白昼夢［金糸の髪が朱に染まる］

　　【黒髪が赤に濡れる】

［片方の青の目が塞がれて］

　　【他の命の水でも体を染め上げて】

［先生の友が連れて帰ってきたのは］

　　【己の目の前で刃を背に生やして】

［血塗られた利き腕と握りしめられた刀と愛用の煙管］

　　【己の命の水を流し流し流して】


　　【不敵に笑う貴方】



カランと石づくりの部屋の中に音が響き、ユリアの足元には天球儀とカードがユリアの手から溢れ落ちる
「はッ…ぁっ…」
銀輪に飾られた空色と花のような赤の瞳からはらりと澄んだ涙がこぼれ落ちる。
浅い呼吸を繰り返し必死に整えようと己を掻き抱き
藻掻けば藻掻くほど
あの時の記憶を繰り返し”思い出す”
同時に唯一を失う植え付けられた記録を”思い描く”
「ぁっ…くっ…っ！」
ツクリモノのはずのその記録はあまりにも現実身を帯びて
あのときの記憶に酷似していた。


焼き付くような
痺れるような
凍えるような
溺れるような
擦り切るような


痛み


『俺を見ろ”ユフェリア”』
俯いていた顔をくいっと顎を持ち上げ上に向かされる。
赤い
朱い
宝石のような深紅の瞳がユリアを写し出す。
「サヴァン…っ…」
「あぁ、ゆっくり呼吸しろ。…そう…そうだ。偉いな。ユリア。」
ユリアの頬を優しく撫で目元に唇を落とす。
「サヴァ…っサヴァン…っ”サヴァン・ゾーク”っ」
縋るように手を伸ばすユリアを抱き寄せ抱きしめ宥めるように背中を撫ぜる。
「少し眠れ、ユリア。」
その言葉にユリアは首を横にふる
「大丈夫だ『もう見ない』。」
サヴァンがそういうと、とろりとまぶたが開けていられなくなっていきまぶたを閉じていく
そんなユリアの体を抱きしめ抱き上げる。




サヴァンは長く重い溜息を吐き出し目を開く
先程ユリアに向けていた優しげな眼差しではなく

鋭く冷たく部屋の中を見渡す。







何かを見つけたのか
その眼球は鋭く冷たい光を更に強め
口元は弧を描いていく。
まるで朱く細い月を描き出し





部屋の一角に隠されたガラス玉に赤黒い霧がまとわりつきそこから触手のように伸びた物が更に絡みつき力を入れていく。




「こいつは俺のだ。」
ピシッとガラス玉にヒビが入っていき
「だから手を出すんじゃねぇよ」
見下すように朝笑うように言い捨てると
ガラス玉は爆ぜる。



軽く鼻で笑いサヴァンは足早にこの空間を去る



赤黒い霧はユリアの天球儀とカードを飲み込みサヴァンが見えなくなると同時に消え




誰かが居たという痕跡は跡形もなかった





＜了＞