お祝いはやっぱり皆で。「もうそんなに経つんだな……。」
そう呟いたレオさんは、いつもの嬉々として仕事に打ち込んでいる元気いっぱいな姿とはまた違ったどこか儚げな表情で夢ノ咲学院の校舎を眺めている。
過去を振り返ると、自分がユニットに加入してからというもの、怒涛の日々が続いていたのもまた事実で、メンバーも決して楽しいだけの学院生活ではなかっただろう。
それでも、こうしてこの人の横に立っていられるのは、何度もぶつかり合ってわかりあって乗り越えてきたものが確かにあるからだ。
この人が帰ってこなければ、今のKnightsはなかっただろう。ましてや誰一人かけたとしても、こうはならなかったのだと今は思う。
そんな事を考えていると、いつの間にか目が合った。
「なぁ、周年のお祝いだけど。」
「あ、はい。レオさんは事務所から向かわれますか?」
「うん、ラジオの仕事があるから。」
「では、また会場で。」
そう言ってレオさんとは別の仕事に向かい、一段落したところで支度をして会場への車に乗り込んだ。
「お待たせしました。」
「待ってたわよォ?ユニットごとの周年衣装も素敵ね♪」
「セッちゃん、さっきまで浮かれてたのに、なんかイライラしてない?あぁ、まだ来てないのがいるからか。」
「ほんとに、周年祭だってのにまたどっかで迷子になってたら許さないんだからねぇ」
「まあまあ、まだ始まるまでは時間があるんだしもうちょっと待ちましょう?」
「そうですね。近くまで来てるかもしれないので、ちょっと見てきます。」
事務所からならきっと地下駐車場に車を止めてから待合室に来るはずなんですが…。
「いない。これはまずいかもしれませんね…。」
もうすぐ周年祭が始まるというのに、セナ先輩の言う通りどこかで迷子にでもなっているんだろうか。そう思い一度電話を掛けてみることにした。
「あ、もしもし!レオさん貴方今どこにいるんです」
「おれは出ないつもり。」
「は?何を言ってるんですか」
「おれは一応在籍してたとはいえ、ちゃんと10周年てわけじゃないし……。」
「そんなことありませんよ!レオさんだってメンバーなんですから!」
「でもなぁ〜。」
「そんなに出たくないなら、私も出ません。そうなったら、Knightsだけメンバーが二人も欠けたまま出席するんですよ?いいんですか?」
「それでも、やっぱりおれはでない。」
「急にどうしたっていうんですか、早く来てください。でなければ、それ相応の理由がなければ到底納得出来ません。」
「もういい、司のばかばか!」
「あっ!ちょっとレオさんもう時間が……!」
まったく、一体全体何がそんなに嫌なのでしょう?会場に来ていないとなれば迎えに行くしかないでしょうが、さすがに時間も無くなってきている。なんだか頭が痛くなってきた……あれが前王だったのだから、どうにもこうにも世の中不思議なものですが。今はレオさんを探しに行かなくては。
「はぁ……。」
「司のばか……おれが出ないって言ったからって、あんなに怒らなくたっていいのに!」
「怒るに決まってます。」
「司なんでここにいるんだよ。」
「レオさんを探しに来たに決まっているでしょう。まったく、人の気も知らないでこんなところにいるなんて。」
「しょうがないだろ?」
「貴方って人は…。周年衣装まで着ておいて来ないなんて、一体何があったんですか?」
「…おれは別に祝いたくないわけじゃないんだ。でも、だからって今までのこと全部楽しかった〜で終わらせられないんだよ。」
「私はレオさんと戦った身なので言わせてもらいますが、Knightsはやっぱり貴方が創り上げたものだと思いますよ。勿論、他の先輩方もですが。皆さん貴方が居たから守って来たんじゃないですか?例え近くに居なくとも。そうして続いてきたんですKnightsは10年も。」
レオさんはいろんなものを抱えて王としてKnightsとして戦ってきたのだろう。自分の知らないところでも。ある程度は先輩方からKnightsの歴史について聞いているが、だからこそレオさんは一緒に祝うべきだと思う。
「なぁ…ずっと聞きたかったんだけど、王になってから楽しいか?」
「はい♪勿論ですとも。時には難しいことや困難もありますが、これは胸を張って言えます。Knightsの王はとても楽しいです♪」
「…そっか。」
「レオさんから受け継いだKnightsのメンバーは頼もしい先輩方ですし、私も背負うものはありますが皆さんのことを誇りに思っていますよ。その中にはレオさんも含まれています。心配しなくとも何者からも手折られることなくこれからも全力で戦っていきます♪」
「…うん、頼りにしてるぞ王さま。」
「ほら、行きますよ。私もレオさんの居る10周年をお祝いしたいですから。」
「悪かったよ我儘言って。」
「レオさんの言いたいこともわかります。楽しいことだけじゃなかったです。でも、それがあって今があると思います。これからも。」
「ありがとう。」
そう言ったレオさんの表情は、儚げに校舎を見つめていたのとは違う困ったような優しい顔をしていた。
ニャー…。
「また遊びに来ますね♪」
「またな。」
会場に着くのはギリギリになりそうだ。幸いレオさんも衣装は着ていて助かったが…。裏口に車を止め、なんとか間に合うようにと祈りながらロビーから会場までのエレベーターを待つがなかなか来ない。
「司、走るぞ!」
「はい!」
もう一曲目が始まってしまいそうだが、息を切らしながら精一杯走った。
「こんなことならもっと日頃から走っておくべきでした…!」
「もうちょっとだから頑張れ!」
やっとの思いで会場にたどり着き、勢いよくドアを開ける。
パ〜〜〜ン
「まあ♡」
「全然戻ってこないと思ったら」
「アハハあの二人なかなかやるねぇ♪」
会場の入り口だと思って開けた扉はステージ裏の扉だったらしく、「「10周年おめでとう〜」」の掛け声に合わせて打ち上がった特大クラッカーと同時に勢い良くステージから二人で登場するということになってしまった。事態を把握した時にはどうすることも出来ず、笑顔で手を振るしかなくなってしまったが、この状況ですら楽しんでいる様子のレオさんにはやっぱり敵わない。その後、何人か悟った人がみんなステージに上がってくると、何故かそういう流れになってしまい、全員でのパフォーマンスが始まった。ステージも終わり、会場のテーブルでメンバーが集まるとやっと落ち着いた。
「まさかあのタイミングで出てくると思わないじゃない?」
「まあそうだよなぁ!おれもびっくり!」
「私の方が驚いてますよ!」
「わはは☆」
「笑い事じゃないんだからねぇ」
「俺もさすがに心臓止まるかと思った。」
「すみませんでした…まさかステージの扉だったとは…。」
「おれの登場カッコ良かっただろ〜!」
「元はと言えばれおくんが迷子になってるからでしょお?まったく…今日はお祝いだから許してあげるけど!」
「二人とも間に合って良かったわァ♪やっぱりみんな揃ってお祝いしたいものねェ?」
「そうだよ、これでみんな揃ったんだしKnightsでお祝いしよ♪」
「私も賛成です。」
「ほら、かさくんはジュース。」
「乾杯しよっか!司、頼める?」
「はい!では、10周年を祝して!そして、これからのKnightsに〜♪」
「「「「「乾杯〜」」」」」
fin.