SPが出る前の妄想そのいち(熊→細っこいガキ) ――なんとまあ、随分とわかりやすいお子様達だこって。
そいつがまずはあいつらに対する第一印象。
ガキくさい、まだ幼ささえ残した顔立ちに線の細い出来上がりにはほど遠い体躯。袖口をぐっとまくり上げてさらけ出した肘から先の腕っ節はそれなりに鍛え上げた様子はあるものの、それとていかにも見せつけてやるといったガキっぽい顕示欲にしか見えやしない。
まあ、お嬢ちゃんの前で粋がっていいとこみせたいってなあ、年齢相応の可愛げっちゃ可愛げだが、惚れた女に寄りつくやつは許さんと言わんばかりに矛先を向けられるほうとしちゃ、あの突き刺すような眼差しで睨み付けられるのはいい加減面白いもんじゃない。だからちょいと世間ってもんを知らしめるってな名目で、やっこさんをちょいとばかりやり込めてやろう、なんてのは、まあむしろ年長者としての優しさってやつなもんだ。
「腕相撲、だと……?」
そもそもお前と一緒に飯を食うこと自体が気に入らない、といった態度をあからさまにしていたお子様は、それでもこちとらの呼びかけに目を上げる。
俺とお前が? どうして? 声に出さずとも明らかな不審を思いっきり顔に貼り付けて、やっこさん、俺の仕掛けた飯時のちょいとしたお楽しみの誘いに眉を上げた。
「なあに、こういうとこじゃつきもんさ。俺とお前で勝負して、周りの連中が賭けをする。勝った負けたで盛り上がりゃ、自然仲も深まるってもんさ」
どうだ? とばかりに目配せをくれてやりながら殊更こちらの腕を見せつけてやる。やっこさんの口の端が忌々しげに歪められる。いやはやまったくなんてわかりやすい。まあこの年頃のそれなりに腕に覚えがあるガキなんざ、この程度の挑発で十二分にあしらえる。さて、こめかみをひくつかせたやっこさんはどうでるか。ぶち切れて殴りかかってくるか、それとも無茶を承知で俺様との腕相撲に乗ってくるか。
「……お前と深める仲はない」
少々口をとがらせちゃいるものの、そして余計な一言を言い置きながらも、返ってきたのは思いのほか落ち着いた声音だった。
「まあ、相手を知るにはそう悪い手段じゃあないけどな。残念だったな。期待には応えられん。万に一つも腕を痛めちゃな」
「へえ。そりゃ、まあ…存外大人なことをいうじゃねえか」
あろうことか虚を突かれた。気の抜けた返しの言葉に、やっこさんは思い切り嫌そうな顔でこちらを見上てくる。
「どうせこの程度のガキなんざ、簡単に挑発に乗ってくるとても考えてたんだろ。これでも買う喧嘩は選んでるんでね。アンタみたいなやつのお遊びや暇つぶしに付き合うために鍛えたわけじゃない」
実に面白くなさそうに、俺の前腕を見やってそっぽを向く。まあそりゃあな。やっこさんのそれはよく鍛えられちゃいるが、元々の骨格が華奢に出来てるんだろう。俺なら片手だけでその両手首をひとくくりに握れちまう程度の腕っ節だ。比較して面白いもんじゃないだろう。
「あのお嬢さんのためにしか、剣をふるわねえってか? 殊勝なこったが、あんたはもうちょい世間の遊びってもんを知った方がいいんじゃね?」
「……アンタみたいなやつならそういうのもアリなんだろうけどな。これでも自分がどう見られるのかくらい把握してる。そんな誘いにみすみす乗ったら御し易いガキだって見做されて侮られるのが目に見えてる。アンタだってどうせそのクチだろ」
わざわざ言わなきゃ気が済まないのか、冷静に手前のことを見ているようで最後のひとことが余計だっつーの。でもまあ席も立たずに声も荒げず真っ当に相手をしてくれるあたりが律儀でいい。まあ半ばはお嬢さんの目を気にしてのことではあるんだろうが、ツンケンしつつもまともに俺との会話に応じてくるってのはなかなかどうして、見た目と腕っぷしだけってわけじゃあないんだろう。
いやはや、お嬢さんといいこいつといい、見てて飽きねえなかなかどうして面白え奴らじゃないか。
侮られたくないなどとほざくあたり、まだまだてんでお子様だってのはさておき、いや、だからこそ、要らぬ節介の一つもかけたくなる。
「侮られてなんぼじゃねえの? そういうのを含めてな、てめえの見目を強かに使いこなしてみなってな話よ。強さを誇示してみせるより、よっぽど強え武器になるぜ?」
ガタッと、やっこさんの椅子が音を立てる。手を出してくれりゃこっちのもの。だが色をなしつつこっちを睨み鋭い怒気を向けてくるくせに、やつは奥歯を食いしばり苛立たしげに自分の髪をぐしゃぐしゃとかき乱すばかりだ。
「いい加減にしろよ熊野郎……貴様に何がわかるもんかよ……」