、この病室にくる人間なんて俺を含め2人しかいないのだから何となくわかっていたが。女性と言うにはあまりに幼さが残る身体に不自然な子供がすることの無い大人な表情に言葉遣い。前に会った時よりも背は低くなっていたし、見た目の幼さも前より酷くなっている。彼女もまた俺にとって叶谷と同様理解できない人物の1人だった。
    彼女の見た目に強烈な違和感を覚えた。前あった筈の右腕がないのだ。腕があるべき場所は服の袖がぶら下がっているだけだ。
    「あら、貴方と会うのは久しぶりね。久しぶりっていう仲ではないけれど。叶谷は寝てるのね。良かったと言うべきかは悩みどころだけども。」
    彼女、一歌は澄んだ声でそう告げる。叶谷とは違って表情は固く笑ってるところなんて見たこともないし想像もできない。
    俺が返答に詰まっていると俺が聞きたかった事をあまりにあっさりと答えてくれた。
    「右腕、前までは義手つけていたのだけど身体が幼くなる度に新調しなきゃいけなかったから面倒だったの。それにあってもなくても殆ど変わらないもの。無意味で邪魔なだけで、資源の無駄だから弾に変えたの。」
    一歌はまるで他人事のようにそう呟いた。
    ようやく絞り出してでた声はそうか。という一言であった。そもそも俺と一歌の関係は彼女も言った通りそういった関係ではない。だから俺が何か彼女に言うのはおかしい話なのだ。
    「てっきり貴方は早めに死ぬと思ってたけど、なんだかんだ私より長生きしそうで安心したわ。それに貴方が生きるのを手伝ってくれる人もいるんだもの。」
    寝ている叶谷に向かって彼女はそう語りかけた。その口振りじゃまるで死を悟ったみたいじゃないか。
    彼女の強さは俺は知ってる。そう簡単に死ぬような人間じゃないことも。彼女の存在を邪魔に思ってる人間が何度も彼女を殺そうとして失敗しているのだ。ならもう可能性は1つしかない。
    「死ぬ気なのか。お前ならまだまだ生きることはできるだろ」
    自分の拳を強く握りしめてそう言った。
    生きれるなら生きれるだけ生きた方がいいに決まってるじゃないか。何故自分の命をそんな簡単に捨てようとするんだ。何故。なぜいつもお前らは
    「栞枝、貴方そんな力込めたら唇も手のひらも切っちゃうわよ。傷出来たら痛いでしょ。貴方は真っ当な人生を送れるんだからもう少し自分の身体を大事にした方がいいんじゃない。」
    嫌になるくらいお節介で優しいんだよ。
    「私、叶谷と違って優しくなんてこれっぽっちもないわよ。だって、私は人形ですもの。あの人の宝物が守れればそれでいいもの。いいえ、良かったの方が正しいわね。少しは私も人間臭くなってしまったようだし。」
    その場にいる事が出来なかった。だってこの場にいたら俺の知らないあいつの話を聞くことになるから。知りたい。でもあいつの口から聞きたいし、もう過ぎ去った日々を俺があいつと過ごせる訳じゃないんだ。
    お前なんか嫌いだ大嫌いだそうなれたらどんなに楽なことが。なのにまだ期待してるのだ。そんな期待全て無駄なのに。「栞枝」って俺の名前を呼んで楽しそうに話しかけてくるそいつの顔を。
    こんな俺居なくなればいいのに。お前の笑顔を思い出してはなんにもできなくなって立ち止まる。お前は酷いやつだ。ずるい奴だ。
    お前が俺にトドメを刺してくれたらきっと俺はその瞬間世界一の幸せものになれるというのに
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