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    イアさん

    @iasan03

    オリジナルとファンアート

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    POIPOI 16

    イアさん

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    うちよそ交換小説第4弾です
    完全身内向けです
    お相手様の作品リンクがございますので交互にお読みください

    お返し
    「者忘れ 者綴り」
    https://ncode.syosetu.com/n0478gf/

    続き
    「他者と。」
    https://poipiku.com/6909144/8947790.html

    物覚え 物語り新緑の季節、花は散り緑が芽吹く
    青々とした深い森に、爽やかな昼下がりの風が吹き抜ける

    あの空間の外に自ら赴くのは、どれほど久し振りだろうか
    外のセカイには時間が存在する
    各々自分達の時間を、確りと刻んでいる

    「もう、春も過ぎる頃か」

    周りの木々より背の高い、煌々とした赤い鳥居のふもとに、大きな翼が舞い降りた

    ここは幽世、あやかし達の集う場所
    その深部の小高い山にそびえるは、代々稲荷が務める深林のお社

    荘厳な作りの神殿に、足を運ぶ
    境内の掃除をしていた巫女姿の大柄な狐娘がパタパタと駆け寄ってきた

    「神様!!!!!」

    無邪気に微笑む娘の雪のように白く長い髪がふわりと揺れる
    昼の日差しに照らされて眩く光るその姿に、思わず目を細めてしまった

    「ぁ、ぁの!大丈夫…ですか?」

    大きな身体が小さく屈み、こちらを不安げに覗いてくる
    「…大丈夫だよ。久方ぶりだね」

    「はい!お久しぶりですっ!」
    元気よく返事を返すこの娘は、お社の宮司
    …巫女姿は、創作者の完全な趣味だ

    正直者で純粋、疑う事を知らない無垢な乙女
    彼女の心もまた、降り積もる雪のように真っ白だ

    「最近、めっきり筆が動く事が無くて…。…他所のお話はたくさん貰えますが…神様のお話も読みたいです」

    しゅん、なんていう効果音が似合いそうな程に耳をペタリと倒す
    ここ最近は自分の事ばかりで、世界に全く見向きもしなかった
    あの手紙が、自分を少し変えてくれたのかもしれない

    待てど暮せど、帰ってくる時間はいつも決まっている
    ただ時間が過ぎるのを待つには、いささかあの空間は広すぎる

    「そう落ち込まないでおくれ。良い作品を書く著者には、挫折が付き物なのだよ」
    「神様でも挫折することってあるんですか!?」
    「そりゃあ創作の神様でもあり、"創作者"の神様でもあるからね。君達に起こり得ることは私にも起こり得る。」

    驚きでピンと立った耳が、再びしなしなと元気を失くす
    「すみましぇん…。そんなことも知らないで私…。」

    素直な反応、気持ちが身体にも出てしまっている
    私の世界の子らはどうしてこうも愛おしいのだろうか
    思わず口元が緩んてしまいそうになるのを、そっと手で覆い隠しながら
    「気にすることはないよ。君も物書きとしてはまだこれからなのだから。その内色んな事を経験するようになるさ。」

    それでも出来れば、挫折なんてのは味わってほしくは無いけどね

    「はい。精進いたします!」
    「それで、今日はどのようなご用件でいらしたのですか?」

    用件…特に何かをしに来たわけではないが
    暇つぶしだ、なんて言うのは流石に可哀相だ
    「外の空気を吸いに、ね。息抜きは創作活動にも必要なのさ。そのついでに、君の可愛い姿でも見て、癒やされようかなと」

    「!!!!!!!!!」

    「かかかかわわわ…」
    分かりやすく動揺してるな
    白く綺麗な肌を赤く紅潮させて、口をまごまごと
    言えない言葉の続きを探して空気を噛んでいる

    彼女はあの子よりも反応が大袈裟で新鮮だ
    弄り甲斐もその分あるが、愛でる甲斐もまた充分にある

    「ふふふ、相変わらず可愛らしい反応をしてくれるね。本当は少し滞在したかったけど、まだ行く場所があるから」
    「今日のところはお暇させて頂くよ。」

    「はぅ…そうなのですね」
    「神様はお忙しい方ですからね。私、わがままはいいませんっ」
    今度は耳をピンと立て、落ち込みの様子を見せまいとしている
    …代わりに尾が垂れ下がっているが

    「今度こちらに来た時は、ちゃんと構ってあげるよ」
    ふわりと空に舞い、彼女の両頬に手を添える
    そして、額に優しく口付けをした

    「澄怜、次会った時は君の"お話"を聞かせておくれ」

    そっと手を離し、振り返らずに大空へと飛び立つ
    どんな顔をしているのだろうか、へなへなになった彼女を見るのは、彼女の名目の為にやめておこう

    「うぅぅ…神様はいつもずるいです…」

    「…私、現世の人達みたいに、素敵なお話、たくさん書いて見せます!」
    「だから、もっと、貴方に会いたい…な」

    澄み渡る清水のように可憐な声が
    新緑の山に木霊した

    暫く見ないうちに忘れてしまったのか、はたまた都合の悪い記憶は忘れる質なのか
    私が散々仕掛けた悪戯やセクハラは、覚えていないようだ

    元気よく出迎えられた時はギョッとした
    おかしい、この子の記憶は弄っていない筈だ
    この世界一の嫌われ者が、まさか歓迎されるなんて

    つい先日だって、彼女を───
    「おかしたはず、なんだけどなぁ」

    夜明け前の白んだ空間が、赤く染まったあの日
    自分は全ての存在を喰らい、おかし
    その体内であいした

    「再生した時に記憶もリセットされちゃったかしらね」
    ま、世の中知らない方が良い事だってある

    翼を翻し、更に世界の奥深くへ
    次に目に飛び込む景色は、巨大な樹木
    ただ広く何も無い空間にそれは鎮座していた

    自分のいつもの空間に似たこの場所は、全ての物語が集まる場所
    セカイと人々が生きた証、それらが書物として保管、管理される空間だ

    「…正直ここは飛ばしたかったんだけどねぇ…」
    何故こんなにも厄介な作りにしたのか
    過去の自分に問いたいところだ

    創作世界に入るには、そのセカイを築き上げた作者ですら、セカイの門をくぐらずにはいられない

    このセカイ達は産み落とされたその瞬間、彼らは己の力で成長していく
    ひとりでに物語を紡ぎ、歴史を作るのだ

    創られたセカイ一つ一つには"時間"が存在し、決まった運命を辿る事になっている
    だからこそ、他の"可能性"が存在してはならないのだ

    新しい分岐、新しい物語が産まれてしまったが最後
    その産まれた物語は、この世界のバグ、不要物として処理される事となる

    それを防ぐ為、干渉する際に手続きが必要となる
    自身がセカイに影響を及ぼさない最小限の存在になる為の手続きだ

    それが、門をくぐるという行為

    しかし、物語の中の人物達はそれ"のみ"で存在しえる
    彼らは独立した単一の存在なのだ
    だからこそ抜き出し、自分の身許に置くことができる
    前回の祭り………
    …惨劇はそうして生み出された

    「また抜き出しましたね。このクズ作者」

    つんと張り詰めた無機質な声が、鋭い矢のように此方を穿つ

    「あは…」

    生気の無い、乾いた溜息が空を切る
    「…お前が元に戻せても、不具合は消えないんです。誰がクソガキの尻拭いをしてると思っているのですか」

    不機嫌そうな苛立ちの表情
    それに相反して語る言葉に感情は無い
    冷たい金属の様な声色

    「いい加減にしてください。この仕事やめますよ」
    「へらへら笑わないでください。気色悪い。吐き気がします」
    …息をするように罵詈雑言を吐く白衣の女性…
    否、彼女に性別は無い
    本人が女性らしく振る舞うので、一応女性として捉えている

    私がこうして一人脳内お喋りをしている最中も、不満を言いながら流れるように誹謗中傷をしている
    一体そのボキャブラリーは何処で仕入れたんだか

    彼女は修正者にして門番、このセカイを牛耳る長
    そして、私の可愛い"創作物"

    「何もの思いに耽っているんですか、貴方が頭を使った所でロクなアイデア浮かばないでしょう」
    「まだやる事が残っているんです。邪魔しないでください。存在が邪魔」

    …可愛い…?
    否かわいいさ、彼女とて自分と同じようにこの空間で一人なのだ
    何かやる事がある方が、気も紛れるに違いない
    「そう、だから私は君のためを思って──
    「いるのでしたら早急に出ていってください二度と来るな」

    「あは、手厳しい」
    「…今日は少しお出かけをしようと思ってここに「馬鹿なんですか、頭沸いてるんですか」
    「あれだけ掻き回しておいて、今日は出かけたいから開けてくれなんて要求、私が受けると思いますか?想像力無いですね創作者失格、やめてしまえ」

    「…なぁ、ゼロ。話を聞いてくれないかい」
    緊張の糸が張る、彼女の動揺が直に伝わってくる
    依然として不服そうな表情は変わらない
    しかし確かに私の言葉に反応を示している

    この子もこの子で、分かりやすい

    「…珍しいですね。貴方がその名前で呼ぶなんて」
    「お気に召さなかったかい?ならいつもの名前で「呼んだら二度と口を聞けないように縫合して喉笛斬りつけてあげます」
    おぉ怖い怖い

    「…どういう風の吹き回しか知りませんが。普段の貴方では無い事は確かです」
    「少しだけ開けてやります。ありがたく思いやがれください」
    もう敬語崩壊してるぞ
    なんて、野暮な台詞は飲み込んで

    どうやら名前の呼び方がよかったのか、運良く出かけられそうだ
    実は自分自身、そこまで変化があった訳では無いのだがな

    白い白衣をハタハタとはためかせ、着々と準備を進める
    樹木の中は空洞になっており、無数の"本"が貯蔵されている
    それはセカイであったり、一人の人間だったり
    ありとあらゆるモノ達の魂が、そこに刻まれている

    それらの本に関門を築き、扉を開けるのが彼女の"鍵"だ

    これは彼女にしか使えない

    あまつさえ創作者である自分ですら、その鍵を使う事は出来ない

    無数の本が宙を舞い、一つの大きな時空の扉となる
    彼女がそれに向かって解錠をする

    「…開きました。時間制限を掛けてあるので、時間が来たら強制的に弾き出されます」
    何だそれは、自分で設定したのか
    「自分で作ったのか、という顔をされていますね。権限を与えたのは貴方ですよ。違いますか?」
    はい、そうでしたね
    それぞれ大まかな世界を管理する者達には、権限を与えている
    この世界を動かす力だ

    この辺りの話はまた、いずれするとしよう
    開け放たれた時空の扉に、私は飛び立つ

    振り返り、お礼の挨拶でも───
    「振り返るなさっさと飛んでいってください」
    はい……

    踵を返し、大きく羽ばたく
    周囲の景色が次第に変化し、自分が産み出した世界が、目下に広がっていた

    …あいも変わらず
    「嫌われてるなあ」

    この先は創作の世界、創られたセカイ
    ちょっとした変化が大きく作用してしまう空間
    本来ならもう少し近くで、己の愛娘達を眺めていたかったが、今回ばかりは仕方無い
    それに、再生したからといって、全ての者達の記憶が失われている訳ではない
    このセカイには、例外も存在するのだ

    「それに…」
    私はいわばこのセカイ達の神たる存在
    そう易易と姿を見せる訳にはいかない

    少し離れた場所から、己のセカイを眺めた
    セカイからセカイへ飛び、久し振りに皆の"本来の姿"を目に焼き付けた

    改変など、あってはならない
    ましてやその原作者が世界をかき乱す行為など言語道断

    「…可愛い我が子、大好きな私の世界」

    自分に許されるのは、見守ることだけ
    物語への干渉は、本来は禁忌なのだ
    強かで美しいセカイたちを眺め終えて、普段の自分の在り処へと舞い戻る

    そろそろ彼女が帰って来た頃だろうか
    今日もまた、私は手紙を書く
    あの手紙が、自分に許された唯一の干渉

    「外の。それも他所の娘にこんなにも自分が恋焦がれるなんて、ね」

    紫色の小さな光が、戻ってきた自分の元に大慌てで飛んでくる
    暫くこの空間を空けるような事など無かった為か、随分と心配している様子だった

    「だ、だ大丈夫ですか!?誰かに襲われたりとか…」
    「この世界の主は私よ。他の誰でもない」
    「他所者なぞに狩られる程、私は弱くないわ」

    「そう…ですよね…。帰って来てから何処にも姿が見えなくて、良くないことばかり考えちゃって…」

    「…」

    創作者クリエイター…?」

    「今は、その名前はやめて」

    何を、しているのだろう
    私は彼女を抱き締めている
    その身体では不便だろう、と学園の皆に合わせて
    自分と同じ位の等身に変化させた彼女を
    私は抱き締めていた

    今日は、珍しい事が沢山起きるな

    「…失礼。少し外の見回りをしててね。心配を掛けて悪かった」

    「…いえ、大丈夫です」
    「─────。」

    久方振りに聞いた、自分の"名前"
    …今日はそういう気分なんだ
    なんだか、話しかける彼女の表情が
    いつもよりも暖かく感じた

    暫く他愛もない話をした後に、ようやく手紙を受け取る
    今回はどんな返事が返ってきているだろうか

    「…驚いたな」
    「…?何がですか?」

    「薔薇のあの子、学習している」
    「読み書きを、ましてや漢字までも」
    「凄い…記憶しているのか、全てを…」

    表現はあいも変わらず可愛らしいものの、文字の綴りがあからさまに変化している
    字も何処か整っているように伺える

    外の世界の子らはおそろしいものだ
    そして何より興味深く、面白い
    あぁ、だからこの子との文通にやみつきやのだろうな、自分は

    「青が見えない…」
    色盲なのだろうか、色が見えないのは世界を渡り歩くのに少し味わいが欠けるだろう
    それに、せっかくの飾りの色さえも、この子は認識する事が出来無いのだ

    然し、見えないからといって、それは欠点になり得るのだろうか?
    自分はそうは思わない
    目に見えるもの全てが、一つの表現とは限らない

    「久し振りに、飛べそうな気がする」

    この手紙の主となら、またこの世界に翼を広げられる
    そんな気がした

    「今日、飛んできたんじゃないんですか?」
    「違う違う。」

    「想像の翼、ってやつだよ」

    ───────────────

    拝啓 紺碧の花弁
    BlueRose様へ

    手紙の仕掛けに喜んで頂けて何よりです
    あのように細工を施すのが、私の密かな趣味でもあります
    以前の書き方でも大丈夫との事なので
    普段の書き方に戻そうと思います

    BlueRose様は記憶力が優れているのですね
    文面から、それが見受けられます
    そちらの世界と、こちらの世界は言葉が違うようですが
    このまま文通を続けてもよいのでしょうか?

    私は創作物でありながら、現実の世界とも繋がりがあるので、影響を受けても問題はありません
    しかして、貴方の事は未知数なので
    私はどうしても心配なのです
    貴方が、この世界の言葉に染まってしまったら…と

    貴方様としては、そんな事はないと思われるかもしれません
    ですが、触れてしまったその瞬間から、侵食は免れないのです
    外の世界の事をあまりよく思われていないと、使いの彼女から伺っております
    もし、文通をやめたい場合は、気兼ねなく申し出ください

    今日は、久し振りに散歩をしました
    私は明らかに貴方の影響を受けています
    ですが、この変化はとても良い変化です
    自分は何も出来ていないと思われていたら、それを私に撤回させてください
    貴方のおかげで私はまた、この世界の飛び方を思い出せるようになったのですから

    見たいもの…そうですね
    欲を言えば全てを見たいです
    この世の中に存在する、ありとあらゆる事象をこの目で
    普段はこの空間に籠もりきりですが、案外好奇心旺盛なんです
    まだ見ぬ新しい発見を目指して冒険、というのも憧れたりしますね

    この世界には、私達の知り得ない未知のものがまだ存在します
    でも、全ての物を見終えたら、面白くなくなってしまうので
    程々に謎を残した方が良いのかな、なんて思ってもいます

    お話が変わりますが、青の色が見えない
    海原を知らないとの事なので、今回もまた
    面白い仕掛けをしてみました
    読み終えた手紙に、耳をすませてみてください

    貴方なら、私よりも上手く羽ばたけるはずです

    薄明の翼 イアより

    ───────────────

    「今回は音、なんですね」
    「表現は一つじゃないからね。それもまた有りだと思わない?」

    「えぇ、素敵だと思います」

    拝啓、黒と白のお二人へ

    私の世界に、あの頃の輝きが戻ってきたような、そんな気がします

    あの時、相談に乗ってくれてありがとう

    あの方の為に、もっと勉学に励もうと思う

    敬具────

    広い薄明の空に、小さなさざ波の音が響く
    押し寄せる波は何を形作るのか
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