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    いちじく

    @yuzumikan320

    Twitterに投稿しづらい絵とか文とかを上げます。
    多分グリモア多めになります。

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    いちじく

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    花梨ちゃんは無自覚だけど、ましろさんは自覚してる両片想い
    年上のお姉さんが年下の女の子をめちゃめちゃに振り回すの、好き😌

    両片想いまし花「花梨さんはもし好きな魔法を自分で使うことができるとしたら、どんな魔法を選びますか?」

     ほんのりと和風だしの香りがする放課後。いりこだしを使ったお蕎麦を作り、お腹を満たした料理部の面々が帰った後の調理室で、おらと二人残ったましろが突然そんなことを言った。

    「それって……おらが土の魔法以外も上手に使えたらってこと?」
    「そうです。空を飛ぶのも、テレポートも自由ですよ。」

     子供の頃いつも見ていたアニメに出てくるような魔法を挙げていくましろ。実際にそんな事ができる人はいるけれど、確かにおらはあまり得意じゃない。広い空を飛んで旅をするのも行きたい場所にすぐ行けるのもとても魅力的だと思う。
     けれどもっと大事で、この学園じゃおらぐらいしか欲しがらないような魔法がある。

    「おらは畑の野菜をすぐに成長させられる魔法が良いなぁ。」
    「ふふ、花梨さんらしいですね。」
    「そしたら世界中のお腹空いてるやつみーんな、おらの料理でお腹いっぱいにできるすけな!」

     そう考えたまま口に出して、ふと気づく。

    「あ、でも世界中の人に料理を出すのは無理だな。おらはたった1人しかいないすけ」
    「いいえ……きっと花梨さんならできます。それに、分身の魔法も貰ってしまえば良いのです。」
    「分身なんてまだ命令式も見つかってないっきゃ?もしできたらすごいねぇ。」

     何人にも分裂してせかせかと料理を作る自分を想像して面白くなった。そういえば、こんな事を聞くましろにも使いたい魔法があるのだろうか。おらみたいに、未だ誰も使ったことのない魔法なのかもしれない。

    「……ましろは?」
     おらが尋ねると、ましろは少し俯いて微笑んだ。
    「わたくしは……」

     一瞬の間の後、ましろはゆっくり顔をあげて照れ笑いをしながら言った。

    「わたくしは、好きな人と両想いになれる魔法が良いです。」

     想像もしない答えに思わずぽかんとしてしまった。家族を亡くしたましろの事だから、てっきり人を生き返らせる魔法なんかを望むものだと思っていたから。

    「へ、へぇ〜!ましろもそういうこと考えるんだなぁ」

     なんだか意外だ。ましろは確かに美人で魅力的な女性だけれど、どちらかと言うと自ら人を避けるような性格だから誰かに恋をしているなんて考えていなかった。

    「わたくしだって女の子ですから。」
    「そりゃそうだ。なんもおかしい事じゃねぇよ。」

     そう言って2人で笑う。動揺がばれないように努めるものの、頭の中はましろの想い人のことでいっぱいだった。相手は誰なのか、聞いてもいいのか、なぜ突然カミングアウトしてきたのか……聞きたいことばかりだが、一つ気になることがある。

    「そういえば、両想いになれる魔法ってことは……ましろは片想いしてるっきゃ?」
    「……はい。」

     ましろの頬がほんのりと赤くなっていく。今まで見たことがない表情だ。

    「……告白は?」
    「それが……まだ、していないのです。」
    「な、なんだぁ。それなら片想いだって決めつけることもねぇよぉ。」

     自分でも気づかぬうちに緊張していたようで、肩の力がふっと抜けた。ましろは失恋しているわけじゃない。詳しい事情を聞いていないから無責任な事は言えないが、相手の気持ちが分からないのならチャンスがあるのではないか。きっとましろと仲が良い人なのだろう。例え恋愛感情が無かったとしても、告白されてしまえば自然と意識するようになる……のだろうか。今まで恋愛に縁が無い人生だったから、そういうものなのかも分からない。

    「わたくしも……したいと考えているのですがどうすれば良いのか分からないのです。」
    「うぅん……おらもこういうのは苦手でねぇ。とりあえず、どういう人なのか聞いても……」

     そうましろに尋ねようとしてはっと気づいた。どうしておらはましろの想い人が分からないのだろう。料理部として数年間過ごした時間のほとんどにましろがいた。小蓮、明鈴、レナ、誰よりも長く一緒にいて、一緒に色んな経験をした。他人との間に壁を作り自分を隠そうとするましろの本心を、この学園にいる誰よりも気遣って理解しようとしていたはずなのに。それなのに、ましろの想い人の候補すら浮かばない。ここまではっきりと本人に教わらなければましろの恋に気づきすらしなかった自分がだんだんと情けなく感じてきた。

    「どういう人か……ですか。」
    「あ、あぁ。聞いても大丈夫?」
    「……えぇ。」

     不自然に言葉に詰まったおらには触れずにましろは答えてくれた。まず第一に、とても優しい人。学園内でも有名なほどのお人好し。……転校生?それから、充分な強さと勇敢さを持っているのに自分を前に出さずに人のサポートに回る。けれど人のためなら率先して行動できる人。……やっぱり転校生か?それと、人の気持ちに敏感でましろが辛くて悲しんでいるときにはすぐに助けてくれる。……おらよりもってことかな。お人好しで、強くて優しくて、おらよりもましろのことを考えていて……あれ、何でおらと比べようとしてるんだろう。

    「それから次に……」
    「ちょ、ちょっと待って、ましろ」

     好きな人の事を話しているましろは穏やかに笑っていて、本当にその人のことを想っているのが伝わってきて何だか胸がドキドキしてきた。さっき緩んだ肩も無意識に張って、背中には汗まで滲んでいる。これは絶対に恋バナが原因の興奮じゃない。理由のよく分からない焦りに動揺して、ついましろを遮ってしまった。なにか、なにか言わなきゃ。

    「その、おらやっぱりアドバイスみたいなのは上手くできないから……相手が誰か教えてくれたら、ましろが告白できるように手伝えると思うすけ……多分……。だ、だから名前とか聞いてもいい?」

     自分が何を言っているのかもよく分からなくなって、語尾が小さくしぼんでしまった。何で当人であるましろよりもおらがこんなに焦っているのだろう。胸はざわざわしたままだけど、相手が知りたい。ましろの助けになりたい。そんな思いだけがぐるぐると頭を巡っていた。

    「……名前は……駄目なんです。」
    「えっ」

     ましろがぽつりと呟く。予想外の答えに思わず体が硬直した。何か言葉を返したほうが良いのだろうが、思考まで固まってしまった。まさかここまで聞いて教えてもらえないなんて。

    「すみません。わたくし、花梨さんに相談して近道をしようとしてしまいました。」
    「近道……?」
    「ズルってことです。やはり花梨さんに甘えるわけにはいけません。これはわたくしがきちんとしないといけない事なんです。」

     ショックを受けているおらに対し、ましろは何だかすっきりした顔をしている。これはあんまりにもおらが頼りないから諦められたってこと?二人きりにするぐらいならおらにだって出来ると思うのだけれど。

    「……混乱させてしまってごめんなさい。大丈夫です。あと少しできっと勇気が出ます。その時は……花梨さんには絶対教えます。」

     その時って告白する時?おらはその結果を教えてもらうの?どうして今じゃ駄目なの?次々と浮かぶ疑問に口が追いつかなくて、緩く動かすだけになっていたおらの手をましろはきゅっと握ってまっすぐ目を見つめてきた。

    「だから……それまで待っていてくださいね。」
    「……!待っ……!」

     言うだけ言ってひらりと調理室を出て行ったましろに向かって、咄嗟に待って、と伝えようとして喉がつっかえた。一人になると部室が急に静かになってやっと頭が冷静に動き出し、さっき言おうとした言葉の意味を考えてみる。
     待って、なんてほんとは言う必要なかったんだ。ましろは自分で頑張ると言っているのだから、そっか、頑張れ、と背中を押すのが一番良いはずなのだ。けれどおらはましろを引き止めて、どうしても相手の名前を聞きだそうとした……というかましろが今すぐ告白に行ってしまいそうなほどの勢いだったからちょっと待って!と言いそうになった。
     変だ。変だな。さっきから続く嫌なドキドキも、じっとしていられないような焦りも多分、ただの友達に覚えるような感情じゃない。じゃあ何なのかって自分に聞いても、知らない気持ちに名前をつけるのは難しかった。 

     けれど、一つ。確かに分かったのは、ましろに手を握られて見つめられたとき、もしこんな風に告白されるならきっとおらは嬉しくて応えてしまうのだろうという事だけだった。
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