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    はれお

    @rakugakibako
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    はれお

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    #hpnz

    バトルだって恋だって「おわっっったぁ!!」 
     シュートシティのバトルタワーにて行われていた講義も終わり、長く同じ体勢であった身体をぐぅーと伸ばす。窓から見える空は朝から変わらず雲一つない気持ちのよい晴天。早く外で遊びたいとモンスターボールをカタカタ鳴らすエースバーンに(もう少し待っていて)とひと撫でし、荷物をまとめ駆け足で外に出た。
     飛び出るようにボールから現れたエースバーンは、オレの周りをくるくると駆け回り『早く遊びに行こう』と飛び跳ね催促をしてくる。
    「ランチを買って、いつものバトルコートでバトルしにいこうな!」
     シュートシティの東側にある住宅街。そこにあるバトルコートは老若男女問わず楽しそうにポケモンバトルを繰り広げている。観戦をしたり、バトルを楽しんだりとオレとエースバーンのお気に入りでポケモンの勉強にはもってこいの場所だ。
     エースバーンは『わかった!!』と元気に頷き、一直線に馴染みのサンドイッチショップへ走っていく。彼に置いていかれないよう荷物を持ち直し全速力で後を追いかけた。

     サンドイッチの袋をしっかりと抱え、エースバーンに遅れまいと走ること数分。楽しそうに子供たちがポケモンバトルをしている横を通り過ぎると、木漏れ日が降り注ぐ目的のベンチが見えてきた。
    おや、どうやら先人が居るらしい。ポツンと人影が座っている。目を凝らし様子を伺うと、見覚えのある白と黒の長髪を柳のように前へとしなだらせている、良くと知った人物だ。
    (ネズさん!!!)
    久しぶりに会う彼に心が浮き立つ気持ちとは裏腹に、そのベンチだけが異様に暗い雰囲気を醸し出していた。

    「こんにちは!ネズさん!!」
     頭を前に低く垂れてうつむくネズさんからの返事は無し。もしや寝ているのか?こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまう。
    「エースバーン、寒そうなネズさんを抱きしめてあげて!」
    「それはやめなさい!勢いが強すぎて骨が折れちまいますよ」
     目を輝かせ、クラウチングスタートの態勢で今か今かと鼻息を荒くしているエースバーンにストップをかける。しょんぼりとオレに抱きつく彼を宥めながら、ネズさんの横でお昼ご飯を食べる許可をもらい、彼の隣に腰をおろした。

    「元気がないみたいだけど、何かあった?お腹が痛いとか?」
    「お腹が痛い訳じゃないよ。ちょっと気分が落ちていただけ」
     マリィと同じ齢の少年に心配されるとか、おれもまだまだですね。しなだれて前側に落ちていた髪をかき上げつつ姿勢を整える。嗅いだことのないどこか甘くスパイシーな大人の香りにドキドキとする気持ちに疑問を持ちながら話を続ける。
    「それで?なんで項垂れてたんだ?ネズさんの回りだけあまごい状態のようにどんよりしていたぞ!」
     周りの天気まで変えていたとは……全く情けねぇですね。深い溜息をつくとまたネガティブモードに戻ってしまうネズさん。
    「オレでよければ相談に乗るぞ!サンドイッチ食べる?」
     袋からごぞごそと取り出して、彼に1つ差し出す。
    「私的な話なので大丈夫ですよ。成長期なのだから沢山食べなさい」
     突如『ぐぅ』と鳴るお腹の音に照れ笑いをして、それじゃぁ遠慮なくとサンドイッチの包みを開きランチの準備をする。
    いつも助けられてばかりなので、少しでも恩返しが出来ればと思ったけれどオレには話せない難しい問題なのだろう。残念だけど仕方がない、また機会があると気持ちを切り替えよう。
    「そのままでは喉が詰まってしまうよ」
    差し出されたのは封の開いていないミネラルウォーター。どこまでも面倒見が良く兄貴肌のネズさんに、またも甘えてしまう自分を少し情けなく思いながらミネラルウォーターを受け取りお礼を伝えた。

     隣でバトルコートの試合を興奮気味に見ているエースバーンにオボンの実を数個渡し、自分もランチを始める。今日は奮発して肉厚のベーコンが入ったものだ。じゅわりと口に広がる香ばしく焼き上げられたベーコン。瑞々しいトマトとレタス。コクのあるホワイトチェダーチーズと、刻み玉ねぎがたっぷりと入りニンニクの風味とホウエンの焦がしショウユ?が広がるソースが絶妙なハーモニーを醸し出している。そして香ばしくトーストしたパン生地が中身とベストマッチしていて大満足のサンドイッチに舌鼓をうつ。
     オレが2つ目をぺろりと食べている間、ネズさんはぼんやりとポケモンバトルを眺めていた。時折溜息をついてはどこか上の空、心ここにあらずといった状況だ。そっと顔を伺うと、いつもより濃い隈にあまり眠れていない様子が伺われた。今は何を話しても邪魔になるだけだろう。オボンの実を食べ終えたエースバーンがうつらうつらとし始めたので、少し隣で休憩をさせてもらってから野良のポケモンバトルに参加させてもらおう。膝にしなだれてくるエースバーンを優しく撫でながら、受講した講義の復習をすべくノートを開いた。

     「……Mmmmmmm…♪ La la la…♪♪」

     あまりにも気持ちの良い気候、充実した講義の内容、とても美味しかったサンドイッチ、そしてなによりも一緒に居るととても弾んだ気持ちになるネズさんとの時間に、高揚のまま無意識下に鼻歌を歌ってしまった。これはまずい!落ち込んでいるネズさんに『調子に乗るな』と気分を更に害してしまう。急いで謝るべく彼の名前を呼んだ。
    「わわっ!ごめんなさいネズさ」
    「ホップ」
     がしりと両肩をつかまれ急に合された真剣な目線。曇天の様に濁っていた瞳の色が、頭上に広がる何もかもを吸い込んでしまうような空の青さと同じ色に変わる。
    「もう少しその歌、歌ってくれませんかね?」
    「さっきの鼻歌?こんなの思いつきで歌ってしまっただけで……」
    「そのまま、おまえの感じるままに歌ってください。おれの助けになると思って!」
     ネズさんの剣幕に気圧され首振り人形の様にコクコクと頷く。すみませんと肩から手を離すと聴き入る体勢なのか詰められた距離、感じる彼の体温にドキリとする。そんなことを言われてもすぐには考えがつかないけれど、先ほどの高揚した気持ちのをそのままにとりあえず歌い続けた。

    「さいっこうのナンバーでしたよ…」
     1分程だろうか、適当に奏でた歌に感嘆の息を漏らすネズさん。とてもとてもプロに聴かせる歌ではなかったであろう。満足そうな笑みを浮かべ余韻に浸るように目を閉じる。そして急にスマホロトムに何かを打ち込み始めた。
     バトル時以外は波風立てず冷静で落ち着いている彼が、ずっと欲しかったおもちゃを買ってもらった子供のような瞳でオレの歌を聴き、相槌を打ち、真剣な表情でスマホロトムと対峙する。今までに見たことがないコロコロと変わる表情に何故か鼓動が速くなっていく。
     これはなんだろうか?この気持ちを言葉にするとしたら?苦楽を共にしたポケモン達は盟友だろう。兄に向ける気持ちは敬愛、マサルに向けるのは友愛。どれもネズさんには当て嵌まらない。難解な問題に頭をぐるぐると悩ませる。

    「……やっとできました!!!」

     スマホロトムから目を離し脱力したかと思うと急に立ち上がる。そして、オレの前に来るや否や力強く抱きしめられた。ランチ前に嗅いだ香りがネズさんの身体と交じり合い強く鼻孔を擽る。急な展開に考えていたことなどすべて四散し、目の奥がちかちかする。
    「ありがとうホップ。最高の曲を書くことができました。どうしてもワンフレーズが思いつかず、恥ずかしいことに焦燥感に駆られ、むしゃくしゃとしていました。あぁ、本当に最高の気分ですよ…愛してますよホップ」
     熱い抱擁の後、離れていく彼は晴れ晴れとしていた。身体に残る彼の体温は心臓の鼓動を搔き立てる。心から安堵した表情に、これからも彼の助けになりたいと切望する。出来れば一番に頼ってほしいとも。たぶんネズさんが囁いた『愛しています』は感謝の言葉であろう。でも、それが答えだ。出会ってから道を迷わないように導いてもらい、募らせてきた想い。きっとオレの顔もネズさんと同じように晴れ晴れしているだろう。

    (大好きだよ!ネズさん!)

     恋しくて恋しくてたまらない気持ちにやっと言葉が見つかった。

     今日のお礼にとポケモンバトルに付き合ってくれるというネズさん。くっきりとできた隈のことを尋ねると「大体2…3日目ですかね?」と曖昧な返事が返ってくる。
    「ホップのおかげで眠気など吹き飛びました。そして曲が完成したことでアドレナリンが沸き立っていますよ。遠慮せずに掛かってきなさい。それとも『元スパイクタウンジムリーダー』では物足りないですか?」
     挑発的ににやりと笑い、空いているバトルコートへゆったりと歩いていく。やはりネズさんはオレのスイッチを変えるのが上手だ!溢れる気持ちをバトルモードに変える。

     彼が急に動き始めたときに飛び起きたエースバーンも一人ドリブルに飽きて、オレの服を破れんばかりの勢いで引っ張る。さぁ、この気持ちをどうやって伝えようか!バトル戦略を組み立てる時の様な興奮が込み上げてくる。
     エースバーンと共にバトルコートに駆け足で向かいネズさんと対峙する。とりあえずはこのバトルに勝たなくては!頬を力強く叩き気合を入れ、意気揚々とバトルコートに立つ彼に向かって叫んだ。


     「覚悟しろよ!!!オレは絶対に負けないぜ!」
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