ひふどのプロットひふど プロット
・三ヶ月前くらいから一二三の当たりが強く、独歩は混乱を隠せないでいた。
数ヶ月前までは優しかったはずなのに、今では素っ気ない。
しかし、独歩のことを嫌いになったわけでも無いらしく、今朝も独歩の家まで迎えに来るのだ。
(朝、学校に行くために独歩を迎えにくるひふみ)
独歩は一二三に片思いをしている。自身の気持ちを自覚したのは三ヶ月前くらいだ。それから一二三の態度がそっけなくなったので、独歩は一二三の態度は自身の恋心が原因なのではないかと考えていた。
独歩は一二三の事が悲しくなるほど好きだった。目は口ほどにとはよく言ったもので、独歩は自分の気持ちを自覚してからというもの、気がついたら一二三を目で追っているし、よく目が合うようになった気がする。
しかし目が合うとふいと視線を逸らされるので、独歩はその度に少しだけ傷つくのだ。
鋭い一二三のことだ。独歩の態度から独歩の気持ちを察しているのだと思う。
独歩を避けたいが、一二三は優しいのでそれができずに困っているのではないか。
そう思って、
「俺と居てもつまらないだろ。習慣になってるとはいえ、毎朝律儀に迎えに来ることはないんだぞ」
と伝えても、「…別に、つまらないとか思ってないし。何、俺っちと一緒に居たくないならはっきり言えば?」
と言い返される。
独歩は小さく「一緒に居たくないのはそっちだろ」と呟く。
「…何、聞こえなかったんだけど」
「…なんでもない。」
今までは思ったことをすぐに口に出していたのに、最近ではひふみの顔色を伺ってしまっている。それが悲しくて、寂しかった。
・きっかけ
その日、独歩は疲弊していた。
新しく始めたバイト先は、某全国チェーンということもあり、とても忙しかった。
おまけに人も足りていない様子で、新人の独歩の研修もろくに行われなかったのだ。
そんな状態で仕事が務まるわけもなく、仕事は失敗の連続。
その上同じバイト仲間は女性がほとんどで、バイト仲間には「これだから男ってダメなのよね」と罵られる始末。
バイトから帰った独歩は、食事も取らずに部屋で泣いていた。
そこに夕飯のあまりを届けに来た一二三がやってくる。
独歩の母に独歩はいるかと聞いたところ、夕飯も取らずに部屋にいると聞いたので心配で見に来たというのだ。
泣いている独歩を見た一二三は「独歩どしたん!?お腹痛い!?」と動揺してオロオロし始めた。
とりあえず独歩が泣き止むまでそばにいる事に。
泣き止んだ独歩は、今日の出来事を語った。初めてのバイトが散々だったこと、バイト仲間に酷い言葉で罵られた事などだ。
一二三は黙ってそれを聞いた後、「独歩はなあんも悪くねえよ」といつものように優しく言った。
一二三の声は温かくて、とても安心できて、独歩の心に溶けるように入り込んでくる。
独歩はその時唐突に、「一二三の事が好きなんだ」と理解した。
そしてその衝動のまま、「好きだ」と口にしてしまう。
「え」
一二三のポカンとした様子に慌てて「友達として、これからもよろしく…!」と付け足す。
その言葉に一二三も「な…何、水臭いこと言ってんだよ、当たり前だろ〜っ!」と返してくれた。
これで何もない事になったはずだった。
でも、そうは問屋が卸さないらしい。一二三はあれからあからさまにぎこちないし、むしろどんどんよそよそしくなっていった。おそらく独歩の態度から自分への好意を感じ取ったのだろう。優しい一二三の事だから、今更自分から独歩を遠ざけられないに違いない。そう自分の中で結論付けた独歩は、一二三から離れることもできず、かといって恋心を捨てることもできずにいた。
現在軸
・隣の席の女子からラブレターを預かった。どうやら一二三に渡して欲しいらしい。
隣の席の彼女とは最近話すようになった。教科書を忘れた時に見せてもらったこともある。優しくて人当たりのいい女の子だった。
そんな彼女が一二三のことを好きだと言う。
独歩は素直に応援したいなと思った。もとより自分には告白する勇気はない。かと言って、このまま実らない恋を一生続けるのも嫌だった。諦めるきっかけにちょうどいいと思ってしまった。
放課後、帰ろうとするひふみに教室で独歩は言われた通りにラブレターを渡す。しかし、一二三の機嫌はすこぶる悪かった。
「これ、隣の席の女子から。裏庭に来てくださいだって」
「…これ、独歩の隣の席のコじゃん。最近独歩とよく喋ってるよな」
「…まあ、一二三と付き合いたくてまずは俺を踏み台にする人は珍しくないし。行ってやれよ」
すごいことだと思う。俺はあの時、友達としてって誤魔化しただけなのに。
「…ヤダね、行かない」
一二三の棘のある言い方についかっとなった。
「なんでだよ、行ってやればいいだろ···!」
独歩は声を荒げる。女の子の勇気に自分を重ね、つい熱くなっていた。
その様子に一二三はますます苛立っていく。
「独歩はムカつかないわけ?だしに使われたのに」
「そんな言い方ないだろ、仮にもお前に好意を寄せてくれてる人に」
「…何、やたら庇うじゃん。もしかして、この子の事好きなわけ?」
「ああもう、うるさいな!俺が好きなのはお前だよ!!!」
とうとう大声で告白してしまった独歩。
慌てて逃げようとするが間に合わず、一二三に腕を掴まれる。
「それ、ほんと…?」
一二三の真っ直ぐな視線に嘘がつけなくて、独歩は静かに頷く。
これで一二三との関係も終わりか。ぼんやりする独歩。
一二三は独歩を勢いよく抱きしめた。
「やばい、スッゲーうれしい…」
状況が飲み込めずに呆然とする独歩。
「ね、キスしたい。していい?ていうかしよ?」
「!?ま、待て!!」
慌てて一二三を引き剥がす独歩。
「お前、俺のこと嫌いなんじゃなかったのか!?!?」
「は?んなことねーけど」
「っ、でも、最近ずっと素っ気なかっただろ?冷たいし…てっきり、俺のこと嫌いになったんだと…」
「はあ!?」
一二三は驚いた様子で独歩を見つめる。
「あのねぇ!!俺が独歩を嫌いになるとか、宇宙がひっくり返っても有り得ねえから!!!」
そう大きな声で一二三が弁解する。
その様子に、ひとまず嫌われてはなさそうだなと感じたので、話の続きを促した。
「じゃあ、なんでぎこちなかったんだ?」
一二三はバツが悪そうに唸る。
「…なんか、最近の独歩すげー可愛くて」
「えっ」
「前から可愛いところあるな〜とは思ってたんだけど」
突然の可愛い発言に慌てる独歩。待て、ナチュラルに今可愛いって言わなかったか?俺のどこが可愛いんだ。目がおかしくなったんじゃないのか?というか、今最近って言ったか?いつから?
「ちょっと待て。最近っていつからだ?」
「三ヶ月くらい前かな?もう全部が可愛くてきらきらしてるし、俺のことだいすきーって目で見てくるし…それで、もしかして俺も独歩のこと好きなんじゃね?って気づいて」
「えっ」
三ヶ月前って、ちょうど俺が一二三の事が好きだと自覚した時じゃないか。一応隠していたつもりだったが、案の定ダダ漏れだったようだ。そして、こいつ今俺のこと好きって言わなかったか?
「もともと俺ってパーソナルスペース狭い方じゃん?なんかこう、好きって自覚したらたまんなくて、独歩だいすき〜の気持ちが先に行きすぎて、ずっと気をつけてないと独歩のこと押し倒しちゃいそうでさ…」
それで素っ気なかったのか…
「独歩も俺のこと好きなんかなって思ったけど、でも最近の独歩は俺といると楽しくなさそうだし、なんなら隣の席の女子と仲良さそうだし」
「う…」
「その子のこと好きなんかなーってイライラもしてきちゃって、独歩につらくあたっちゃうし…ごめん」
一二三の赤裸々な告白に顔がどんどん熱くなる独歩。
「…一二三、俺のことすきなのか」
「あれ、俺っち言ってなかった?」
独歩のほおに手を添える一二三。そのまま俯く独歩の顔を持ち上げた。
「好き。独歩、すきだよ」
「〜っ…」
(なんだこれ…身体中が心臓になったみたいだ)
顔を真っ赤にする独歩を見て、一二三は満足そうにしている。
「ね、独歩。さっきの質問答えてよ」
「質問?」
「キスしていい?」
独歩は頷いて、そっと目を閉じた。