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    ParAI_t

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    ParAI_t

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    言葉よりも雄弁な / クロアス

    クロービスさんキャラスト公開記念第四段①。
    え、もう、どうしろと感がすごいのですが、お約束はお約束ですので…!
    明日まじでどっちに転ぶというのか、公式に命握られてる感がすごい。

    ##クロアス

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    「勇者さん、ありがとうございますー。おかげ様で随分片付きましたー!」
    「いえいえ、お手伝いになったらよかったです」

    午後の予定を失ったアステルは、書庫でサシャと本の整理をしていた。地下に所蔵されている本と書架の本の定期的な入れ替えは、人手が多く必要な大仕事である。今日一日では到底終わらず、また手伝うこともありそうだった。

    「またいつでも呼んでくださいね」
    「すみませんー。クロービスがいれば、もう少し効率良くできるのですがー」

    名前があがった瞬間、アステルの顔に一瞬暗い影が差した。サシャは穏やかな表情で、無理には聞きませんが、と断りを入れる。

    「クロービスと何かありましたかー?」
    「何か、というほどのことじゃないのかもしれないんですけど…」

    ぽつりぽつりとアステルは今までの出来事を話し始める。最初は会話もままならなかったこと。段々と話題が増えて次の機会が楽しみになったこと。それなのに最近以前よりも距離が遠くなってしまったこと。全てを話し終えたアステルは、思った以上に沈んでいる自分の声に苦笑する。

    「なるほどー。最近はよく眠れていそうに思ったのですがー」
    「サシャさんが勧めてくれたお茶のおかげかもしれないですね」

    アステルは激務の続くクロービスの力になりたいと、サシャからいくつかリラックス効果のあるお茶を教えてもらっていた。今日も持っていくつもりだったのにな、とアステルの心にまた一つ影が落ちる。

    「私、何か怒らせるようなことをしてしまったんでしょうか…?」

    徐々に声を失いながら、せっかく仲良くなれてきたと思ったのに、とアステルは寂しげに俯いた。平素は希望に満ち溢れた新緑が今は闇夜に染まっている。サシャはゆるく頭を振ると、一つの本を差し出す。

    「勇者さん、この本を読んでもらえますか?」
    「これ、ですか?」

    サシャから本を受け取ったアステルはぱらり、とページを捲る。中にはこれまでの旅が克明に記されていた。

    最初の第一歩を踏み出したグランロット。
    共に並び戦う覚悟が試されたレジェンドラ。
    仲間を信じ抜くことに気付かされたイヅルノ。
    世界の希望として広く皆に示したラクリモッサ。
    魔王の残した爪痕の大きさを痛感したバルシオン。
    大切なものを守る戦いの覚悟を決めたステラミーラ。

    勇者として過ごした時間が、そこには確かに存在していた。

    「勇者さんはこれまでずっとひたむきに頑張ってきましたー。そうして得た絆は簡単になくなってしまうものではない、と僕は思いますよー」

    柔和な笑みを湛えたサシャに、アステルもふっと口元を緩める。
    クロービスが何を思い詰めているのかはわからないままだ。けれど、積み重ねてきた想いが消えてしまったわけではない。お茶をすることも、話をすることも、視察について行くことも、最初では考えられなかったことだ。認められよう、期待に応えようとした努力が届いたのなら、今回だって何も出来ないまま終わるはずがなかった。
    自信を取り戻したアステルにサシャはほっと一息をつく。このままでもきっと問題はないのだろうけれど、クロービスがそれほどわかりやすく思い詰めているとするのなら、もう少しだけ保険をかけてもいいのかもしれない。そう結論して、サシャはアステルへと悪戯っぽく微笑んだ。

    「そうですねー。勇者さん、ちょっとした魔法を教えてあげますー」
    「魔法、ですか?」
    「はいー。クロービスの事がもっとよくわかるようになる秘密の魔法ですよー」

    何事かを思い付いたサシャはアステルに近寄ると、口元に手を添えて耳打ちする。それを聞いたアステルは目を見開くと、すぐにくすくすと漏れる笑いが抑えきれなくなっていた。

    「わかりました、今度から参考にしてみますね。私、これから剣の稽古に行ってきます!」
    「ふふっ、やっぱり貴女は笑顔が一番素敵ですねー」
    「ありがとうございます!」

    行ってきます、とすっかり輝きを取り戻した少女をサシャは見送る。そうして、片付けが終わった直後より、アステルの死角から遠巻きにこちらを見ていた影に声をかける。

    「勇者さんならもう行ってしまいましたよー」
    「…気付いていたのか」
    「はいー。僕に何か用ですかー?」
    「いや、たまたま通りがかって出ていくタイミングを見失っただけだ。これで失礼する」

    踵を返そうとして、数瞬の躊躇いののち、クロービスはサシャへ問いかける。

    「先ほどの話だが」
    「何かありましたかー?」
    「その、彼女に何を言ったのかね」
    「それは勇者さんとの秘密ですー」

    にこにこと、有無を言わせず回答を避けられて、クロービスはむうと小さく唸る。更に、クロービスがこんなに他人に関わろうとするのは珍しいですねー、と追い討ちをかけられては沈黙するしかなかった。

    サシャは先ほどアステルを見つめていたクロービスを思い出す。向けられる視線の温度は、きっとアステルが案じていたような冷たいものではなくて。むしろ逆であるからこそ、その先に待つクロービスを囚え続けている悪夢を引き出してしまうのだろう。
    長い付き合いとなる二人でも、容易に触れる事は難しいそれに希望の光が差したというのなら。この険しい顔の友人が彼女と出す答えを見届けてみたい、という思いが膨らんでいく。それはきっと少しだけ寂しいけれど、それ以上に幸福な結末になるという確信があった。

    すっかり静かになってしまったクロービスへ、ひとまずお茶でもどうですかー?と、サシャは紅茶を飲んでいく事を提案する。まだしばらく進まぬ時を抱えた男は、こくりと小さく頷いた。
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    ParAI_t

    MOURNING11月のカレンダー没案です。
    クリスタニア編でリーン様が不穏なこと言ってた印象が濃い辺りの頃に書いたので、今思うと「とにかく無事に終われ!?」みたいなノリをひしひしと感じる←
    アプリ版だと第一部のラクリモッサでしばらく三柱でお茶会してないみたいな話があったので、こんな風な日常に戻ってたらいいよねぇみたいな願いを込めてます。
    いやぁ、今週のクリスタニア編も楽しみですね☺️
    11月カレンダー没案(サシャ・リーンハルト) ほう、とついた息が白く漂う。もうそんな
    季節になったんですねー、としみじみとして
    サシャは陶器の音をテーブルに響かせた。
     本日の茶会は鮮やかに色付いた秋を
    鑑賞しようと屋外で行うことになっている。
    外気での冷却も計算に入れてあるから、
    ティーポットの中身はそろそろ飲みごろに
    なるはずだ。あとは二人を待つだけですね、
    と視線を上げれば、はらりと赤や黄が高い
    空に散っていた。かつての戦いと同じ季節が
    これほどまでに穏やかに過ごせているのだ、
    とサシャはゆるりと目を細める。
    「おや、あいつはまだ書類と格闘中かな」
    「年の変わり目も近いですからねー。魔道
    交信ではもうすぐ来ると言ってましたがー」
     そうしてさらりと金の髪を揺らす赤い鎧も、
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    ParAI_t

    DONEドロライ参加作品です。お題は「いい夫婦の日」。
    モブ秘書がクロアス夫婦+子供を観察してる謎の話になります。需要は私にある(澄んだ瞳)
    キャラスト3話で父さん母さん呼びしてたのに、なんか今は父上母上呼びしてるから、つまり結婚後はこんなんじゃない?みたいなノリで書きました。
    いずれ職場で「パパは〜」とか言っちゃう話も書きたい。結婚後でなくても天惺獣関係ならスレイヤー全員やらかせる余地はあるしな…!←
    困惑メラビアン−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−































     どうも直属の上司は厳しい人柄、らしい。風の噂でそんな評判を聞きつけて、グランロット王国宮廷魔道士長、クロービス・ノア付となった新任秘書は、緊張に身を固くして部屋の扉を叩いていた。出迎えた予想と違わぬ鋭い眼光に気圧されつつも、準備をしていた甲斐もあり用件は滞りなく進んでいく。
     魔王との長きにわたる戦いを終えたグランスレイヤーともなればこの威厳も当然か。多方面に渡る業務内容を迅速かつ正確無比にこなしていく姿に、秘書は自分なりに答えを得て、一礼し退出しようとする。そうして顔を上げた刹那、廊下からかすかに幼子の声が聞こえてきた。
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    ParAI_t

    DONE※いつも以上に原作の行間にクロアスをねじ込んでいます
    ※※特に本筋ではないのですが、若干ガレル・パレル編のネタバレを含みます

    オトメ勇者初恋Webアンソロジー寄稿作品になります
    ほぼほぼ謎の青年C(AとBがないのが作為的とか言わない)が活躍しているクロアス(?)な雰囲気ですが、お楽しみいただければ幸いです
    今週のクリスタニア編と矛盾しないといいなあ…(直し入るとめんどいなという顔)
    キャンディタフトは甘やかに揺れる / クロアス----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
















     その名の通りに飴で出来ているかのように、小さな白い花は甘く香っていた。

    「クロービスさん。頼まれてたもの持ってきましたけど、どこに置いておきますか?」
    「ああ、机に空きがあるだろう。そこに頼む」
    「はーい」

     年代物の深緑の図鑑から目を上げ指示を出したクロービスは、すぐに意識を机に戻すとリストへチェックを入れる。本日この時間のクロービスの業務は、実験室での魔法薬の調合だった。王城に併設された植物園から運んできた花の色と香りに、何かを思い出したアステルはなんの気なしに口にする。
    4742

    ParAI_t

    DONE※オトメ勇者最新話(第57話)ネタバレ
    お題は「神無月」です
    今週もまたすごい展開でしたねえ
    推しの心情深掘り第2弾ということで、今週の展開を踏まえた今回もまるで先行きが明るくはないお話です
    毎週のお題に合わせて可能な限り続けていきたいけど、多分そのうち矛盾すると思う(確信)
    書いてて思ったけど、メインストがトゥルー爆走してるなあと思うと同時に箸休め回をくれ…!
    イチャコラさせる暇がないんだよなあ
    裁きの光は虚ろにて / クロアス----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



















     勇者は、死んだ。エルドアの淡々とした発言を聞いたクロービスは、しばし呆然と立ち尽くしていた。六天魔という異常事態を片付けねばならない、と理性が警告を発しているものの、目の前の光景はとうに現実味を感じられなくなっている。
     いつかの悪夢のように魔物に命を狙われたとしても、守ってやれるはずだった。それがこの現状はどうだろう。女神の声を聴く者は、これほどに呆気なく希望の光を握りつぶし平然としている。傷つき悩み、憂い惑い、それでも譲れないもののために何度でも立ち上がって剣を振るっていた少女を切り捨てる事が、この聖なる地の正義だった。
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    recommended works

    ParAI_t

    DONE予期せぬエラーが発生しました / クロアス

    みみみさんのツイートを思い出し笑いしてたら、興が乗ってしまったので書きました
    予定では前者を採用するはずだったのにおかしいな…?🤔
    いつも以上にやらかしているクロービスさんをお楽しみください←
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    書庫の貸し出しカウンターの奥にある、司書室の休憩スペースにて。平素はグランロットの死神と恐れられる黒魔道士が、生気を失いテーブルに突っ伏していた。

    「いっそ殺してくれ……」

    クロービスとは長いつき合いになるがこんな顔は初めて見るかもしれない、とサシャとリーンハルトは苦笑する。
    先日レースで出くわした魔物からアステルをかばった際に、クロービスは一時的に記憶をなくしていた。現在は記憶を取り戻したものの、喪失中に恋人へ酷い態度をとった事が忘れられないらしい。顔を合わせるのが気まずいためか、ここ連日アステルから逃げ回っている。

    「魔物の影響ですし、彼女も気にしないといってましたよー?」
    「だからといって許されることではないだろう……!」
    「そもそも普段から、落差を感じられるほど優しくもしていないでしょうに」
    「……うるさい」

    キッと睨み付けるクロービスに、彼女から聞いた話が元なんですが、という言葉をリーンハルト 2801