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    g_arowana2

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    ろぺんのほのぼの、鼻屋氏視点。
    頭をからっぽにして読むやつです。

    #ロペン
    lopen

     ドレスローザを水平線の彼方に、勝利の祝いは宴もたけなわだ。騒ぎ疲れて辺りを見回し、ウソップは丁度いい休憩場所を発見する。
     トラ男という人間は、宴の中心に引きずり出そうとする相手には額に青筋立てて抵抗するのだが、本気でキレ散らかしたりしないあたりは船長の器量というべきか。ただし心底ウザがっているのは間違いないようで、しかし早々に抜け出してふて寝を決め込むこともない。
     舷側にもたれて立て膝でジョッキを傾ける様には機嫌の良さが見え隠れし、程なく周りの海賊たちも彼を放っておくことを覚えた。単に、騒ぎたい者同士で騒ぐのに忙しかったともいう。
     そういうわけで、トラ男の周りには腰を落ち着けられる程度のスペースが空いていた。その視界からちょいとずれるくらいの間をおいて、ウソップはこれ幸いと隣に陣取る。
     トラ男には物思いの一つや二つあるだろう。なんといっても、先の戦いはこいつにとって因縁の精算だったのだという。浸っているのに水を差すのは気が引けた。ゴッド・ウソップは気の利く男なのだ。
     案の定、隣に腰を下ろしてもトラ男は視線をくれるでもない。そこまではよかった。問題は、手酌で酒瓶の中身をジョッキに移しながら、トラ男が皿をずいっと押し出してきたことだ。上には食いかけの魚が乗っている。
     海賊の宴におれの皿もお前の皿もない。麦わらの一味としては頷ける話だったが、同時に「いや待てお前トラ男だろ?」という気持ちも余りあった。困惑に瞬き続けるウソップに向けて、ようやくトラ男の顔があがる。
    「美味ぇよな、そ……」
     
     さて、トラ男はこれでなかなか表情豊かだ。麦わらの一味共通の感想だが(当人の耳に入ったら『百面相させてる元凶一味がよく言った』と鬼哭を抜かれかねない)、それを知っているからこそ、ウソップはルフィがどんな奇想天外なトラブルを引き起こしたときだってこいつはこんな顔まではしていなかったと断定できてしまう。
     平たく、「やっちまった」と顔に書いてあった。
     
     重ねて、ゴッド・ウソップは気の利く男である。彼は渾身の名演で皿を無視して目をそらし、酔っ払い然として口笛でビンクスの酒なんぞ吹いてみた。動転のあまり音を外した。
     チッと聞こえた舌打ちに目線だけをソロリと戻せば、彼を悩ませていた皿は定位置に戻っており、トラ男は何事もなかったようにジョッキを傾けている。
     世はなべてこともなし。多少、トラ男の耳あたりの血色が良かったかもしれないが、隣に空の酒瓶が転がっていることを思えば全く当然のことである。
     
     おれはなーんも気にしてねぇからなという顔でしばらくそこに居座ってたウソップは、ギャレーから聞こえた闘魚ステーキのお代わりの報に腰を上げる。
     去り際、ちらりと振り返るとトラ男の空いた手がひらりと振られたのが見えた。
     賢明な沈黙への礼らしかった。

       ◇

     アレってつい数日前の話なんだよなぁ。
     ペンギンと名乗った男と肩を組み、ジョッキ片手に大笑いしながらウソップはふとそんなことを思いだしていた。ちなみになんで爆笑しているのかは彼自身にも分からない。
     ハートのクルーたちはトラ男の仲間と思うと意外なお祭り体質で、筋を通した気持ちのいい連中だという点では実にトラ男の仲間らしかった。つまり彼は今、美味い飯と美味い酒に囲まれて気のイイ奴らと大騒ぎしている。笑う理由なんて数え出したら切りがない。
     そのトラ男はどこにいんのかね、とウソップは宴の広場を見回した。
    「どうしたー?」
    「いやこの間でっけぇ宴やったって言ったろ? 飲み比べだなんだって絡まれるたんびにトラ男のヤツ、めちゃくちゃ律儀に抵抗しててな」
    「あー、あの人らしいわー」
    「さすがにガルチューは避けきれねぇんじゃねぇかと思ってよ」
     仏頂面でミンク族にもみくちゃにされるトラ男にはちょっとばかり興味があったのだが、目を凝らしても斑模様の白帽子は見つからない。いくら宴が賑やかだって「律儀に抵抗」していれば目立ちそうなものなのだが。
    「たぶん上手いこと避難してんの。あっちかな?」
     頭上のペンギンを揺らしてひょいひょいと人の間を縫う男に、ウソップは面白半分ついていく。
     広場の隅から木々の間にもう数歩、上手いこと死角になるそこは腰掛けるに手頃な倒木。示し合わせたわけでもなさそうなのに、向かった先では本当にトラ男が酒盃を傾けていた。
     引っ込んだトラ男に気づいたミンク族は一人だけらしく、そのガルチューをシャチを模した帽子のクルーが一身に受け止めて船長の静穏を守っている。
     つまみと酒をちゃっかり確保し、そこはかとなく機嫌よく飲んでいるトラ男は、もしかしたら、もしかせずとも、どうもシャチ帽の男の奮戦ぶりを愉快に思っているらしかった。
     得てして酔っ払いは感動しがちなものだ。その献身に何故か盛り上がってしまったウソップは、でぇいとガルチューに飛び込んだ。そろそろ次のターゲット(トラ男だ)にとびつこうとしていた牛のミンク族は新たな客人を誠心誠意もみくちゃにし始めて、シャチ帽の男は親指を立てて感謝を表明してくる。
     案内役は騒ぎの脇をスルリと抜けていった。ここにいたんですね、とか、なんか取ってきます? とか、そういう声掛けは何もなく、当然のような顔で彼のキャプテンの隣に腰を下ろす。トラ男からも何もない。ただ、少し間をおいて、口のつけられた魚の姿焼きが隣に押し出された。
     なんか既視感あんぞ、とウソップは思った。

     差し出された側はなんの疑問もなく串を手にとり、魚の背の身を頬張っている。感想を待つまでもなく、綻んだ口元が美味ぇと伝えてきた。
     トラ男はじっと、自分のすすめたものがちゃんと相手の口の中に消えていく様をそれはもうじっと見つめ続けて、やがて微かに眦を和らげた。
    「……美味ぇよな、それ」
    「ん、形似た奴ノースにもいないです? こっちのはなんかいい匂いすんのなー」
    「ここの川に居着いたやつだ。食性の違いだろ」
    「特産品かー。時間あったら保存食作りたかったな……」
     あんがと、と串が返されるも、トラ男は受け取らない。ペンギン型のマスコットが首と一緒に傾いた。
    「あれ、腹いっぱいでした?」
    「……別に」
     返事にならない返事とともに、トラ男は他の皿までずいずいと隣に押し出す。男の首がさらに傾いた。
    「いや、ほんとどしたの。おれ太らせもいいことないですよ? 迷子の子豚と違って食えねぇし」
    「なんだそりゃ。迷子のガキを菓子でつって鍋にすんのの間違いじゃねぇか」
    「え、何その話こわい……って、こだわるのそこ? おれ、食べられるんです?」
    「……『太らせて』食う予定はねぇな」
    「はぁ」 
     首をひねりつつ、ペンギン帽子は差し出されたツマミを素直に食べ始めた。
     
     美味ぇよなと話しかけたら美味ぇよなと返ってくる。それだけで食事は倍美味しくなると、寂しがり屋のウソップはよく知っている。
     同じものを食べて、美味ぇよな、と言いたい相手のいる場所にトラ男が帰って来られたことを、彼の代わりに牛(長毛種)のミンク族にものすごくモフられながら、ウソップは心から幸いに思っている。ちょっと距離感にクセがあったくらいでその事実に変わりはないだろう。
     たとえ、そう。「太らせて」食う予定「は」ないらしい男が一瞬、ちょっと見たことのないような目の色をしていたとしても、だ。
     
     横のシャチ帽子だって「おれなんも聞いてねぇし」みたいな顔をしている。
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