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    A84701820

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    A84701820

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    完結まで書くの心折れそうなので、とりあえず一話上げます。予定では5〜7話くらいになる予定です。
    小説書くの久しぶりすぎて稚拙にも程があるんですが、何とか書き切りたいです。
    本編はCP無しのつもりで書いてますが、作者がローコラ脳なので若干異臭を感じるかもしれません。
    内容とあらすじはタイトルが全てです。

    運命の島ミニオン島にシュガーがいたIFストーリー視界に映るのは一面の白。ここから離れなくてはいけない、その一心で石のように重たい脚を必死で持ち上げてやっとの思いで一歩を踏み出す。肺を突き刺す凍った空気に、身体全体を埋め尽くす勢いで吹き荒ぶ雪。
    本当に自分は前へと進めているのか不安で、でも後ろを振り返る勇気も気力も残ってはいなかった。

    なんで、俺はこんなにも必死で生きているんだろう

    半年前までは、確かにこれから訪れる死を受け入れていた。自分も故郷の家族や友人、シスターたちと同じような運命を辿るのだと。その時が訪れるまでの時間を、せめて有意義に復讐に費やそうと。
    でも何故か、俺は海へと飛び出した。死に損ないの痩せっぽちな子どもの世話を焼いてくれた恩人であり、我らが王であるドフラミンゴを裏切って、大っ嫌いな病院をいくつも回って、政府の人間から逃げ回った。

    なんのために?

    体温の低下によるものとは別に、身体が震えて呼吸が引き攣る。
    今朝まで確かに、自分には希望があった。死んではいけないと自分の中のもう一人が熱く語りかけていた。それが今はどうだ、念願のオペオペの実を偶然手に入れて、病に打ち勝つ力を手に入れて、ファミリーの目からも逃げ果せた。暗闇の中、針の先ほどしか無かった光が、眼前の手が届くところまで来ている。それなのに、自分にはもうそこへ手を伸ばす気力が無かった。

    雪に埋まった足が上がらない。呼吸が苦しい。吸っても吐いても胸が苦しくて、ナニかが込み上げてくる。でもソレの正体がわからない。
    動きを止めた身体が、重力に従って頽れる。顔の半分が雪に埋まるが既に冷たさは感じなかった。

    ?…あったかい

    自分の瞳からとめどなく涙が溢れている。それに気づくのに時間がかかった。何故。生への未練など何もないはずなのに。
    どれくらいそうしていただろう、霞ゆく意識の中で何か柔らかいものに包まれたような気がした。








    次に目が覚めた時、視界に映ったのは木でできた簡素な天井だった。おそらく遭難者用の山小屋なのだろう。大きな暖炉の中を轟々と炎が燃えるその横で、火だるまになった何かが慌てふためく様に走り回っている。

    …夢か?

    燃え上がる何かは、そのままの勢いで外に飛び出すと、少しして帰ってきた。積もった雪で消火したのだろう。先ほどまでの慌てようが嘘のように、貫禄すら感じるゆったりとした足取りだった。いや、何を今更取り繕ってるんだよ。
    こいつが俺を助けてくれたのだろうか

    「おまえ、だれだ」

    ひりつく喉の痛みを抑え込んで、精一杯の威嚇を乗せて告げた言葉に、懲りずに暖炉へ近付こうとしていた人物が振り返る。
    その様相に愕然とする自分を他所に、件の人物は両手を振り上げて跳ねるように距離を詰めて、その柔らかい腕で俺を抱きしめた。否、人物という表現は的確ではないかもしれない。
    俺を抱きしめた正体不明のそいつは、左目にハートがペイントされた大きなピエロのぬいぐるみだった。

    「離せ」

    焦げ臭いうえに、氷で湿った布と綿の塊に抱きすくめられる不快感に、自分で思っていたよりも低い声が出た。俺の声に、怯えたようにびくりと震えたピエロは、そっと離れるとまじまじと此方の顔を覗き込んできた。ペイントが施された左目を指差したり、何かを訴えかけるように両手を広げたり、おそらく敵意はないのだろうということだけはなんとなくわかった。

    お前が助けてくれたのか、と問えば、ピエロは曖昧に頷いたあと顔を伏せて動かなくなった。

    「お前は何ものなんだ」

    ピエロは全身、特に首下から腹の辺りまで損傷が酷く、何箇所も布が破れて綿が飛び出していた。そう、綿だけで、血も肉も、先ほど抱きしめられた感覚から骨すらない。痛くないのかと聞けば、やたら自慢気にこっくりと頷いて胸を反らせる。テンションがウゼェ。

    結局、ピエロは俺の質問に答えることなく、小屋中の毛布をかき集めて俺に被せると、子どもを寝かしつけるようにポンポンと優しく胸を叩く。母が生きていたときですら、そんな行為はずっと幼い時の微かな記憶だというのに、何故だかとても慣れ親しんだ感覚がして、あろうことかそのまま睡魔に身を任せてしまった。
    これは朝から歩き通しで疲れていたから仕方がないのだと自分に言い訳をしながら、何故か、涙が溢れていた。

    斑模様の丸い頬を濡らす液体を、白くて丸い、ざらりとした布の表面が拭う。
    黒くて丸い二つのボタンが、少年が寝付く様子をじっと見守っていた。







    次に目が覚めた時、窓からは朝日が昇っていた。ピエロの姿は無かったが、ローの私物は何一つ欠けることなく、頭上にまとめて置いてあった。
    毛布を畳んで、ボロボロになったコートを羽織って、奴が帰ってくる前にと扉に手をかけた時になって漸く、自分はどこにも行く場所はないことに気付いた。
    今更だ。寧ろ何故今まで気付かなかったのだろう。帰る故郷はもちろん、ドフラミンゴの獲物だったオペオペの実を横取りしたのだから、ファミリーにも帰れない。家族も友人も仲間もいない自分がこれから一人で何ができるというのだろう。

    何故自分はオペオペの実を食べてしまったのだ。ドフラミンゴから電伝虫でその存在を聞いたとき、幹部の誰かに食べさせて治療してやると言われた。実の取引が終わったら合流するからミニオン島にいるように言われて、大人しく取引が行われる建物の近くで待っていた。それが突然、建物が爆発して、爆風に乗ってオペオペの実が目の前に飛んできて、気付いたら食べていた。

    思い出しても、奇跡のような偶然が重なりすぎているし何故自分がそうしたのか分からない。それは昨日に限った話ではなく、ここ半年を振り返ると、まるで誰かに乗っ取られていたのではないかと錯覚するほど、自分らしくない行動の連続だった。何故、何故、何故、昨日から何度浮かべたか分からない疑問がとめどなく溢れる。

    結局、雪道をあてもなく歩く気力など湧くはずもなく、先程畳んだ毛布の束の上に倒れ込む。
    皮肉にも、絶望に打ちひしがれる心に反して、久しぶりに身体の調子が良かった。
    進むなら今だ。進んでどうする。どこへ進む。なんのために

    考えれば考えるほど、思考は迷宮へと迷い込む。どれくらいそうしていただろう。扉の開く音に意識が引き戻されて、音の方を向けば、そこには昨日ぶりに会うピエロがいた。
    身体中が小枝や葉っぱにまみれて、あちこちが泥で汚れている。
    モコモコの腕は、大量の薪と小さなザルを抱えていた。
    表情は変わらないが、飛び跳ねるような足取りで薪を片付けると、自信たっぷりにザルをこちらへと押し付ける。中を覗けばそこには、赤い丸い木の実がザルの三分の一ほど入っていた。

    縫い付けられた表情は、常にわざとらしい笑顔を浮かべている。それでも今は、このピエロは本当に心から笑っている気がした。
    こんなボロボロになって、もしかしたら一晩中、薪と食料を探し集めていたのだろうか。こんな極寒の中、実る食料などたかが知れている。その僅かばかりの食料を自分のために

    反射的に押し付けられたザルを受け取ると、ピエロは空いた両腕をオロオロと振り上げ出した。一体どうしたのだと、見つめようとしたら歪む視界。ああ、またか。思った時にはボロボロと涙が溢れていた。見苦しいから早く止まれ。そう思うのに、身体は言うことを聞くどころか、獣のような慟哭をあげる。

    「う、うぅっ、うあぁああ、ぁあ」

    この変な生き物への疑問とか、これからの行動とか、考えなくちゃいけないことはたくさんあるはずなのに、今の自分の胸を満たすのは圧倒的な安堵だった。良かった。帰ってきてくれた。こんな間抜けそうなピエロ、今までの人生で出会ったこともないはずなのに、何故か欠けていたピースが嵌ったような、心の中にあった隙間が埋まった感覚があった。

    昨日拒絶されたことを覚えているのか、おずおずと遠慮がちに伸ばされた腕に応えるように、綿で出来た身体を力一杯抱きしめた。体の奥から湧き出る言葉に出来ない感情たちが、声と涙に変換されて会ったばかりの動くぬいぐるみの腹を汚す。
    どれだけそうしていただろう。力を込め続けた指先の感覚が無くなり、酸欠と疲労で頭がふわふわする。だからきっとそのせいだ。普段だったらこんな殆ど初対面の人間には絶対に言わないことが口から溢れてしまったのは。

    「おれ、もうすぐ死ぬんだ、たぶん、いっしゅうかんも、もたない」

    言ってどうなるわけでもない。
    可哀想にと同情されたいわけでも、このお人好しそうなピエロを困らせたいわけでもない。
    助けてくれてありがとうと一言伝えた後で、どこかでこっそりひとり野垂れ死ぬ。それがこいつにとって一番後腐れが無く、自分に出来る最善だった。それでも、そうすべきだと分かっていたのに出来なかった。
    俺の背中に回っていたピエロの腕が離れていく。
    また、元気付けようと腕を振り回して戯けて見せるのだろうか。
    そう思って顔を上げた瞬間。

    左の頬に衝撃が走って壁に吹き飛ばされた。

    状況が整理できないまま、困惑する俺に構わず右頬にも同じ衝撃が与えられた。
    ピエロが三発目を繰り出そうとしたところで、咄嗟に目を瞑る。顔の横で、風を切る音がした。そっと目を開くと、壁を殴りつけた体勢のままピエロは震えていた。数十秒はそのまま震えていたが、次の瞬間には怒りをぶつけるように何度も何度も壁を殴りつけた。布がほつれて綿が飛び出す。
    殴られた頬はそれほど痛くなかった。だがそれはこいつが手加減をしたというわけではなく、こいつの手がクッションのような作りになっていたからだ。その証拠に、打ち付けた背中はめちゃくちゃ痛い。

    一頻り壁を殴って満足したのか、はたまた壁では殴り足りないのか。徐に起き上がったぬいぐるみが、大股で荒々しく部屋の中を歩き回る。キョロキョロと辺りを見渡す仕草に、何かを探しているのが察せられ、同時にヒヤリと嫌な予感がした。

    (拳じゃ殺せないから武器を探してるのか)

    何が彼をそんなに怒らせたのかは分からないが、ローを殴りつけた時のピエロからは、確かにそれくらいの殺気が感じられた。コートの下で、荷物の中から携帯ナイフを取り出していつでも応戦できるように、じっくりとピエロの動向を観察する。
    すると、何かに気付いたピエロが暖炉へと近付き次の瞬間、まだ僅かに火が残るそこへと腕を突っ込んだ。なんだこいつ自殺するつもりかっ!?

    反射的に駆け寄ろうと腰を上げたところで、ピエロはこちらへとずんずん歩いてきた。その右手は黒い粉を握りしめている。どうやら欲しかったのは火ではなく灰だったようだ。
    無意識に、ほっと息をついた。
    ピエロは目の前までくると、真っ黒になった手を床に擦り付けた。線が一本、二本と引かれそれが文字だと気づく。

    「ア…キ、ラ……」

    床に書かれた文字は掠れている上にローから見ると逆さまだったので、一文字ずつ確認するように声に出す。ピエロの顔を見上げると、次は胸を殴られた。痛くはないがやはり容赦はなく、弾き飛ばされて尻餅をついた。

    アキラメルナ

    そうか、このピエロは俺が死を受け入れることを拒んで、こんなにも怒っていたのか。
    この病に罹ってから、そんなことを言ったやつはこいつが初めてだった。お願いだから死んでくれ、と切望されたことなら何度もあるが。俺を右腕にすると言っていたドフラミンゴでさえ、死を受け入れる俺に、運がなければそれまでさ、とニヤリと笑い返すだけだった。

    なんで。なんでなんだよ

    「きのう会ってばっかのおまえに、なんでそんなことっ」

    言われなくちゃいけないんだ、そう続けようとした言葉が喉に引っかかって止まった。何故なら目の前のぬいぐるみが昨夜ぶりに再び燃え上がっていたので。
    俺が目玉が飛び出さんばかりに目をかっ開いて、口を開けて言葉を失う様子に、目の前の燃え盛る本人はようやく己の状況を理解したようで、大慌てで小屋を飛び出して行った。
    暫く呆気に取られていると、鎮火し終えたピエロが戻ってきて、その時ドアをくぐった拍子にズコッと音がしそうな勢いでそれはもう見事にコケた。

    本当になんなんだコイツは

    ドジで間抜けで、とんでもないお人好しなのに怒りっぽくて、でもやっぱり優しくて。知れば知るほど、呆れて何も言えない。

    「はははっ」

    だからこれは呆れ笑いだ。それなのに、ピエロは俺を抱き上げてくるくると回り出すので、俺は更に呆れてしまって、腹を抱えて笑い声を上げた。
    そうだな、諦めるのは早いよな。折角オペオペの能力を手に入れたのに、何を俺は塞ぎ込んでいたのだろう。そう思える程度には、この正体不明のピエロに絆されていた。



    朝からバタバタの一騒動が落ち着いたところで、遅めの朝食にする。ピエロが摘んできた木の実はさっきのやりとりで床に散らばっていたが、幸いにも潰れておらず埃を払って食べた。横でピエロが申し訳なさそうに頭を掻いて俯いてるので、慣れてるから平気だと笑ってやるとまた抱きついてきた。苦しいから離せともがきながら、考えるまでもなく口をついた己の言葉に疑問が浮かぶ。

    (あれ、おかしいな、)

    家族にもファミリーにも、しょっちゅう食べ物をダメにしちまうようなドジなやついなかった…よな?
    いや、でも、ベビー5が毎日のようにひっくり返った紅茶や料理の皿を掃除していたのを覚えてる。ひどい時なんて、料理の揃った状態でテーブルクロスを引っ張って転んだせいで幹部たちの夕飯が全部台無しになったこともあった。あれは誰がやったんだっけ。
    ……多分、デリンジャーだったような気がする。あいつはヤンチャ盛りでなんでもかんでもひっくり返さないと気が済まないような年頃だから、うん、そうだ。デリンジャーだった。
    なんでこんな当たり前のことを疑問に感じたのだろう。

    気を取り直して、横でこちらを見つめるピエロにお前も食えよと実を差し出す。横に首を振るそいつに、大人ぶるなと唇に実を突っ込もうとしたところで、それが口ではなく、布の上に厚めに縫われた模様でしかないことに気付いた。それはそうだ、血や肉でできた肉体を持たないこいつが食事を必要にする方がおかしい。そんな当たり前のことに、胸の中で質量を持った靄が広がるような錯覚がした。










    「俺、ファミリーのとこに帰るよ」

    小さな山小屋で、ローと過ごし始めて三日目のことだった。
    ずっと違和感はあった。一つ一つの言動がやたら悲観的で、死を受け入れる姿はまるで半年前のファミリーと一緒にいた頃に戻ってしまったようだった。旅の中で、一緒に世界を見て回るのだと叶えられる見込みのない約束をした時の、子どもらしい無邪気な笑顔。あれはきっと、この少年の生きる目標になるだろうと信じたかったが、こんな嘘まみれの男の薄っぺらな口先だけの約束は、どうやらこの少年の支えにはなってくれなかったらしい。
    それでも、死期が迫り不安が大きくなっているせいだろうと、必死で励まし、応援し、時には檄と飛ばしてやった結果、今朝になって漸くローはオペオペの能力を少しずつだが使えるようになっていた。
    激しく体力を消耗してしまうらしく、短時間で正確に体内の珀鉛を取り除かなくてはいけないため、治療にはきっと時間がかかるだろうが、ようやく治療の糸口を掴んだ。その矢先のことだった。

    ずっと目を逸らしていた事実が、眼前に突きつけられる。


    (あぁ、俺と過ごした時間は、ローの中から無くなっちまったのか)





    バレルズ海賊団から食らった銃弾による失血に、ヴェルゴからの制裁による殴打で身体はもう限界だった。俺はもうきっと助からないが、それでも腕の中で震える不幸な少年だけは何としてでも助けたかった。
    自分がもう生きられないことを承知で、少年を宝箱に仕舞いこんで出来ない約束をした。あれだけ一方的に生きろと強要してきた人間の、命を捨てた最後の作戦。ローが真実を知ればきっと失望されるだろうが、なりふり構っていられなかった。
    愛してるぜ。とびっきりの笑顔に、ローは何故か変な顔をしていたが、俺とまた会えることを信じて疑っていなかった。

    (ヴェルゴから連絡が入ってるだろうから、きっと近くまで来てる)

    ファミリーにわざと見つかって、鳥籠を解除させ宝箱まで誘導しなくてはいけない。木の影に隠れながら、息を殺して建物に出入りする人間を観察する。

    (ん?なんだあれ)

    視界にふわふわのぬいぐるみのようなものが映った。こんな戦地と化した廃村にそんなものがあるものかともう一度目を凝らすと、それは着ぐるみのようなフードを被った少女だった。寄生糸によって剣や銃を奮って暴れる海賊たちのすぐ近くで、幼い少女が葡萄の入ったカゴを抱きしめて建物の影に隠れるように廃墟の瓦礫の上に座り込んでいた。
    バレルズ海賊団が誘拐でもしてきたのか、はたまた近隣の島に住む子どもが迷い込んだのか、考えたところで真実など分からない。気付いた時には衝動で動いていた。

    瓦礫に座り込む少女に駆け寄って肩を掴む。正面では、少し離れたところにグラディウスがおり、気配を察知して拳銃を構えている。それでもこの少女を逃さなくてはと、もう引き返すことは出来なかった。

    「お嬢ちゃん、ここは危ないからせめて建物の中に」

    「うるさい。口を開かないで。目の前から消えて。」

    避難しろと言い終わる前に、少女の肩を掴んだ手をその少女によって払われた。途端に身体からボワンという間抜けな音と、雲のような煙が上がる。一体なんなんだと困惑する俺に、遠くでグラディウスのバカヤロウという叫び声が聞こえた。
    しまった。完全に見つかってる。早く少女を安全な場所へ連れていかなくては。煙が晴れるのを待たず、少女を抱き上げようとしたが、身体が動かない。あれ、と不思議に思ったのも束の間、俺の足は勝手にさっきまで自分がいた方向へと走って引き返していた。

    (え?え?なんだこれ。)

    無意識に口をついた言葉が、音にならずに消えていった。何が一体どうなってる。
    さっきまでいた木の影に辿り着くと、ようやく足が止まって自分の意志で動けるようになった。きっとグラディウスが追いかけているはずだ。少女を避難させられなかったのは心残りだが、今俺が絡みに行ったら余計に危険に晒すことになる。可能な限りファミリーを此方に引きつけようと後ろを振り返ると、そこにグラディウスはいなかった。こちらには目もくれず、少女と何やら話し込んでいる。

    「お前の能力はむやみやたらと使うな!オペオペの実を盗んだやつの正体がわからないんだぞ!」

    「別にいいじゃない。犯人がこんなところで子どもとお喋りしようとなんてしないでしょ?」

    正体がわかっていない?

    バレルズの下っ端どもには姿を見られたし、ヴェルゴから連絡もいってるはずだ。ただでさえ疑われていたはずの俺が容疑者に上がっていないなんて有り得るのか?
    半信半疑で、もう一度彼らの前に姿を現そうと一歩を踏み出すと、途端に足がピクリとも動かなくなる。どうなってるんだ。
    ふと蘇る、先ほどの少女の言葉

    “目の前から消えて“

    そうか。あの言葉か。触れた相手になんでも命令ができる能力ってことか?なんだよそれ強すぎるだろ。ていうかあのガキ、ファミリーだったのかよ。ドジった
    仕方が無いので、少女の視界に入らないように木や建物の影に隠れながら、迂回して建物へと近づく。
    もう限界が近いのか、先程まで絶えず襲ってきた気が遠くなるような全身の痛みを感じない。それどころか何だか身体が軽くなったようにふわふわする。まあ錯覚だろうが。その証拠に進んでも進んでも普段の半分の距離も進めないし、身体を曲げてる自覚はないのに酷く視界が低い。
    ああ、とうとう脳みその感覚も全部壊れちまったみたいだ。想像以上の時間をかけて、ドフラミンゴのいる建物まで辿り着く。すると、ちょうどニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた大男が入口から出てきた。本当なら目の前に飛び出したいが、それだと少女の視界に入ってしまうのか足が動かない。

    「どうしたグラディウス、犯人は見つかったのか」

    「いえ、若様。シュガーが誰彼構わずに能力を使うので注意をしていたところです。」

    「だって、せっかく若様がくれたんだよ。使わなきゃもったいないじゃない。」

    ガキ相手でもすぐに熱くなるのはグラディウスの悪い癖だ。初対面のガキを二階の高さから鉄屑の中に放り投げた自分が言えることではないが。対して、少女の方もかなり気が強い性分らしく歳上の男に一歩も引く様子を見せない。
    お互い自分は悪くないと、ドフラミンゴの方に身体を向けながらも静かに睨み合っている。
    場違いにも、本当の家族のような砕けたやりとりにちょっとだけ和んだ。ちょっとだけ

    「お前ら、つまらないことで喧嘩してんじゃねぇ。オペオペの実を取り逃すようなことがあれば、お前らもタダじゃ済まさねえぞ。」

    しかし、意外にもドフラミンゴの意には沿わなかったのか、珍しく本気の怒りを滲ませて2人を睨みつける。普段はこういう如何にもファミリーらしいやりとりを見ると上機嫌にフッフッフと笑いながら仲裁に入るというのに。否、それだけ俺への怒りで頭がいっぱいということか。
    カチンと氷のように緊張で固まる二人と、怒気を纏った大男。このひりついた空間を壊すように、バッファローとその背に乗ったベビー5が、若様、と声を張り上げて降りてきた。

    「若様、海軍の無線で、男の子を保護したって!」

    「ローかもしれないだすやん」

    奪還しに行きたい。ローと特に親しくしていて性根の優しいベビー5の顔には、はっきりとそう書いてあるように見えた。不安げにドフラミンゴの顔を覗き込む少女に、しかし男は無情だった。

    「オペオペの実が最優先だ。ローの言ってたリミットまでも時間がない。奪い返したところで実がなくちゃどうせすぐ死ぬだけだ。」

    せっかく目をかけてやったっていうのに。怒りと呆れの混ざったような付け足された一言に俺は怒りで頭の中が熱くなったが、同時に再び疑問に襲われる。ローはついさっきまで俺と一緒に行動していたのだから、すでにオペオペの実を食べている可能性は決して低くない。そんな簡単に見捨てて良い存在ではないはずだ。
    なんだ?俺の知らないところで情報が錯綜しているのか?

    困惑しているうちに、シュガーと呼ばれていた少女は移動したらしく身体が動くようになった。この隙を逃すまいと、ようやくドフラミンゴの前へと飛び出す。
    おい、ドフィ。声に出したはずがまたも音にならなかった。そういえば喋るなとかなんかそんな感じのことも言ってたな。最期くらい兄弟で会話しようと思ってたのに。少しだけ後悔したがもう遅い。

    「あ?海賊か、海兵か。どっちでもいいがそんな身体で何ができるって言うんだ?」

    ドフラミンゴが嘲るように口角を上げると、間をおかずその長い足を横に振り切る。襲いくる衝撃に耐えるためグッと身体に力を込めるが、想像していた痛みは訪れなかった。しかし、想像以上に身体が跳ね上がった。下が雪だったこともあり5メートルほどの距離で落下した身体は、バウンドしながら数十メートルほど滑り転げた。ほとんど予備動作のないキックにこれほどの威力があるなんて信じられない。
    だが、こんな攻撃でくたばるほどやわじゃ無い。まだまだこれからだ、と身体を起こして敵対する兄の方へと向き直った。つもりだった。
    すでにドフラミンゴは興味を失ったように、俺に背を向けていた。

    (おい、ドフィ!何でだよ。俺はお前を裏切ったんだぞ!)

    喉の許す限り叫んだつもりだが、やはり音にならない。クソ。悔しくて地面に積もった雪を殴りつける。

    (クソッ、クソが!ドフィにとって俺なんて最初から仲間でも何でもなかったのかよ)

    見逃されたという安堵よりも、あの全く関心を示さない冷めた瞳を向けられたショックの方が大きかった。唯一の肉親として、弟として、兄を止めるのが俺の目標だった。それなのに兄は、俺のことなど最初からいないもののように。悔しい。悔しい。
    歯を食いしばろうとして、ふと、顎に力が入らないことに気付いた。悔しがる力すら俺には残っていないって言うのかよ。雪を握りしめるが、やはり温度は感じない。雪を掴む手に視線を向けたその時、今日一番の大きな心の声が出た。

    (なっなんだこれーーーーー!!!??)

    俺のデカくて長いスマートな指が鍋掴みみたいになってるだと!?
    慌てて身体を見下ろそうとするが、ギプスでもはめたかのように首が下を向けない。どこか鏡はないかと周囲を見渡すが当然そこらへんに落ちているわけもなく、最初に目についた廃墟に飛び込んだ。手当たり次第に家探しすること三軒目、ようやく目当ての姿見を発見し己の姿を確認して絶句した。喋りたくても喋れないが。

    (何だこの雪だるまみたいな身体!脚が身体の半分もねぇじゃねえか!身長も多分170も無さそうだし、こんな身体で一体何ができるってんだよ)

    声が出ていたならおそらく人類の半数以上を敵に回していただろう。だが身長293㎝、10頭身のスーパーすぎるモデル体型での生活に慣れているロシナンテには、股下が1m無いというだけでも信じ難いものだった。それなのにこの身体ときたら頭と身体の割合が3:7くらいな上に手足は短くコロリとしたフォルムをしている。これでは得意の蹴り技は型なしだし、相棒の拳銃も指が無いのだから引き金を引けない。
    鏡の中では、大きなピエロのぬいぐるみが頭を抱えて悶えていた。

    なんて能力だ。ちょっと触っただけで何でも命令できる上に、相手をぬいぐるみにするなんてチートすぎるだろ!




    結局、当然だが鳥籠に閉じ込めた海賊たちに犯人はおらず、迫り来るつるさんの艦隊から逃れるため、ファミリーはバレルズの残党をあらかた一掃すると船へと帰っていった。その時に、恐らく俺と同じようにおもちゃにされた奴らが整列して、何かを命令されていた。きっと自分達が帰った後も実を探すように指示されたのだろう。ドフラミンゴは、それはそれは悔しそうに島と船を交互に見てから諦めたように乗船した。
    俺は途中でドジって戦闘に巻き込まれたりしたものの逃げ果せたのだ、あのドフラミンゴファミリーから。空から鳥籠が消えていくのを感慨深く眺めた。

    シュガーがいるため、ローの入った宝箱が運ばれる様子を遠くからしか見ることが叶わなかったが、砲弾の音に紛れて箱の中から転がり出てくるのが見えた。あとは、約束通り隣町へ行けばローと合流できるだろう。港を見渡せる丘の上から、ローがファミリーから十分に離れた位置まで移動するのを見届けて踵を返す。待ってろよロー。一緒に世界を回るぞ

    そんな有頂天で雪道を進んでいたのも束の間。すぐ目の前に落ちていた白い塊に心臓が止まるかと思った。まあ今は心臓ないんだけど。
    海賊どものアジトに赴くにあたって、この島にある建造物は全て把握していた。確か一時間ほど歩いた場所にロッジがあったはずだ。一先ずそこへ連れて行こうと小さな身体を抱き上げた。

    ロッジに着くと、真っ先に暖炉に火を着けてから、ローの濡れた外套を脱がせて毛布で包んで横たえた。浅い呼吸に、苦しそうにほろほろと涙がこぼれている。苦しいよな。遅くなってごめんな。不甲斐ない自分を詫びることすらできないもどかしさを誤魔化すように看病しようとして、今ローを苦しめているのが病による発熱なのか、それとも雪による低体温症なのかわからないことに今更気付いた。痛みも温度も感じないというのはこうも不便なのか。まあどちらにせよ温めるのは必須だろうと小屋の中にあった残り少ない薪を全て暖炉に放り込み、外から枝を拾い集めて、ローの様子を見て、また薪を拾ってを繰り返した。そんな火の近くでの作業が続けば当然といか、お約束というか、俺に引火して外まで消火しに行って、それで自分に一度冷静になれと言い聞かせていたちょうどその時。

    「おまえ、だれだ」

    ともすれば聞き逃してしまいそうな、小さくて掠れた声だった。それでも、意識を取り戻したのが嬉しくて抱きつけば、敵意を剥き出しにした声で離せと言われた。何とか俺はコラさんだぞと身振り手振りで伝えるも、こちらの意図は伝わらなかったらしい。まあ仕方ないだろう。俺だって急に動くぬいぐるみが現れたらただただ驚く。まさか知人だとは思うまい。
    お前のことは俺が守るから安心して寝とけ。声には出せないが、肩を押さえて胸をポンポンと叩けば時間を置かずに眠ってしまった。今日は色々あったからな。ゆっくり休め。
    少年の頬を濡らす液体を手のひらで拭ってやると少しだけ赤くなってしまった。今の俺の皮膚はフエルトらしい。シルクだったら良かったのにな、と少し残念に思った。





    誰も俺の話しをしないから、薄々もしかしてとは思っていたんだ。でもまさかそんな能力があるなんて思わないじゃないか。何だよ、相手を何でも命令を聞くオモチャにする上に関係者の記憶を消す能力なんて、そんなのズルすぎるだろ。同じ悪魔の実の能力者としてあまりにも差がありすぎる。

    「あの、さ、実は俺、海賊なんだ。秘密にしてるつもりは無かったんだけど。言ってなくてごめん」

    俺の沈黙を困惑か、もしくは怒りと受け取ったのか弱々しくローが謝る。

    (何言ってるんだよ、お前は海賊やめただろ)

    ローの言葉を否定するために必死で首を横に振るも、本人には‘怒ってないよ‘と言ってるように伝わったらしく表情が和らいだ。違う、そうじゃない。咄嗟に拳が出てしまいそうになるのを、手のひらを握りしめて押さえつけた。

    「実は俺ドンキホーテファミリーから逃げてきたんだ。船長が欲しがってたオペオペの実をうっかり食っちまって、なんか逃げなきゃってそのことで頭がいっぱいで…
    でも時間が経って冷静になったら、なんで逃げたのか分かんなくて。元々ファミリーの誰かに食わせる予定だったんだ。俺が食ったって構わねえはずなのに。
    だから、ここ出たら一番近くの町で電伝虫借りてドフラミンゴに謝って迎えに来てもらうよ。」

    コートを握りしめて語る言葉は、自分に言い聞かせているようだった。だから安心してくれとでも言いたげに浮かべる困ったような笑顔。その笑顔を引っ叩いてやりたかった。
    何だよそれ。こいつには国境を囲む鉄の柵も、身体を蝕む病も、島に閉じ込める鳥籠も何もないのに、何で自ら檻の中へ飛び込むような真似をするのか。それが本当にローのやりたいことだと言うなら、止めはするがこんな怒りは湧いてこなかったはずだ。だってそうだろ。この半年で知ったローは好き好んで人を貶めるようなことはしない、冷静で生意気で何よりすごく優しいやつだった。
    行っちゃダメだ。必死で首を振ることしかできない自分が情けないし悔しい。

    「何だよ、寂しいのか?今すぐ離れるってわけじゃねえよ」

    呆れたような台詞に反して声には喜色が滲んでる。
    行くなと言えない代わりに、その小さな身体を抱きしめたらおずおずと抱き返される。その様子は、三年前の世界の全てを恨んでいた少年とは全く違う。その瞳には生への希望が宿っている。

    イクナ

    身体を離して、ローの胸の上に手で文字をなぞる。

    「じゃあお前も一緒に来るか?」

    こちらの文字は正確に読み取れたらしいが、意図を一向に察してくれない。歯噛みする気持ちでもう一度、胸に文字を書く。

    コロサレル

    オペオペの実を食べた以上、ドフラミンゴのもとへ行けば不老手術の生贄にされるのは明白だ。どうか思い直してくれ。義理とか恩とかそんなの忘れて、俺と一緒に旅しながら平和に過ごせば良いじゃないか。そんな思いで小さな身体をもう一度強く抱きしめた。

    「殺され、る?お前、ドフラミンゴに狙われてるのか?一体何したんだよ」

    違う、殺されるのは俺じゃなくてお前だ。いや、俺も正体がバレたら殺されるだろうけど。
    行くな行くな行くな。念を込めるようにぎゅうぎゅう抱き締めると、腕の中で小さな身体から力が抜けて、観念したように肩が下がった。

    「仕方ないな。お前には恩もあるし、俺の病気が完治するまではお前のそばにいてやるよ。」

    随分と高圧的な台詞だが、三年弱世話になったドフラミンゴよりも俺のことを一時的とはいえ選んでくれたことが嬉しくて、細い胴に腕を回してくるくると回る。今日は機嫌がいいからいつもより多めに回ってやろうかと考えていると、焦ったように静止の声がかかった。

    「おい、ちょっおま、絶対転ぶだろ!離せ、おろ」

    ローが下ろせと言い切る前に、ズデンと派手な音を立てて二人一緒に転倒した。




    「なあ、お前って名前あるのか」

    一週間世話になった小屋を出て、雪の積もった山道を手を繋いで歩いている時のことだった。ちなみに、手を繋いでるのは3歩に一回の確率で転ぶ俺に、呆れたローが差し出した苦肉の策だ。仕方ないだろ、この身体まだ慣れてないんだから。
    名前、名前か。何と答えるべきなんだろう。チラリとローの顔を覗くと、少し顔を赤くして期待するようにこちらを見つめている。

    (コラソンはダメだよな。ファミリーの幹部との関係を疑われるのは面倒だし。でもローにロシナンテとかロシーとか呼ばれんのは何か嫌だな。考えただけで首の後ろがムズムズする。)

    というより、ローから呼ばれたい名前なんて一つしか無い。
    雪の上に、近くに落ちてた枝切れで文字を書く。

    コラサン

    この半年の旅でローが呼んでくれるようになった、敬称と愛称の混じった愛おしい名前。でも、コラさんではなくコラサンにしたのは、記憶の無いローにコラさんと呼ばれても虚しいだけだと思ったからだ。
    横ではローが、コラサン、コラサン、と舌に馴染ませるように小さな声で復唱していた。そうだ、それで良い。

    コラソンも、ロシナンテも、コラさんもこの世界から消えてしまったのだから。













    一日歩いて辿り着いた隣町は、少し貧しいが穏やかで平和な町だった。
    そこで知り合ったシロクマのミンク族や、二人組の元不良少年。彼らは俺と同じか、それ以上にローのことを大切にしてくれた。
    町の人間と関わり合って、歳の近い仲間と支え合って、そうやって平和な世界に浸っているうちにローの口からドフラミンゴの名を聞くことは無くなった。俺が世界中を旅してローと探すつもりだった安寧の地は、まさかの隣町だったらしい。
    あっという間に時間は過ぎて、この町に来て気付けばもうすぐ三年になる。
    最初のうちは、俺が子どもたちを支えるのだと昼夜問わず働いていた。でも今ではコラサンはドジだから、修繕が面倒だからとほとんど働かせて貰えない。それでも生活は十分に成り立っていた。

    そろそろ潮時かもしれない。


    「「「ローさん、コラサンが消えた」」」

    いずれローと旗を立ち上げる、将来のクルー達の息の揃った慌てた声。それにローは手に持っていた分厚い医学書を落とした。驚きで顔が引き攣る中、頭の隅ではいつかこの瞬間が来ることを覚悟していたように思う。
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    A84701820

    MAIKING完結まで書くの心折れそうなので、とりあえず一話上げます。予定では5〜7話くらいになる予定です。
    小説書くの久しぶりすぎて稚拙にも程があるんですが、何とか書き切りたいです。
    本編はCP無しのつもりで書いてますが、作者がローコラ脳なので若干異臭を感じるかもしれません。
    内容とあらすじはタイトルが全てです。
    運命の島ミニオン島にシュガーがいたIFストーリー視界に映るのは一面の白。ここから離れなくてはいけない、その一心で石のように重たい脚を必死で持ち上げてやっとの思いで一歩を踏み出す。肺を突き刺す凍った空気に、身体全体を埋め尽くす勢いで吹き荒ぶ雪。
    本当に自分は前へと進めているのか不安で、でも後ろを振り返る勇気も気力も残ってはいなかった。

    なんで、俺はこんなにも必死で生きているんだろう

    半年前までは、確かにこれから訪れる死を受け入れていた。自分も故郷の家族や友人、シスターたちと同じような運命を辿るのだと。その時が訪れるまでの時間を、せめて有意義に復讐に費やそうと。
    でも何故か、俺は海へと飛び出した。死に損ないの痩せっぽちな子どもの世話を焼いてくれた恩人であり、我らが王であるドフラミンゴを裏切って、大っ嫌いな病院をいくつも回って、政府の人間から逃げ回った。
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