折る言に約される / クロアス---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
本日最後となる就寝前のティータイム。ちょっと待っていてください、と幾分長めに準備をしに行ったアステルは、新たな装いで寝室に現れていた。
「お待たせしました!」
肩に切り揃えらればっさりと見慣れた三編みがなくなっている事に、クロービスは一瞬言葉を失う。性急な判断を迫られた挙げ句に取り返しのつかぬ方向へ歩みを進めようとはしていないか。ちらとそんな思いがクロービスの頭を掠めたが、どこか晴れやかなアステルの表情を見ればその心配はひとまずなさそうだった。
「新たな自分の使命が何か、決まったのかね?」
「ええと、まだはっきりとはわからないんですけど。もう少しで答えが出せそうな気がします」
信頼してくださった皆さんの期待にも応えたいですし、とアステルは希望の星としての責任を全うしようと意気込む。クリスタニアから連れ帰られた時の思い詰めようから一転して、まだ迷いはあるものの少女は再び勇者としてより力強く立ち上がろうとしていた。最初の印象に比べれば随分と頼もしくなったものだな、とクロービスは感心しつつも、一つだけ訂正を加える。
「……最初から、『君には期待していない』と言っていただろう」
「えっ?」
「我らスレイヤーは君の判断に従う、と言っているのだ。……誰かの期待ではなく、好きなようにやりたまえ。君の思い描く世界がいずれ人々の希望となろう。少なくとも、私はそう信じている」
クロービスはいつもの生真面目な顔を崩すことなく、本心を告げていた。確かな信頼を宿すその視線は、目指す答えまでの道のりをしっかりと支えてくれている。アステルは、初めて言われた時とは似ているようで全く異なる意味合いに、認められる嬉しさがこみ上げ眩しい笑顔を咲かせていた。
「はいっ! そのためにもまずは明日、ですね」
「ああ。……必ずや成功させるぞ」
そうしてテーブルへとついた二人は、次の日に向けた打合せを始める。定番となったよく眠れるお茶は、穏やかに琥珀の色を揺らめかせていた。