私の言葉にその人は思いも寄らない、といった表情を見せた。沈着冷静な少壮の、といった面立ちに不意に懐かしい色が乗る。出会った頃のこの人は、そういえば随分と表情が豊かな人だったのだ。
彼は私をまじまじと見つめたあとに視線を外し、それから微かに鼻を鳴らそうとして思いとどまる。昔はそこで少し肩を竦めてから仕方がないな、とばかりの淡い笑みを――思えばそれは子どもに向けるそれだった――見せてくれたものだった。
「……そう、か。……そう、だったのかもしれないな。おれは、不肖極まる弟子だったが」
子どもをなだめる笑みのかわりに、彼は静かに目を伏せて手にしていたカップを卓に戻した。
しばしの沈黙。組んだ両手を額にあて、まるで祈るように目を閉じている彼の言葉を私は待った。
「……参ったな。て、ことは考えようによっちゃ、シュウやアップルは俺の…兄弟子だの姉弟子だのにあたるのか…? そうこられちゃ、…妹弟子の頼みだもんな。協力しないわけにはいかないじゃないか」
緩やかな笑みは少しばかりの苦味を伴い、それでいて軽やかだった。彼がちょっとした冗談のように口にした言葉は、これ以上なく正鵠を射抜いたものだ。彼、門の紋章戦争の立役者の一人、解放軍の副リーダーであったフリックは、軍略の面では、マッシュ・シルバーバーグの最後の弟子でもあるのだから。
オデッサ.シルバーバーグの理想を最も近くで支えた戦士。彼女の思想を引き継いだその上で、マッシュ先生のもとで門の紋章を戦い抜いた副リーダー。
今でもよく覚えている。あの湖の城の先生の部屋で、彼らはよく論を交わしていた。当時の私は白熱する議論や軍議についていけるはずもなく、少し時間を置いたあとにマッシュ先生やレパントさん、そしてあまり機会はなかったけれども彼からも、交わしていた論の意味や戦略の理由を教えてもらうばかりだった。