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    g_arowana2

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    g_arowana2

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    「世界ペンギンの日の150時くらいには上がるんじゃなかろうか(誕生祭)」というやけっぱちで着手したのですが、
    書いてみたら、「この話、誕生日一切関係ねぇ」という抜本的解決で事なきを得ました。
    ろぺんだよ

    2週間前に思いついたんで、先週の衝撃展開は何も反映されていません。

    #ロペン
    lopen

     相手の肘を手のひらですっぽり支え、空いている右手で傷痕をぐるりとなぞる。千切れた腕を嗣いだ肉芽は粘菌じみた形で、何に見立てることもできそうだ。
    「……そこにすんの?」
     問いには答えず、ローはもう一度、最初の患者の傷痕をEの刻まれた指で丹念になぞった。

       ◇

     最初はシャチだった。ポーラータングに一人、また一人とクルーが増え始めた頃、あいつの手柄と誕生日が重なった。これなら消えもの以外をくれてやる名分も立つ、と希望を尋ねたら、はしゃぐシャチが強請ってきたのが刺青だったのだ。
     言われてみれば、真皮までとはいえ体に刃物をいれるには違いない。染料に下手な混ぜものがあれば毒物を抱え込むことになる。勢いで墨入れたあんたが言うんスか、と呆れられそうな話ではあったが、そう考えてしまえばそこらの馬の骨に仲間を任せるのはムカついた。
     以来、ハートでは、キャプテンに彫りを貰うのは一種の名誉だということになっている。誰が言ったわけでもないのだが、そういう空気が共有されている。例外の一人は、手のひら以外にキャンバスのなかったベポ。話に上がったことはあるのだが、肉球を前にしたローの形相を見て当人が辞退してしまった。
     そしてもう一人が、ペンギンだった。
     
     いくらもあった機会を全て流してきた最古参は、宴の席で、いつもの陽気な調子で一度も望んだことのなかったものを所望した。功績を考えれば断る理由はなかった。カイドウとドフラミンゴの取引の裏取り。誰はばかることなき大手柄だ。
    「構わねぇが、どこに何彫らせてぇんだ」
    「お任せしまーす」
    「あ?」
     顔をしかめるローの柄の悪さは、この古馴染みには当然通じない。ペンギンはニコニコと、ソレ込みでご褒美ってことで、などと言ってきやがった。
    「ほら、てめぇのもんにはてめぇで名前書いとくでしょ。そーいう感じで決めちゃって」
    「……それでいいならおれの名前彫ってすませんぞ」
    「そりゃ記念だわ」
     うははと大口あけて笑うペンギンに溜息をついて、ローは手にしたジョッキを空ける。
     この男に墨を刺す。酒に浮ついた頭で思案を巡らせ、自然とその右腕を手にとった。袖をめくれば、一度千切れた肘を確かに繋ぐ、大きな傷痕が覗く。
    「……ガキの頃からいい腕だな、おれ」
    「ぬぁーにを今更」
    「なんでお前が偉そうなんだよ」
     この傷をどう飾ろうか。そういう視点で眺めてみると、肘をぐるりと囲む皮膚のうねりは波にも似ている。連なり遊ぶ雲にも見える。はたまたその再生に、焼け跡を覆う蔦を連想する。瞼の裏で痕に緑を芽吹かせ、そこに黄色い花を潜ませる。
    「……隅々覚えてるつもりでも、見方変えると面白ぇな」
    「覚えてるって、痕じゃんこれ。治したときのことなら、そりゃお医者さんは覚えてっかもだけど」
    「痕になるまで、その経過も全部おれが診た」
     初めて繋いだ靭帯。初めて繋いだ神経。初めて繋いだ血管。包帯を変える都度の不安と安堵。すぐには結果のでないリハビリを積み重ねるこいつの信頼。
     再び動いた、その指の。
    「お前の顔が潰れてても、船に腕しか帰ってこなくても、こいつを見りゃおれはお前が分かる」

     ペンギンは待てど暮せど何も言わない。「物騒!」だの、「おれいま酒飲んでんのに!」だの、いつもの文句は出てこないらしいので、ローは小さく笑って肘から手を外した。
    「ここじゃあねぇな。ここには、余計だ」
    「……あんがと」
    「思ってんならハナからそう言え」
     さてどうしたものか、とローは頭を悩ませる。
     船はローの魂だ。てめぇのもんに名前を書いておけ、というのなら、ハートかジョリーロジャーが相応しい。その希望に応えるだけであれば。
     ローが一人旅立つ未来を確定させる、最後のピースを引っ提げてきてなお望むことが他にないらしいアホの望みを、そのまま叶えてしまうのであれば。

       ◇

     船長室に呼び出され、ペンギンは帽子のツバの下で目を丸くした。
     視線の先には刺青の下絵の転写紙。原案はローで、仕上げはシャチだ。「キャプテン、そのアバウトな案で注文多すぎ!」と悲鳴をあげながらシャチが書き上げた図案は、炎のような流線で抽象化された、切り絵の鳥を象っていた。
    「ツバメ、かぁ……」
    「不満か?」
    「いやいやいや、こんな凝ったの考えてくれると思わなかったんですって! これに文句とか、どんな贅沢者よおれ?」
    「言いたいことあんなら今の内だっつってんだ。気分で入れたり消したりできるもんじゃねぇんだぞ」
     う、とペンギンは言葉を詰まらせる。目をそらしても射抜き続けるローの眼光に、観念したように口を開いた。
    「……嬉しいです。ほんと、メチャクチャ嬉しいです。でもほら、あんたは」
     ペンギンはもう一度下絵に目を落とした。目を細めたようでも、目元を歪めたようでもあった。
    「昔と報いを大事にするけど、進む先は前だけじゃん。だから、『おれはスワローなんだな』って。……なぁ、笑わねぇ?」
    「内容による」
    「錨とかもらえたらすげぇよなって、ちょっと、思ってた」
     ふざけた口調を作ろうとして失敗した声に、ローは軽く鼻を鳴らした。
    「お前が錨って柄かよ。落ち着きのねぇ」
    「……辛辣~~」
     追求のなかったことに、ペンギンはあからさまにほっとした顔をした。このアホが、と内心毒づきながらそのツナギを寛げさせる。肩から落ちる袖、その衣擦れに紛れさせるように口にした。
    「いいだろツバメ。飛んでりゃ陸が近ぇ」
     ローはこれから針を入れる場所にひたりと手を当てた。
    「『生きて辿り着いた』って気分になる」
     戸惑い瞬く男の、心臓の上。

       ◇

     駐留を許されたゾウの森の奥、クルーたちは世界の勢力図を書き換えて生還したローをもみくちゃにして祝いだ。そのまま宴に雪崩込んだのだから収拾がつかないのも当然で、さすがのローもこの日ばかりはお祭り騒ぎに最後まで付き合った。
    「……おい」
     せっせと酔いどれ共を回収している極寒港コンビの片割れを、声掛け一つで呼びつける。馴染みの返事で嬉しそうに飛んできた男を屈ませて、ローは曲げた指の背でその左胸をコツリと小突いた。
    「船に戻ったら、ツバメが見てぇ」
     
     ペンギンは数度瞬いて、辺りに目を泳がせて、周囲に潰れた酔っぱらいしか転がっていないことに、思わず、といった様子で額を押さえる。
     逃げ道塞いでから言わんでくださいよ。
     たったひとりにしか聞こえない文句がそれはそれは小さかったことに、ローは満足げな笑みを浮かべた。
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