プロポーズ「私、少々あなたに言いたいことがあります。」
練習終わりにそう言って顔を真っ赤にしながらおれを見つめているのは、朱桜司。スオ〜はおれの後輩であり、Knightsの新しい王であり、おれの好きな人。好きだと気付いたのは最近になってからだ。フィレンツェにいる間も、ふとした時に考えているのはスオ〜の事ばかりで、セナには「いいかげんにしてよねぇ」と怒られる始末。日本に帰ってきては、会いたくて堪らなかったスオ〜を甘やかしているのだが、新体制になってからというもの、新人を多く抱えるKnightsは忙しい日々を送っており、スオ〜にはまだこの想いは伝えていない。いつも通り日本にいる間は作曲の他にダンスのレッスンもある。今日はたまたまスオ〜とのダンスレッスンの日だった。レッスン中は普段となんら変わらない様子のスオ〜だったが、レッスンが終わるなり怒りだした。怒っているというか、恥ずかしそうな感じもするし…。おれ、なんかしちゃったかなぁ…?そんなことを考えていると、ガシッと腕を掴まれた。
「わかったわかったちゃんと聞くからっ!」
そう言って宥めると、ふぅーっと深呼吸をしてからやっと話し始める。
「あっ、あの、レオさん…。」
「…。」
「私は、レオさんが…すっす…」
そこまで言われて、告白されているのだと思った。告白じゃなかったら恥ずかしいけど。でも、最後まで言わせる訳にはいかない。だって、ずっとおれから伝えたいと思ってた。両想いだったなんて。
「スオ〜ちょっと待ってここから先は、おれに言わせて?」
「わ、わかりました…。」
「司、おまえが好きだ、愛してるっ!おれと付き合ってください!」
「っ…はい。私も、レオさんが好きです。」
ぎゅっと司を抱きしめると、ふふっ♪と嬉しそうに、恥ずかしそうに、抱きしめ返してくれる。こんなことなら、もっとはやく伝えれば良かったな…なんて。しばらくの間、そのまま抱きしめ合っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とある撮影終わり、スーツに着替えてからスタジオを出たおれは少し車を走らせた後、一人街を歩いている。今日は指輪を買いにブライダルジュエリーショップに行く為、司には今日は夕方も仕事があると嘘をついてしまった。でも、今日だけは許して欲しい。さすがに連れてくる訳にはいかないからな…。そうこうしているうちに、お目当てのショップに着いた。真っ白い壁にガラスケースの立ち並ぶ店内は、まさにブライダルって感じだ。ショーケースの中には、キラキラとダイヤの付いた指輪がいくつも並んでいる。以前から決めて頼んでいた指輪を受け取りに来たことを店員さんに伝えると、快く接客してくれた。用意されたものを見ると、赤いリボンで結ばれた小さな白い箱、中にはダイヤの付いた指輪がはめ込まれている。
「ありがとう。絶対喜んでくれると思う!」
ショップの袋に入れてもらい、大切に鞄の中へと仕舞ってショップを後にした。よし、次は花だ!近くで注文していた花を受け取り、美味しいと評判のケーキを買って司の待つ家へと向かう。家が近付くにつれ、心臓がドキドキと高鳴っていく。司は、どんな顔でこれを受け取ってくれるだろう。司ならきっと喜んでくれるとそう信じて玄関のドアを開ける。
「ただいまー。」
「おかえりなさい!」
リビングの方から声が返ってきた。チラッと覗くとソファーで寛いでいる司と目が合う。さっきまで小説を読んでいたらしく、司のおやつと小説がサイドテーブルに置かれていた。
「ちょっとの間でいいから、いいよって言うまで目を瞑ってて欲しいんだけど。」
「わかりました…。」
目を瞑ったのを確認してから、リビングに入る。司をソファーの隣の少し広いスペースへと手を引いて移動させ、鞄から取り出した箱を胸ポケットへと移した。
「いいよ…。目、あけて。」
司の瞼がゆっくりと開かれ、スーツ姿で跪いたレオから目の前に差し出された花束に、まん丸い瞳を更に丸くしている。
「私に、くれるのですか…?」
「そうだよ。司に似合う色選んだんだ、受け取って?」
「ありがとうございます…っ」
「それから、もうひとつ。」
胸ポケットにしまった箱を取り出して、パカッと開いて見せる。
「司、おれはあの日から、司と一緒に人生を歩んでいきたいって思ってたんだ。」
「レオさん…っ」
「司を好きになった日からずっと、笑ったり怒ったり泣いたり、おれだけに見せる可愛い顔も全部大好きだ。」
「うぅぅ…っ。」
「これからも、おれはずっと司と生きていきたい。司、愛してる。おれと結婚してください。」
「はぃ、っう〜!」
「手、出して?」
そっと司の手を取り、指輪をはめる。ピッタリはまった指輪は、キラキラと一層輝いて見えた。ぎゅっと司を抱きしめる。おれ、今が凄く幸せだ。司もそうだったらいいな。
「これから、おれが絶対に幸せにするから。」
「うぅ〜レオさぁんっ」
「よしよし、そんなに泣かないで?」
「だってっ、嬉しくて…っ。」
「司の好きそうなケーキも買ってあるんだ。一緒に食べよう?」
「食べる…。」
ケーキの箱を開けると、色んな味のケーキがキラキラしていてまるで宝石箱だ。司はやっと泣き止んで
「どれにしましょう…♪」と目を輝かせている。そんなところも可愛くて大好きだ。
「ほら、あーん。」
「あ〜んっ♪美味しいですっ!」
「良かった♪」
「ここのケーキ、実はずっと気になっていたので箱を見たときはびっくりしてしまいました!」
「美味しいって聞いてたから買ってみたんだ。」
「そうだったんですね!」
司がケーキを食べている間に、鞄の中から楽譜とUSBメモリーの入った封筒をを取り出す。
「司、これも受け取って?」
「なんでしょう、開けてもいいですか?」
「うん。」
「これは…っ!これってっ…うぅ…」
「おれの気持ち、全部ここに詰め込んだから。USBにはさっきスタジオ借りて入れてきたんだ。」
「ありがとうございます…っ、私、こんなに幸せでっいいんでしょうか…。」
「おれは、司が幸せでいてくれたら嬉しいよ。あとでゆっくり聴いてみて。」
「はいっきっとまた、泣いてしまいますね。」
「そのときはおれが抱きしめるよ。」
「おねがいしますっ、最初のフレーズだけで、もう…。」
「せっかく司への曲書いたんだから最後まで読んでくれよ?それから、司の声で歌って。」
「わかりました…大切に歌いますね。」
「うん。愛してるよ、司。」
「私も愛してます、レオさん。」
すっごく緊張したけど、一世一代のプロポーズは大成功した。司は花束も指輪もケーキも曲も全部喜んでくれたし、返事ももちろん「はい」だ。ケーキ食べてるとき以外はずっと嬉しくて泣いてたけど、これから司にはたくさん笑ってて欲しい。どんなことがあっても絶対に司を幸せにする。
だっておれは、おまえだけのKnightなんだから。