12/10:ニット グランから、次にフェードラッヘに寄港した際は数日間滞在するという内容の便りを貰っていたランスロットは、非番の日にグランサイファーに赴いていた。着いて早々、尋ねてもいないのにジークフリートは部屋にいると教えられてしまったが、平静を装って感謝を告げる。内心はいたたまれなさでいっぱいだったが逸る気持ちには抗えず、ランスロットはジークフリートの部屋へと向かった。
扉のノックに対しての反応を確認し、部屋に入る。久方ぶりに再会した恋人は寛いでいたのか、いつもの鎧姿ではなくゆったりとしたセーターに身を包んでいた。髪の長さも雰囲気も変わらず、柔らかい表情でランスロットを出迎える。
「お久しぶりです、ジークフリートさん」
「ああ。息災か?」
はい、とランスロットが微笑むと、ジークフリートは隣に座るよう促す。
「暖かそうな服ですね」
「ん?これか」
見覚えのない部屋着についてランスロットが言及してみると、ジークフリートは自分が今着ているシンプルな薄茶色の服は特別な種類の家畜の毛で作られているものだと教えてくれた。
「軽くて保温性もいいが、肌触りが特に優れているんだ」
触ってみるか?とジークフリートに促され、ランスロットは言われるがまま袖の辺りに軽く触れてみる。ごわつきがなくさらさらとしていて柔らかい生地からは、触れただけでも着心地の良さが理解できた。
「本当に気持ちいいですね」
触り過ぎるのも良くないかと思い名残惜しそうに手を離し、どこで買ったのかを尋ねる。フェードラッヘに来る前に立ち寄った島が紡績が有名な場所だったらしくそこで買ったそうだ。
「ユカタヴィラを買った時のように、今回もグランとルリアとビィに選んでもらったんだ」
3人とも真剣に選んでくれてな、とその時の様子を語るジークフリートは余程楽しかったのか、顔をほころばせていた。ランスロットの胸に温かさが宿ると同時に、微かに締め付けられるような切なさが湧く。
もう少し触れても良いですか、と遠慮がちな願いを了承すると、ランスロットはジークフリートの首と肩の間に顔を埋める。
「どうした?」
穏やかな声に、ランスロットはぽつりと返事をした。
「……機会があれば、俺も連れて行ってください」
甘えるように擦り寄る恋人に、お前の分も買ってきてあるといつ伝えるべきか。ジークフリートは困ったように笑った。