Edit again (新彰)※ キャプションを読んで!!
浮気なんてするわけないしできるわけないのにそれを証明するのって難しい。
ていうか浮気を疑われてたのは彰人くんのほうで、それは彰人くんが前の恋人と付き合ってたときのことだ。俺を含む、冬弥くん杏ちゃんこはねちゃん、洸太郎くんとEVERのみんな、いつものメンバーは全員知ってるし巻き込まれてた。
イベントの打ち上げで、みんなで飲んだり食べたりしゃべったり歌ったり、ちょうど盛り上がってるときに毎回、彰人くんの恋人から電話がかかってくる。そして、テレビ通話にして今いるメンバーの顔を見せろ、って言われる。
毎度のことだからみんな慣れてて、ちょっとだけテンションを落として大人しく席について、「あっどうも~……」「こんばんは~……」って順に会釈する。俺は毎回黙ってピースサインをして真顔で写って達也くんにやめろって小突かれて、そんな様子をぐるりと撮って、それから彰人くんは店の外に出て十分くらい話してから、少し気まずそうに戻ってくる。
毎回やってた。まあ界隈になじみ無かったら心配になるのもわかるし、参加したいって言い出さないだけマシかな、と思ってた。
ところが、またみんなでいつものようにご飯食べてたある日。着信音が鳴った瞬間、「悪い遠野、隠れてくんねえ?」って、はす向かいに座ってた彰人くんが手を合わせて焦ったように言った。
「はぁ?」「遠野?」「なんでだよ?」
みんながざわついてる中、俺はとりあえず言われたとおりに隠れようと思ってテーブルの下に頭を入れた。洸太郎くんが笑って、俺を隠すようにジャケットを掛けてくれる。それから、いつも通り俺以外のみんなが挨拶してるのを聞きながら俺はじっと待つ。彰人くんがスマホ持って店を出ていったのを見届けた冬弥くんがトントンと俺の背中をたたいて、「遠野さん、もう大丈夫そうです」、って教えてくれた。
「ありがと、っいてて」テーブルの端に頭を打った。
「なにかあったのかな?」こはねちゃんは心配そうな顔。
戻ってきた彰人くんによると、恋人に前回のイベントの集合写真を見せたら、俺にだけ、こいつは誰だ、どういう関係だ、としつこく追及があったらしい。
「えー? なんで新だけ~?」
杏ちゃんが真っ先にうんざりした声を上げたから俺は笑う。
「つーかいまさら? 毎回見せてんだろ?」
わかんねえ……ってぐったりしてる彰人くんが気の毒だけど、俺はこの状況がだいぶ面白くなっちゃってた。
「遠野なんかしたんじゃねえのか~?」「まあオレらん中じゃ、こいつが一番うさんくさいもんな」
「えっそれは酷いなー」
「ていうか、いちばん気になるのってやっぱ青柳なんじゃねえの? 相棒~ってなんか特別感あるだろ」
そうなのか? ってきょとんとしてる冬弥くんに様子を伺われて、渋い顔になった彰人くんが言う。
「冬弥は、……親を知ってんだよ」
「はあ~?」「親は関係ねえだろ?」
意味わかんねーってみんながより騒がしくなる中、「俺の親、紹介するよ?」って真剣ぶって言ってみたら、「そういうことじゃねえんだよ」って彰人くんがちょっと笑った。
そんなことがあったあとしばらくして、彰人くんとその恋人は別れることになった。俺のせいじゃないよね? まあ、積み重ねのひとつにはなったかもしれないけど、俺にはどうしようもできないし。
で、落ち込んでる彰人くんを慰めていたら、ちょっとぐらついたなってわかる瞬間があって、はっきり言うと口説かれたがってる雰囲気を出されて、あ、いいんだ? ってほいほい釣られて、俺は彰人くんと付き合うことになった。
誤解しないでほしいんだけど、その俺のことを疑ってた元恋人と別れる前は一切そんな素振り見せてなかったし、彰人くんも別に俺をそういう目で見てなかったと思う。本当に杞憂だったんだよ。
で、冒頭に戻るんだけど、彰人くんは俺と付き合い始めてから、俺の周囲を妙に気にするようになってしまった。俺のことをモテる人間だと過剰に思いこんじゃってるみたいで、かっこいいと思ってくれてるのなら嬉しいんだけど、でも俺は彰人くんが思ってるほどモテない。
歌うようになってはっきりしたのは、俺はまあまあ人の目を惹くらしいってことだけど、でもだからって興味ない人に優しくしないし、物言いがキツいらしくてそういう意味ではほとんど声を掛けられない。歌聴いてくれる人は順調に増えてるし、俺は別にそれでいい。
だから彰人くんが望むならメッセージの履歴を見せても大丈夫だし、位置情報を共有したっていい。スケジュールはオンオフ全部伝えてるし、彰人くんがいない打ち上げには誘われても参加しない。それでも気になるみたいだった。
彰人くんもこれ以上何をどう心配したらいいのかわかんなくなっちゃってるんじゃないかな。ステージを降りたらファンサすんな、って言われて、もともとしてないんだけど……? って思いながら渡されたマスクをつけたらサイズが大きすぎて目にもかかりそうだった。さらにサングラスもしろって言われて完全に不審者。ニットキャップまで深くかぶらされる。職質RTA。なのにそんな俺を見て彰人くんは「足りねえ……」って考え込んでる。マスクの下でバレないようにちょっと笑う。
俺がどれだけ彰人くん以外興味ないって言っても彰人くんのその心配がなくならないことはわかってる。
俺は彰人くんが望むならなんだってするのに。
彰人くんが俺と付き合いたいと思ってくれたから俺から口説いたんだし、彰人くんが俺に抱かれたいと思ったから俺は彰人くんを抱いてる。たぶん、彰人くんが俺を抱きたいと思ったら、そうなるんだと思う。いまのところその様子はないけど。
彰人くんがそうしたかったら、俺の過去は変わって、変わったことも忘れる。行ったことある場所も、行ったことなくなる。言ってない言葉も、言ったことになる。俺は恋人ができたのは彰人くんが初めてだし、それが本当なのかどうかも今の俺にはわからない。
たぶん、だから俺は彰人くんになに考えてんだかわかんねえって思われてたし、みんなからも、やばいこと言うやつだとか勝手なことするやつだとか思われてる。
それがいつから始まったのか、わからない。颯真に誘われて歌い始めたときなのか? 彰人くんが歌い始めたときなのか? もっと前、彰人くんの数年前に、俺が生まれたときなのか?
考えすぎて、俺が経験してきたことすべて、良いことも悪いことも……何もかも、彰人くんのせいだと思ったこともある。だけど不思議と憎いとは思わなかった。なぜか、それは俺の存在がそうだからとしか言いようがない。
でも俺は颯真と歌い始めてよかったと思ってるし、俺がしてきた全部、後悔はない。いま、みんなとイベントやれてるのが楽しい。なにより純粋に、歌うのが好きで、音楽が好きで、この喜びを手放すつもりはない。
彰人くんの機嫌を取ろうと思ってるわけじゃなく、彰人くんが好きなのも、絶対に本当。毎日楽しいし、キスしてできることならずーっとハグしてたい。それから、これからもずっと一緒にいたいなって思うし、それを彰人くんに何度も伝えてる。
なのに彰人くんは不安そうな顔をする。
まあ、彰人くんが俺のことを、嫌いだ、消えてくれ、って思ったら、俺はいなくなるのかもしれないけどね。なんて考えてたら、魔が差した。
「俺が浮気したら、どうするの?」
最も恋人に言っちゃいけないことのひとつだ。もし、であってもこんなこと口に出すべきじゃない。でも、ちょっと悪戯したくなっちゃったんだよね。
彰人くんは驚きも悲しみも何もなくなったような表情でしばらく俺のほうを見ていたけど、ふ、と目を伏せた。
「お前を殺してオレも死ぬ」
想像してなかったセリフに言いようがなく興奮して、笑いそうになるのをなんとか堪える。
彰人くんの手で世界が終わる。
それって最高じゃない?
でもその未来は選ばせない。彰人くんだけを愛して、俺はまだ歌ってたい。