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    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

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    かわい

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    転生アキデン7話目。記憶あり🍁が記憶なし🪚をキスで攻めて落とす話。

    初恋アザミにキスをする 7「……で、デンジにまんまと逃げられたのか。ウヌは本っ当に、デンジのこととなると、無能じゃのお〰︎〰︎!!!」

    翌日パワーに思いっ切り嘲られて、アキは眉間に深い皺を寄せた。

    「………………俺は、何でお前に相談してるんだ……?焼きが、回りすぎだろ…………」
    「相談に来たのは、ウヌじゃろうがあ!!」

    パワーは拳で机をドンと叩いた。コーヒーとパフェの乗った机が揺れる。だが、ここは個室なので周囲の客への影響はない。二人は有名人なので、奥の部屋に通されている。
    パワーとアキは、今世とても早い段階で知り合った。二人とも記憶があったからだ。彼女はスカウトされるままにモデルとなり、絶大な人気を博していた。芸能人同士、接触するのは容易であった。

    「だからワシも一緒に住むと言ったのに。どうせ二人きりで居たかったんじゃろ?それで手を先に出しおるとは!このムッツリめ!!」
    「う。違う…俺だけじゃなくてお前までいたら、あいつが混乱するかもしれないと思ったんだよ!」
    「甘いのお!!アキおぬし、デンジにはちと過保護すぎるわ!!」
    「過保護、か……そうなんだろうか……」

    アキは一気に淀んだオーラを出し、頭を抱えた。先ほどからずっとこうである。いつでも冷静沈着だった前世は、よほど自分の感情を抑えていたのだろう。
    パワーはその様子に呆れながら、パフェを掬う。いちごのたっぷりのったフルーツパフェに、ワッフルのついたチョコバナナパフェ。今日の相談料として、前払いされたものである。

    「俺は、多分『今』のあいつをちゃんと見てやってなかった。過保護なんて形容されるようなものじゃない……」
    「……それじゃが。本当に、そうなのか?ウヌは十分すぎるほど、今のあやつを大切にしていたと思うがの。ウヌが好きなのは……本当に、『前世のデンジ』だけなのか?」
    「それは違う……!」

    これに関して、アキは丸一日考えて答えを出していた。

    「俺は…あいつが好きだ。前世も今世も、デンジはデンジだと思ってるし、どっちも含めて好きなんだ」

    まっすぐな目で断言した後、アキはまた頭を抱えて項垂れた。

    「……でもそれじゃあ、あいつを悲しませるんだろうか……?」

    デンジは『浮気』だと言った。これは不誠実なことなのだろうか。アキにはわからない。
    しかしパワーは、あっけらかんと答えた。

    「別にいいじゃろお!あやつは基本、超・適当じゃ!そんな細かいことを気にするタチでもあるまいに。ウヌ、どうせ……前世の話を、極端に避けていたんじゃろ?」
    「ぐっ……それは、確かにそうだ……」
    「あやつといる時に、前世を思い出して辛気臭い顔をしとったんじゃないか?多分デンジは、ウヌのせいで不安になったんじゃろうて」
    「……っ」

    思い当たる節がありすぎる。
    パワーは大層な馬鹿だが、デンジの心の機微には敏感であった。IQ500だとは全く思わないが、悪魔は人の心をよく感じ取る生き物だ。人間に生まれ変わってもなお、彼女の指摘は鋭かった。

    確かにアキは、前世の話をデンジにすることを極端に避けていた。できれば思い出さず、幸せに過ごしてほしいと思っていたからだ。
    その一方で、デンジといると前世の後悔や未練を思い出してしまい、悲しそうな顔をしてしまう時があったと思う。キスをしている時は特にそうだった。キスは、前世の二人の"別れ"の象徴であったから。
    アキのそういう態度がデンジに不安を与え、彼を思い悩ませたのだろうか。しまいには『前世のデンジ』の代わりにしている、とまで、考えさせてしまったのかもしれない。

    「まあ、デンジは寂しがりで焼き餅焼きじゃから、拗ねたんじゃろ。前世の事情くらい、最初にきちんと話してやれば良かったじゃろうに!阿呆じゃのお〰︎〰︎。アキはだいたい、難しく考えすぎじゃ!!」

    パワーはパフェスプーンでビシッとアキを指した。行儀が悪いと叱りたいが、今は相談に乗ってもらっている最中なので、アキはぐっと堪えた。阿呆と罵られても、ここは教えを乞わねばなるまい。

    「そうなのか……?でも、あいつはもう俺の元を去ったんだ。これからどうすれば……」
    「だぁから!そういうとこじゃあ!!このド阿呆が!!あいつは単純なんじゃから、ちゃんと気持ちを伝えれば良いだけじゃろうが!」
    「だが、どうやって?俺にはもう、取れる手段がねえ……」

    パワーは腕を組んでふんぞり帰った。その瞳が力強くアキを射抜く。

    「ノーベル賞級の天才、パワー様が特別に教えてやる!!お前には、方法があるじゃろ!!……歌じゃ!!」
    「歌……?」

    アキは手を組んで考えた。確かに歌なら、メッセージを伝えられる。しかし。

    「……あいつはネット環境ねえぞ、多分」
    「街のいつどこにいても流れまくる、大ヒットにしろ!!!」
    「…………!無茶を言う」

    アキはそう零しながらも、希望を見出していた。デンジがどんな場所にいても。例え困窮していても。耳に入ってくるくらいの大ヒットにする。
    今世のデンジは前の記憶がなかったが、既にアキの歌声を覚えた。それならば、少しでも耳に入れば気づく可能性が高い。

    「ウヌならできるじゃろうが。目指せミリオンヒットじゃあ!!!」
    「……今はCDの売上じゃねえ。再生数で競うんだよ」

    パワーの知識は大分前世に引きずられ、アップデートされていない部分がある。
    だが、その提案は的を得ていた。

    「ありがとな、パワー。やってみる」
    「うむ。はよくっつけ!!じゃないとワシが、一緒に住めんじゃろうが!!」
    「……待たせて悪いな、本当に」
    「全くじゃ。じゃあ、これとこれ、追加での」

    パワーは季節限定のメロンパフェと、抹茶と桃のパフェを指差した。

    ――こいつ、モデルとしての節制とかないのか……?

    アキは心底呆れながらも、黙って注文にオーケーサインを出したのであった。


    それからアキは、寝食を忘れて曲を作った。
    これまで作ったアキの曲は、だいたいがデンジのためのものだったが、今回は初めてのラブソングだ。

    最初で最後のラブソング。

    必ずヒットにしなければならない。デンジに届けなければならない。彼がどこにいても――例え地の果てにいても見つけ出すための、ラブソングだ。
    アキは、諦めの悪い男だった。
    血を吐くようなストイックさで周囲を驚かせながら、彼は最短で曲を作り上げ、すぐにレコーディングに入った。

    ――デンジ。
    どうかこれを聴いて、俺の元に帰って来てくれ。


    ♦︎♢♦︎


    デンジはホームレスに戻った。

    けれど一度手にした温かさを一気に失うことで、身体をすっかり壊してしまった。結局、学校でできた友達のレゼと吉田の助けを借り、体調の悪い時は匿ってもらいながら生活をしていた。
    アキを突き放したくせに、結局アキがしてくれたことの恩恵を受けてしまっている。それに、彼らに聞くところによると、学校は休学扱いになっているらしい。退学になっていないのは、アキがそうしてくれているからだ。

    ――アキは、まだ俺を捨ててない。

    そう思ってしまう自分が、デンジは惨めだった。
    アキに見て欲しくて彼を傷つける一方で、アキがまだ自分を捨てていないと確認して喜んでいる。結局自分がどこまでもガキであることを、デンジは改めて突きつけられていた。

    それでも、アキの元へ戻るつもりはなかった。
    あんなに傷つけておいて、デンジには戻る資格がない。
    それに、平気な顔をして一緒に暮らしていくことは、多分もうできなかった。

    本当は――ずっと一緒だった半身をもぎ取られたかのように、辛くて苦しい。

    夏の空みたいな青い目を見たい。
    駆け寄ってその匂いを嗅ぎたい。
    タバコの味がするキスをされたい。
    料理をする魔法の手に見惚れたい。
    優しい歌声に浸りながら眠りたい。

    アキのことがどれだけ好きであったのか、今になってまざまざと思い知る。
    デンジは毎日ポチタを抱き締めて、外の凍える寒さに耐えていた。


    そんなある日のことである。

    デンジがふらふらと街を歩いていると、あの大好きな歌声が聞こえてきたのだ。
    デンジが聞き間違えるはずのない、歌声だった。
    目を見開いてぎしぎしと振り返ると、ビルの巨大電光掲示板に、澄み渡る青い目が映っていた。

    「きゃー!早川アキだ!」
    「新曲良いよね。『初恋アザミにキスをする』」
    「アキのラブソングなんて初めてだもんね。ほんとカッコいい〜、もう無理」
    「再生数マジでやばくない?」
    「今年のレコ大、ぜったい取るよね」

    隣で女性達が黄色い声を上げている。けれどデンジは、それどころではなかった。
    しっとりとして切ないギターリフにのせて、アキの歌声が流れてきたからである。電光掲示板には歌詞が表示されており、デンジの目はそれに釘付けになった。



    君に二度目の恋をした
    見つめる瞳が可愛かったから

    鳥になって飛びたい
    そしてまたキスがしたい
    君のことをもっと知りたい

    だからどうか戻ってきてくれないか
    俺の初恋アザミ

    初恋で俺は一度死んだんだ
    痛みはまだ残ってる
    けど俺はずっと見てた
    君のことをちゃんと見てたよ

    君のおかげで生き返った
    もう二度と君を置いていったりしないから

    だからどうか戻ってきてくれないか
    俺の初恋アザミ
    ………………


    デンジはそこに縫い付けられたみたいに、一歩も動けなくなってしまった。
    両目からは滂沱の涙が落ちていく。

    「俺は一度死んだんだ」のフレーズで、デンジは自分の全身の血の気が引いていくのを感じた。
    フラッシュバックのように、さまざまな光景が脳裏に蘇ったからだ。


    殴り合った痛み。
    三人で食べたアイス。
    アキを殺した匂い。
    悪魔たちの悲鳴。
    ただいまと帰る家。
    開けてしまったドア。

    三人から、ひとりぼっちに戻った、前世。


    そこで、「もう二度と君を置いていったりしないから」とアキが歌ったので、とうとうデンジはしゃくり上げ始めた。

    ――何で。
    何で忘れてたんだよ。
    あんなに大事だったのに。

    前世から、アキしか好きになれなかったのに。
    せっかく今、アキが生きてんのに!!

    デンジは駆け出した。泣きっぱなしで鼻水が垂れているとか、道行く人が驚いて避けているとか、とにかくどうでも良かった。
    無我夢中で走る。前へ前へ前へ。

    ――アキが辛そうな顔して、当たり前だろ。
    前世でアキのことを殺したのは、誰だよ!

    アキは多分、ずっと自分を責めてた!
    俺に自分を殺させたこと。
    俺を置いてったこと。

    きっとキスのたびに、思い出してた!
    何も知らねえで、つまんねえ嫉妬して、馬鹿みたいだ。

    「何で忘れてたんだよ、俺ェ!!!」

    大声で叫びながら、しかしデンジはふと思い至った。
    前世を忘れていた原因・・に。

    前世の……喪失。絶望。苦悩。

    ――ああ、そっか。

    デンジは進む足をゆるめ、自分の心臓を押さえ込んだ。
    そのままぐしゃりと顔を歪める。

    ――多分俺は、またアキしか好きになれなくなるのが怖かったんだ。
    だから、前世を思い出さなかった。

    本気で好きんなったアキを喪うのが、あんなに辛かったから。
    また置いてかれんのが、すげえ怖かったから。

    そんで結局……今度は自分から、アキを置いてったんだ。

    最低だ……!


    ♦︎♢♦︎


    デンジは河原で待っていたポチタを抱え、さらに走り続けた。
    そうして、息を切らしながら走って走って、ようやくアキの家に辿り着いた。
    駆け出したのは昼間だったが、もうとっぷりと日が暮れて夜になっている。ポチタはデンジの足元で、気遣うように見上げていた。足が疲れすぎて棒みたいになっていて、身体じゅうは汗だく。多分髪も顔も、何もかもぐちゃぐちゃだ。

    でも、それでも良かった。
    一刻も早く、アキに会いたかった。

    ――アキは置いてかれても、俺のことを諦めないでいてくれたんだ。俺のために曲を作ってくれた。

    だから俺は、ちゃんとアキに謝る!
    そんで、そんで…………

    「デンジ!?」

    慌ててドアを開けたアキが叫んだので、デンジはその胸に勢いよく飛び込んだ。

    アキ。
    アキだ。

    「アキ!!」

    デンジはそのままアキの胸元を掴んで引き寄せ、思い切り下手くそなキスをした。がちりと歯がぶつかる音がする。

    「アキ!俺、また、アキと!キスしに、戻ってきた!!……今度は、俺がアキを置いてっちまってさあ!ごめんなあ……!!」

    アキはその青い目をさらに見開いて、デンジの頬を両手で掴む。ひどく慌てた様子で、その顔を覗き込んだ。

    「デンジ…!?まさか、思い出しちまったのか!?」
    「アキの歌聴いたらさあ、思い出した!!俺……たぶん、思い出さないようにしてた。アキにまた置いてかれんの、怖かったから。なのに、つまんねえ嫉妬して、ごめん……」

    デンジがぐしゃぐしゃの顔で泣きながら笑うと、アキはまるで、ナイフで刺された痛みを堪えるみたいな顔をした。

    ――ああ、そんな顔して欲しくない。
    笑ってて欲しいんだ、アキ。

    デンジは必死に言い募る。涙は制御を失ったまま、止まらない。

    「でもさあ!俺、またアキのこと好きになったぜ!忘れてても、関係なかった!だから今世はさ、もっともっと………………いっぱい、キスしてくれよ!!」

    それを聞いたアキの目からもまた、涙がぼろりと零れた。彼もまたデンジを引き寄せて、勢いよくキスをする。

    「ん!ぅ…………っ」
    「…………デンジ…………っ」

    お互いに食み合うみたいに、激しく口付け合う。
    一つになりたい。
    もっと、二度と離れられないくらい。

    「デンジ、俺も。お前のこと、また好きんなった。今度は……一緒に、生きてくれ」
    「おー。俺な、アキ。俺、ずっと……ずっとこうしててぇ……」

    アキは堪らずといった風に、くしゃりと顔を歪めて言った。

    「俺も……お前の全部に、一つ残らずキスしたい」

    美しい涙を滝のように流しながら、冷たい唇を耳につけてアキは囁いた。デンジを抱き寄せるその腕は、小さく震えている。

    「お前を抱きたい……デンジ」

    デンジは泣きながらもなお、幸せそうに笑って了承した。すっかり冷えたアキの身体を、温めたいと思ったから。

    「うん。いーぜ。してくれよ……アキ」


    それは冷たい風が吹き荒ぶ、寒い冬の日のこと。
    二人と一匹は抱き合いながら、暖かな家の中に入って行ったのだった。
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