ジュンとシオンくんの裏側。「ジュンくん、子どもの頃にこの家に引っ越してきたんだって?」
急に掛けられた言葉にヒュッと喉が鳴った。
きっと、なんでもない質問だったんだろう。
でも急に体の中に氷を詰め込まれた気になった。
息が詰まって頭の中が真っ白になる。
なんで、僕のことなんて何も知らないはずの彼が、なんで僕がここの子ではないと知っているんだろう。
「あ、えっと、その」
うまく言葉がでてこない、何か言わなきゃいけないのに。
普通の話題のはずなんだ、「普通の人」にとっては。
でも、僕は。
「あ、えっと、うん。それ、どこで?」
違う、それを聞きたいんじゃない、これは普通の会話じゃない。
でももう口から出てしまった言葉は引っ込まないからどうしようもない。
「さっき、ドミナで町の人から聞いた」
「あ、そっか。そうだよね」
冷静に考えればそこしかない。
今日シオンくんが出かけていた場所なんてドミナしかないし、僕が小さい頃にここへ来たと知ってる人もドミナにしかいないはず。
当然の質問にシオンくんはどう思ったんだろう。
なんでもないふうに答えてくれたけどおかしく思わなかっただろうか。
ああ駄目だ、捨てられてここに来たなんて、知ってる人はいないはずなのに、怖い。
「いけない落としちゃった……」
震えはしてないけどやけに小さい声が出た。
気付いたら手から落ちていた茶瓶を慌てて拾い上げたけど、こっちも震えないのが精一杯。
僕が捨てられるほど悪い子って、知られて無いだろうか。
軽蔑されて、嫌われたりしてないだろうか。
お前みたいなやつ、いらないって。
「あ、よかった。割れてなくて。そう、そうなんだ。僕がまだ、子どもの頃にね」
「……。そう」
ようやく、普段用意してるはずの言葉が出たけどシオンくんからの答えには間があって、その間が、とても怖くて。
そうするとシオンくんが近づいてきた。
お茶を淹れてくれるという彼に茶瓶を渡して、なんとかありがとうと返したけれど、どう考えても今の僕はおかしかったんだろう。
美味しく淹れてくれたらしいお茶も、可愛いクッキーも、なんの味もしなかった。