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    はれお

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    はれお

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    供養させといて欲しい

    #キバカブ
    kivaKabob

    最後の夜 「キバナくん、僕と結婚をするにあたってひとつ約束をして欲しいことがある」

    日中の疲れを包み込むような、暖かで優しい夕陽が差し込むダイニングテーブル。2人で向かい合わせに座り、登記所に婚姻の手続きをするため書類を作成していた時の事だ。

    「なぁに、カブさん?」

    カブさんとやっと結婚ができる幸せに舞い上がり終始口元を弛め甘ったるく返事をする。

    「もし、ぼくが先に死んでしまっても跡を追わないで欲しい」

    窓から差し込む淡い赤黄色の光が反射して、彼のロマンスグレーの髪がキラキラと輝く光景をずっと見ていたから、頭が追い付かない。とても唐突な約束に目を見開き彼に迫る。

    「何を突然……」

    オレの言葉にカブさんは目を閉じて少し考える。持っていたペンを器用に数回指の間を回した後、重たい口を開いた。

    「ぼくとキバナくんには年齢という越えられない壁がある。勿論想いは同じだ。ぼくの残りの人生を全てきみと過ごしたい程、愛している」

    「それはオレも一緒だよ。何があっても貴方の隣を譲るつもりは無いし、オレの人生も貴方と共にある」

    結婚に対して、ジェンダーや双方が今まで構築してきたパブリック・リレーションズが崩れてしまうのではないかと悩み葛藤するカブさん。
    雁字搦めの鎖を解くため、ガラルの平等性・婚姻に対しての法律等をプレゼンにまとめ説得し、予めリーグ組織に二人で頭を下げ、スポンサー企業に迷惑が掛からないよう奔走した。毎日愛してる、大好きだと伝えることを忘れずに。そうしてようやく彼はオレと歩むことを決心し、今、この場所にいる。『待たせて申し訳ない』とカブさんが用意してくれた婚約指輪をはめたとき、彼を抱きしめながら一晩中感涙にむせんだ事は今でも鮮明に覚えている。
    一日千秋の想いでオレたちは結ばれるのだ。その後の話は無事婚姻証明書を貰い、結婚式を行って、一息ついた後ゆっくりと相談をしていきたい。ペンを持っているカブさんの手をそっと両手で包み懇願するように彼と目線を合わせる。

    「だからこそ、だよ」

    真剣な眼差しでオレを見据える、揺るがない想いを彼は語る。

    「もちろんぼくも、出来るだけ長くきみと一緒に過ごせるよう健康維持には十分気を付ける。老後迷惑を掛けない為にもね。でも、それだけじゃない。ぼく達の仕事は危険と隣り合わせだ。絶対に大丈夫だという保障はどこにもない。それはキナバくんも分かっているだろう」

    オレ達の仕事はジムチャレンジやトーナメント参加などポケモンバトルだけではない。ワイルドエリアの管理、ポケモンたちやトレーナーのレスキューなど命の危険が伴う事態もある。ナックルシティのジムリーダーを任され幾度も死地を越えてきたし、万全の対策で臨んでも生傷は絶えない。それはカブさんだって同じことだ。同意を込めて深く頷く。

    「それにきみは、そうだね、ぼくの事、本当に愛してくれているから。キバナくんのおかげでようやくここまで辿り着いた」

    カブさんは、オレの右手薬指できらきらと光る指輪に触れる。そうして、僕は本当に幸せ者だよと優しく目尻を下げ、先に書いたオレのサインをいっとう愛おしげに撫でた。

    「これから沢山の思い出を作っていこう。写真をたくさん撮って、動画もたくさん残そう。もし互いに何かがあって、一人になった時に寂しくならないために。その思い出がずっと寄り添ってくれるように」

    西日に輝く瞳がまるで燃えるように、不退転の決意をもってオレの目を射抜く。
    少しの沈黙、答えは決まっている。

    「分かったよカブさん。約束だ。もしカブさんが先に逝ってしまっても跡は追わない。もしオレに何かあってもカブさんはオレとの思い出と共に生きて、その思い出を墓まで持ってきてください」

    ふぅ……と深く息を吐き、彼は緊張の糸を解く。

    「お墓に入りきらないくらい思い出を作らなくちゃね!」

    「カブさん、写真に映るのとっても苦手でしょう?」

    「何事も修行だよ、それにキバナくんという心強い伴侶がいる」

    汗で濡れるオレの手からするりと抜け出し、持っていたペンを置く。そして彼は右手の小指とオレの小指を絡めた。

    「ホウエン地方で行われる約束の儀式だ。破ったら針千本飲ますとね」

    「何それ…すごく怖いんですけど」

    「怖いよ、それだけ破ってはいけない契り、ということだ」

    しっかりと結ばれた小指に少し力を入れ『約束だ』とまるで自戒するようにぽとりと呟き指を離す。性急に離れるその手をつかみ、両の手の指と指を絡ませ祈るように力をこめる。

    「Cross my heart and hope to die, stick a needle in my eye.」

    それは痛そうだとくすくす笑う彼の手のひらもしっとりと濡れている。
    「ありがとう」、心が軽くなり解き放たれたように彼は肩の力を抜いた。


    カブさんはいつものように力強く自分のサインを記す。完成した書類の最終確認を行うと、何よりも大切な宝物のようにそっと丁寧に茶封筒に仕舞い封をした。彼から封筒を受け取る。受理されればオレたちは恋人から家族になれる。

    「明日、一緒に提出しに行きましょうね!」

    晴れるといいなぁ、とびっきり幸せな一日になるように。
    彼は静かに窓辺に視線を向けた。やわらかで愛情に満ちた優しい眼差し。昼間に遊び疲れたポケモン達がうつらうつらと夕寝をしている。

    「明日は快晴だね」

    雲一つない空に燃えていた夕日が沈みゆき紅掛空色に染まる。

    「最高の日にしましょう!もちろん動画も写真も撮って!!」

    ポケットから『出番だ!!』と飛び出てきたロトム、突然オレたちをカシャりと写真を撮り『明日の練習ロト』とご機嫌に飛びまわる様子に2人で声を出して笑った。


    「さぁ、夕食の準備をしようか」

    席を立つといそいそとキッチンへ向うカブさん。今日はホウエン料理が食べたいというリクエストに応じてもらい、昨日から味を染み込ませている料理の最終チェックに入る。オレも寝ているポケモン達を起こして彼らの食事の支度をすべく、茶封筒を鞄に仕舞うと窓辺に向かった。

    「明日は快晴だな」

    一番星が輝く空を眺めながら祈るように呟く。そっと寄ってきたフライゴンがふりゃぁと肯定をするように鳴いた。

    恋人同士の最後の夜が始まる。
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