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    ParAI_t

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    ParAI_t

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    ドロライ第六回参加作品です。
    お題は「眼鏡」と「手を繋ぐ」。
    なんかいい感じに〆たけど、多分ビス殿こんな余裕を見せることなくメイン回突っ走って破綻しそうな気しかしない(オイコラ)
    今までの傾向からすると、メインは個別ストの内容を取り込んでく気がするので、ワンチャンメインで悪夢ブチ抜く展開来そうな感じもありますし、まあ2021/07/23時点で見れる夢ってことで一つよしなに←

    ##クロアス

    守り手は現のみならず / クロアス----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------






























     紙の上で優雅に踊る羽根ペンが動きを止めた。読書をしていたアステルは、本を閉じ凝り固まった身体をほぐすように伸びをする。ペン先が奏でる調べも、職務に励む隣の静かな息遣いも、今ではもう馴染みのものだ。執務室の穏やかな時を刻む音は心地よく、瞼を重くするには十分だった。

    「先に寝ていても構わなかったのだがな」

     机の上に広がった書類を片したクロービスは眼鏡をかけ直す。宵闇の瞳が揺らぎを捉えるより早く、アステルは当たり障りのない理由を口にした。

    「ちょっと、夜更かしをしたい気分だったので」
    「……明日も早い。もう眠るぞ」

     寝室へと向かうクロービスの後を追って、アステルは同じ扉をくぐる。こうしてあとは眠るばかりとなった二人には、まだやるべきことが一つだけあった。



     細部までよく見えるよう室内灯へ照らされた肌の上を、熱の籠った視線が滑っていく。吐息に擽られ、指が柔らかな場所をなぞる度、上擦りそうな声を抑えていたアステルは、ついに焦れて控えめな抗議を行った。

    「く、クロービスさん、そんなにまじまじと見なくても……」
    「小さな傷口とて見逃すわけにはいかぬ」

     意に介さないといった調子で手の観察を続けるクロービスの目は真剣そのものだ。純粋に身を案じての行動なのであろうことは明白だけれど、気恥ずかしさにアステルは頬を染め俯く。最初にハンドクリームを贈られてから今夜に至るまで欠かされなかった日常は、慣れるにはあまりに優しく丁寧だった。「いちいち口に出さねばいかぬのか」と零された言葉の意味をまさしく体現するこの習慣は、想いの嵩の分だけ触れる指先から伝わる温かさを意識してしまう。

    「特に問題はないようだな」

     検分を終えたクロービスは、雪の結晶が描かれた缶に手を伸ばす。使いこみ緩くなった蓋は少し力を込められるだけで、間の抜けたような音を響かせて開いた。より密度の濃い時間が始まる合図にいっそう身を固くしたアステルに、クロービスは怪訝そうに尋ねる。

    「何を緊張しているのかね。初めてというわけでもあるまい」
    「その、大切にされているんだな、と思って」
    「……当たり前だ」

     何事もなかったかのようにクロービスは底から掬い上げたクリームを両手で温め、アステルの手を包み込む。触れた瞬間の冷たさは生ぬるさとなり、じわりと沁み込んで潤いを与えていった。そのまま手のひらや甲、指の腹や間、爪との境目、手首まで、くまなく撫で上げられていく。繊細な芸術品を扱うのにも似た手つきは、アステルがどれだけ大事な存在であるかを如実に物語っていた。

    「……クロービスさんは、信じていたものが揺らいだとしたらどうしますか?」
    「また随分と曖昧な問いだな」
    「すみません。まだまとまっていなくて」

     まとまっていない、というのは半分だけ本当で半分は嘘だ。対峙した魔王や六天魔がアステルの魔族への印象を変えた一方で、久しぶりに祈りへ応えた女神の様子は拭いきれない違和感を残している。けれどそれを、魔族をよく思っているとは言い難いクロービスに直接相談するのは憚られ、中途半端な質問をするにとどまっていた。難しい顔をしたクロービスはもう片方の手を取ると、先ほどと同じようにクリームを伸ばしながら、少しずつ考えを紡ぎ出す。

    「以前であれば、それでも己の役割を果たすべきだ、と断言したところだが」
    「今は違うんですか?」
    「あれだけの騒動を起こした後では説得力がないだろう」

     グランスレイヤーとなる過程で一度は職を辞しかけたという事件はまだ尾を引いているようだった。嫌なことを思い出させてすみません、と慌てるアステルに、気にしていない、とクロービスは返す。塗り跡に僅かにムラのある部分を見つけ眉を顰めると、濃さをならすように指を這わせた。

    「あの時は、この手が悪夢を断ち切ったのだったな」

     クロービスはゆるく口角を上げ、注ぐ眼差しは淡い色を帯びる。しっとりと最後の仕上げまで終えられた手は、今や触れるためだけに握られていた。

    「きっかけはあれど、結局は解とは自分で得るものだ。示してやることはできぬが、迷いには付き合ってやろう」
    「……ありがとうございます」
    「まだ礼を言われるようなことは何もしておらぬ」
    「それでも、そう言ってもらって心が軽くなったので」

     幾ばくか明るさを取り戻したアステルに、単純なことだなと呟いて、クロービスは眼鏡を外しケースへとしまう。そうしてすぐ傍で横たわった二人の手は、夢の中でも離れぬようにと繋がれていた。
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    ❤❤❤🙌💕💕💕❤🙌👐💘💕👂💕💖💖👏👏👏👏☺
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    ParAI_t

    MOURNING11月のカレンダー没案です。
    クリスタニア編でリーン様が不穏なこと言ってた印象が濃い辺りの頃に書いたので、今思うと「とにかく無事に終われ!?」みたいなノリをひしひしと感じる←
    アプリ版だと第一部のラクリモッサでしばらく三柱でお茶会してないみたいな話があったので、こんな風な日常に戻ってたらいいよねぇみたいな願いを込めてます。
    いやぁ、今週のクリスタニア編も楽しみですね☺️
    11月カレンダー没案(サシャ・リーンハルト) ほう、とついた息が白く漂う。もうそんな
    季節になったんですねー、としみじみとして
    サシャは陶器の音をテーブルに響かせた。
     本日の茶会は鮮やかに色付いた秋を
    鑑賞しようと屋外で行うことになっている。
    外気での冷却も計算に入れてあるから、
    ティーポットの中身はそろそろ飲みごろに
    なるはずだ。あとは二人を待つだけですね、
    と視線を上げれば、はらりと赤や黄が高い
    空に散っていた。かつての戦いと同じ季節が
    これほどまでに穏やかに過ごせているのだ、
    とサシャはゆるりと目を細める。
    「おや、あいつはまだ書類と格闘中かな」
    「年の変わり目も近いですからねー。魔道
    交信ではもうすぐ来ると言ってましたがー」
     そうしてさらりと金の髪を揺らす赤い鎧も、
    358

    ParAI_t

    DONEドロライ参加作品です。お題は「いい夫婦の日」。
    モブ秘書がクロアス夫婦+子供を観察してる謎の話になります。需要は私にある(澄んだ瞳)
    キャラスト3話で父さん母さん呼びしてたのに、なんか今は父上母上呼びしてるから、つまり結婚後はこんなんじゃない?みたいなノリで書きました。
    いずれ職場で「パパは〜」とか言っちゃう話も書きたい。結婚後でなくても天惺獣関係ならスレイヤー全員やらかせる余地はあるしな…!←
    困惑メラビアン−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−































     どうも直属の上司は厳しい人柄、らしい。風の噂でそんな評判を聞きつけて、グランロット王国宮廷魔道士長、クロービス・ノア付となった新任秘書は、緊張に身を固くして部屋の扉を叩いていた。出迎えた予想と違わぬ鋭い眼光に気圧されつつも、準備をしていた甲斐もあり用件は滞りなく進んでいく。
     魔王との長きにわたる戦いを終えたグランスレイヤーともなればこの威厳も当然か。多方面に渡る業務内容を迅速かつ正確無比にこなしていく姿に、秘書は自分なりに答えを得て、一礼し退出しようとする。そうして顔を上げた刹那、廊下からかすかに幼子の声が聞こえてきた。
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    ParAI_t

    DONE※いつも以上に原作の行間にクロアスをねじ込んでいます
    ※※特に本筋ではないのですが、若干ガレル・パレル編のネタバレを含みます

    オトメ勇者初恋Webアンソロジー寄稿作品になります
    ほぼほぼ謎の青年C(AとBがないのが作為的とか言わない)が活躍しているクロアス(?)な雰囲気ですが、お楽しみいただければ幸いです
    今週のクリスタニア編と矛盾しないといいなあ…(直し入るとめんどいなという顔)
    キャンディタフトは甘やかに揺れる / クロアス----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
















     その名の通りに飴で出来ているかのように、小さな白い花は甘く香っていた。

    「クロービスさん。頼まれてたもの持ってきましたけど、どこに置いておきますか?」
    「ああ、机に空きがあるだろう。そこに頼む」
    「はーい」

     年代物の深緑の図鑑から目を上げ指示を出したクロービスは、すぐに意識を机に戻すとリストへチェックを入れる。本日この時間のクロービスの業務は、実験室での魔法薬の調合だった。王城に併設された植物園から運んできた花の色と香りに、何かを思い出したアステルはなんの気なしに口にする。
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    ParAI_t

    DONE※オトメ勇者最新話(第57話)ネタバレ
    お題は「神無月」です
    今週もまたすごい展開でしたねえ
    推しの心情深掘り第2弾ということで、今週の展開を踏まえた今回もまるで先行きが明るくはないお話です
    毎週のお題に合わせて可能な限り続けていきたいけど、多分そのうち矛盾すると思う(確信)
    書いてて思ったけど、メインストがトゥルー爆走してるなあと思うと同時に箸休め回をくれ…!
    イチャコラさせる暇がないんだよなあ
    裁きの光は虚ろにて / クロアス----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



















     勇者は、死んだ。エルドアの淡々とした発言を聞いたクロービスは、しばし呆然と立ち尽くしていた。六天魔という異常事態を片付けねばならない、と理性が警告を発しているものの、目の前の光景はとうに現実味を感じられなくなっている。
     いつかの悪夢のように魔物に命を狙われたとしても、守ってやれるはずだった。それがこの現状はどうだろう。女神の声を聴く者は、これほどに呆気なく希望の光を握りつぶし平然としている。傷つき悩み、憂い惑い、それでも譲れないもののために何度でも立ち上がって剣を振るっていた少女を切り捨てる事が、この聖なる地の正義だった。
    1108

    recommended works

    ParAI_t

    DONE予期せぬエラーが発生しました / クロアス

    みみみさんのツイートを思い出し笑いしてたら、興が乗ってしまったので書きました
    予定では前者を採用するはずだったのにおかしいな…?🤔
    いつも以上にやらかしているクロービスさんをお楽しみください←
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    書庫の貸し出しカウンターの奥にある、司書室の休憩スペースにて。平素はグランロットの死神と恐れられる黒魔道士が、生気を失いテーブルに突っ伏していた。

    「いっそ殺してくれ……」

    クロービスとは長いつき合いになるがこんな顔は初めて見るかもしれない、とサシャとリーンハルトは苦笑する。
    先日レースで出くわした魔物からアステルをかばった際に、クロービスは一時的に記憶をなくしていた。現在は記憶を取り戻したものの、喪失中に恋人へ酷い態度をとった事が忘れられないらしい。顔を合わせるのが気まずいためか、ここ連日アステルから逃げ回っている。

    「魔物の影響ですし、彼女も気にしないといってましたよー?」
    「だからといって許されることではないだろう……!」
    「そもそも普段から、落差を感じられるほど優しくもしていないでしょうに」
    「……うるさい」

    キッと睨み付けるクロービスに、彼女から聞いた話が元なんですが、という言葉をリーンハルト 2801