人攫い内藤「どうして根本はこの会社に入社してきたんだろう……」
根岸「どうしたんですか、急に」
離れたところで仕事をしている根本を眺める二人。
内藤「あんなに仕事ができて、人の上に立つカリスマを持っているのに、こんな所で燻ってるのが勿体無いと思ってな」
根岸「あぁ、アイツは此処に、他社体験と人攫いに来てるだけです」
オレはそれに付き合わされてるんですよ。
と、事も無げにサラリと言う根岸。
内藤「……は?」
持っていたペンを落とし、ポカンと根岸を見る内藤。
内藤「人…攫い?」
根岸「アイツも中々面倒くさい立場なので」
落ちましたよ、と内藤のペンを拾って渡す根岸。
そこで理解不能に陥っている内藤に気付く。
根岸「あ、言い方が悪かったですね。所謂ヘッドハンティングですよ」
ありがとう、と、ペンを受け取りながら、なるほど……と言葉の意味を理解する内藤。
根岸「自分の会社に戻る時、何人か目星をつけているヤツに声をかけるみたいですよ」
此処の社長には了承済みです。
内藤「そう、か……」
その時は、一緒に根岸も居なくなってしまうのかと思うと、つい寂しげな表情で受け取ったペンを見つめる。
根岸「因みに、オレにも一人分選択権が与えられているんで、気に入ってる人に声をかけてみようと思ってるんです」
内藤「……っ」
根岸に声を掛けられる者が羨ましいと、つい嫉妬でペンを握りしめる内藤。
その手に根岸が手を添えると、内藤は表情を取り繕うのを忘れ、寂しげな表情を浮かべたまま根岸を見上げる。
根岸「オレが人攫いするのは、貴方ですよ、和哉さん」
内藤「……え?」
ポカンと根岸を見る内藤。
根岸「その時は、良い返事を聞かせてくださいね、内藤課長?」
離れ側にウインクを一つして去っていく根岸。
内藤「〜〜〜っっ?!?」
頭が理解した瞬間、真っ赤になる内藤に、根岸は人懐っこい笑顔を浮かべた。