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    umi_duki

    @0umi_duki0

    物語の海を漂う海月。
    中華BL。雑記。
    絵描けないので文字書きます。

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    umi_duki

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    コウさんに捧ぐ

    さんじゅっぷんくおりてぃー(まじで)

    #山河令
    mountainAndRiverOrder
    #温周
    temperatureMeasurement

    いい夢を 温客行が目を覚ましてから、幾年が経っただろう。
    「……老温?」
     髪が真っ白になった片割れの、カクリと力の抜ける姿が目の裏に焼き付き、心の臓が止まりかけたことは今でも鮮烈な記憶。
     周子舒を生かす代わりに眠り続ける姿をそばで見守り、目覚めるのを待ち続けた時に感じた恐怖は、眠る温客行の呼吸が止まるのではないかという想像だった。
     なにがあろうとずっと付き添っていたが、ようやく目を覚ました温客行の姿を見てもその頃の恐怖が抜けるのに要した時はあまりにも長く。
    「どこにいるんだ?」
     いつの間にか、眠るときには何をしてもしなくても、隣にいることが習慣化していた。
     温客行が失われることを恐れて眠りの浅い周子舒に嫌な顔せずそばで寄り添い続けるのは私の特権だといって憚らない男は、神仙の身体が睡眠をあまり必要としないのをいいことに夜がな通しで寝顔を見続けていたこともある。
     だから、日も暮れてそろそろ眠ろうかと思ったときに温客行の姿がないことは珍しく、いつもは何かに熱中し人間だった頃の習慣をおざなりにするのは周子舒の方だった。
     最近では周子舒が悪夢にうなされ飛び起きることも減り、なぜ横で寝続けるのか、その理由が生涯の知己である以外の理由を忘れ去っていた時分。
    「老温?」
     修練を欠かさない周子舒とは違い、武庫の外に出ることも多い温客行だが言伝もなく出かけたことは一度もない。
     となれば武庫内にいるばずで、部屋数だけは多い庫内をゆったりと歩き進める周子舒。
     温客行の誂えた、簡素ながら上質な布地の白い衣は足を動かすたびに裾が翻り、無骨な漆喰の中にいても凛烈とした花を咲かせる。
     そうして辿り着いたのは、二人が書庫と呼ぶ一室。
     呼び名の通りいくつもの草紙が積まれ、整えても終わらない分類にやりがいを感じているのは意外にも周子舒だけではなかった。
     あれだけ詩を誦じて人を口説こうとするのだ、教養のある温客行はその暴挙を孕んだ瞳とは裏腹に、その実周子舒の想像以上に勤勉な姿勢を見せる。
     書庫の扉からひょっこりと顔を出した周子舒の黒髪は背中で擦れサラサラと肌触りのいい音を立てた。
     ――寝てる。
     おやと思ったのは、頬杖をついてコクリコクリと船をこく姿を見たから。
     左手に持った草紙は揺れ、斜めに滑り居間にも手から溢れそう。
     頭がかくんと揺れるたびに、周子舒を救った証が火の灯りで煌めいた。かつてよりも柔く結ばれる髪は張り詰めていた幼年を取り戻すような幼さを見出し、ふんわりと垂れる前髪が指に絡んで艶かしい。
     寝顔と言えば大抵は幼く見えるが、恐ろしいほどに整った造形を持つこの男は目を瞑っていてもその豊麗さが失われることはなく、長いまつ毛が強調され筋張った輪郭と柳眉に目を惹かれる。
     見事に山を描く唇が少し開いているのも愛らしく、周子舒はそっとそばにより顔を覗き込んだ。
    「老温?」
     これほど近くにいても起きる気配がないのは、谷主と呼ばれていた頃ではありえないほどの無防備さ。
     それを許されることが己だけだと知っている周子舒は、はらりと目にかかる一筋の髪を避けながら肌に触れた。
     さらりとする手触りはまるで薄絹に触れている心地。柔く色づく頬は力が抜けて桃の実がなり、美味しそうに誘惑してくる。
     そぅっとそぅっと屈んだ周子舒は、肩から黒髪が流れるのも気にせず腰を屈めた。
     ――ちゅっ。
     吸い寄せられるように唇を寄せた周子舒が微笑んで呟いた「いい夢を」というひと言がいつの間にか吸い込まれて口の中に消えたことに気づくまで、あとほんのひと瞬き。
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    DONEお野菜AU。
    雲夢はれんこんの国だけど、江澄はお芋を育てる力が強くてそれがコンプレックスでっていう設定。
    お野菜AU:出会い 藍渙が初めてその踊りを見たのは彼が九つの年だ。叔父に連れられ蓮茎の国である雲夢へと訪れた時だった。ちょうど暑くなり始め、雲夢自慢の蓮池に緑の立葉が増え始めた五月の終わり頃だ。蓮茎の植え付けがひと段落し、今年の豊作を願って雲夢の幼い公主と公子が蓮花湖の真ん中に作られた四角い舞台の上で踊る。南瓜の国である姑蘇でも豊作を願うが、舞ではなくて楽であったため、知見を広げるためにも、と藍渙は叔父に連れてこられた。
     舞台の上で軽快な音楽に合わせて自分とさほど年の変わらない江公主と弟と同じ年か一つか二つ下に見える江公子がヒラリヒラリと舞う姿に目を奪われた。特に幼い藍渙の心を奪ったのは公主ではなく公子だった。
     江公主は蓮茎の葉や花を現した衣を着て、江公子は甘藷の葉や花を金糸で刺繍された紫の衣を着ていた。蓮茎の国では代々江家の子は蓮茎を司るが、なぜか江公子は蓮茎を育てる力よりも甘藷を育てる力が強いと聞く。故に、甘藷を模した衣なのだろう。その紫の衣は江公子によく似合っていた。床すれすれの長さで背中で蝶結びにされた黄色い帯は小さく跳ねるのにあわせてふわりふわりと可憐に揺れる。胸元を彩る赤い帯もやはり蝶のようで、甘藷の花の蜜を求めにやってきた蝶にも見えた。紫色をした甘藷の花は実を結ぶことが出来なくなった際に咲くというから、藍渙は実物をまだ見たことないが、きっと公子のように可憐なのだろうと幼心に思った。
    2006