Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    g_arowana2

    @g_arowana2

    ほね(g_arowana)のOPアカウントです
    主にハート

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    g_arowana2

    ☆quiet follow

    ろぺん。前回のお勉強話の派生です。
    あの話に「えr……いことがあるんですか……?(この人たちに……?)」とご興味持って頂けたので、「こんなんですねー」と書いてみたもの。
     
    ……えろくはなかったですね(申し訳ない)

    #ロペン
    lopen

     報告のために船長室を訪ねると、ローは晒されたペンギンの顔をまじまじと見つめてきた。
    「お前、本体どうした?」
    「シャチんとこに緊急入院中です」

     怪我人らしい怪我人もいない大勝利を収めた先日の戦いで、ペンギンの頭上のペンギンが唯一の犠牲者だった。名誉の負傷を適当に繕い終えた持ち主も「元とちょい違うな」くらいには思っていたのだが、それを「ちょい」だと思ってくれた仲間は残念ながら一人もいなかった。曰く、未知のクリーチャーを頭に生やすな。お前を真顔で見られない。
     かくして先程、シャチが有無を言わさず「貸せ」と手を突き出してきた次第である。ペンギンの器用さ自体は船長のお墨付きなのだが、それが発揮されるかどうかにはムラっ気が強かった。

     「本体」としばし別れたペンギンから船の動力周りの点検結果を聞き終えたキャプテンは、再びその耳あたりをしげしげと眺めている。同じ釜の飯を食って十三年、そこまで珍しい見ものでもないだろうに。
    「……どしたの。お医者さんの真顔怖いってば」
    「いや? 耳が落ちる心配はもうしねぇのか、とな」
    「は? ……うわ何時の話してんすか」
     ペンギンに言わせれば、出会った当時のこの人があんまりペラペラの、すぐ冷え切りそうな体をしていたのが悪い。弱音と無縁の恩人がスワローよりずっと温かい島からやって来たというのに、自分たちより寒さに弱かったりしないのか、耳とか平気か、自分の帽子と替えた方がよくないか、とペンギンは本気で心配したものだ。
     人の凍傷の心配の前にお前らは凍った海に飛び込むな、というのがローの答えだったわけだが。
    「だって耳がねぇヤツ、子ども心に割とトラウマだったんすよ。なんでもげるまでイッちまうかね。鈍いんかな耳って」
    「単に顔から突き出してっからだ。感覚が決め手なら凍傷で指から欠けねぇよ。だが、まぁ……」
     ローは、ひょい、と右手を伸ばし、ペンギンの左耳をくるみ込んだ。
    「首から上にしちゃ意外と鈍い、ってのも間違ってねぇか。アタマの処理をもっと食ってる部位は他にある」
    「……口の周りとか?」
     滅多に使わない知識が案外するりと引っ張り出された。クルーが増えてからはめっきり行われなくなった「授業」を思い出すペンギンに、そうだな、とローは目を細める。
     その柔らかさは、宴に浮かれ騒ぐ面々を眺めるローがこっそり浮べるものに似ている。真正面から見ることのあまりない表情に、ペンギンの背は少しさやいだ。
    「個人差あるが、耳殻はそこまで鋭敏じゃねぇ。特に裏。刺激の入らねぇ部位の精度あげても意味ねぇし、首のがよっぽどだ」
     耳の裏から、つ、と滑らされた指にペンギンは肩の跳ね上がるのを抑えそこねた。確かに、耳裏の骨を越えたあたりで、ローの指のカサつきがベールを脱いだように鮮やかになる。
    「体感の話にすんなら『どんな刺激か』の方が効いてくるしな。知覚は差分を捕まえるんだ。同じ刺激は拾わねぇ」
    「……凍った海も五分潜れば慣れるよなー、みたいな話?」
    「お前ら以外はその前に浮いてくんだよ。まぁでも、それだ」
     耳の内縁、軟骨の畝をあえかな感触になぞられる。くすぐったさよりさらに手前、摩擦とすら呼べない軌跡が、耳にひりひりと熱を残していく。
     さみしがる耳を慰めたくなるのに、体が動かない。
    「だから、定まらねぇもんはかえって響く。触ってんのか触ってねぇのか、内なのか外なのか」
     軟骨の硬さと軟さを教え込むように、孔に通じる薄い皮膚ごと指が耳珠をクリクリと捏ね回す。左手が、とん、とペンギンの胸の真ん中を三指で押した。
    「同じ耳でも、孔ん中は神経の通じた先が違うんだ。覚えてるか?」
     指がするりと体を滑る。鳩尾にまで降りたそれが、中を意識させるように、く、と押した。気づけば耳朶を食まれそうな距離に顔がある。暖かな息に耳が湿る。
    「はらわただよ」
     触れられてもいない舌に、舐められた、と思った。
     
     ひゃっ と、どこから出たのか分からないような声が喉をつく。それで硬直の解けたペンギンは耳を押さえて跳ねるように体を離した。
     軽く涙目になって見返すと、ローは、自分でやっておいて呆れ顔でペンギンを見ている。
    「……いや、なんでされるがままなんだお前……?」
    「あんたが授業始めるとつい聞いちまうの! 習性」
    「習性って」
     男前の喉がくつくつ鳴っている。これが人を小馬鹿にした風なら腹を立てても良かったのだが、ただただ楽しそうな様子にペンギンはうっかり毒気を抜かれてしまった。相棒が「チョロ」と叫ぶ幻聴が聞こえる。
    「温室育ちでもねぇし相応にヒネてんのに、たまに『カルガモの雛かよ』ってぎょっとさせやがるよな。……そんで親分だ船長だ、立てると決めたらぜってぇ兄貴ヅラなんかしねぇくせして、たまに兄貴みてぇな真似はしやがる」
    「…………何ソレ」
     返答は喉奥の笑いで返された。間に作った隙間なんて、たった一歩で詰められる。
    「ほら」
     右手に頬をなで上げられた。
    「『授業』じゃねぇぞ」
     何がダメって、うっかりこの人の獲物になってしまったこと以上に、この人に獲りにいこうと思わせてしまったことだろう。
     獲りにいってもいい、だったのか、獲りにいってやらないといけない、だったのかは、あまり考えたくない。
     
     ローの顎髭から上に視線を向けられないまま、どう足掻いても逃げる気になれない自分を諦めて、ペンギンは耳に吹き込まれた声より小さく返した。
    「それ、もう聞いた」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭❤😭😭💴💴👏👏💘💘💘💘💘💘💘💘💘💘👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏💖💗💕💞🌋💘👏💖😍☺💖💞💞💞💞👏👏👏👏👏👏😭👏💖💘💗💕💞❤👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works