Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    mkk_143

    @mkk_143

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    mkk_143

    ☆quiet follow

    ポタパロ烏出の出会い。新刊のせいでさまざまな烏出の出会い妄想が捗るのだった……

    #烏出
    ugout

    ポタパロ出会い編0.5
     びしょ濡れの身体を引きずりながら、烏丸は談話室へと続く階段を降りていた。絶望的なのは、抱えている教科書がすでにボロボロなこと。明日の授業で使うために捕まえたネズミが風邪を引きそうなこと。そして、明日授業がある教科の教科書が軒並みないことだ。
     談話室に入るための扉を守る肖像画は、ピーブスにイライラしていたから誰が来たかなど覚えてはいないと言った。それから、通った者はみなきちんと合言葉を言ったのだということも!
     心配し、一緒に探そうと申し出てくれた佐鳥と時枝に無言で首を横に振り、ただ一人で学内を駆け回る。三人でいればそれだけ、彼らに失点がつく可能性がある。どうせ犯人は純血以外を嫌うスリザリンの生徒であるだろうことはわかっているからこそ、半純血の二人を巻き込むことは咎めたのだ。
     生粋のマグル出身で、しかも家が貧乏。ここに来たのもホグワーツであれば学費がいらず、就職先を見つけられる可能性があるからだということを烏丸は公然と口にしていた。それが彼らの不興を買ったのだと知ったのは入学してすぐのこと。それからというもの、くだらない嫌がらせは枚挙にいとまがない。
     しかし、ここまで根本的な嫌がらせを受けたのは初めてだった。しかも、明日提出の課題が終わっていない。家の内職を手伝っていたとはいえ、前日の夜で間に合うと思っていたのがまずかった。どうかどこかで見つかって欲しい。そう思ってあちこち探し回ったが見つかる気配はなく、そろそろフィルチに見つかりそうだった。明日朝一番で図書館に行けばどうにかなるだろうか。課題の内容は毎年恒例、席の順番ごとに配られるもので、どのみち友人のものを書き写しても正解にはならないものなのだ。
     困った、とよそ見をしていたのがよくなかった。ドン、と人にぶつかった感触に血の気が引く。
     まさか、ぶつかるまで気が付かないなんて。そう思い見上げた先には寮生だろうか、茶髪に色眼鏡をかけた青年が経っていた。
    「あれ、もしかして」
    「あ、あの。すみません俺……」
    「いやいいよ。大丈夫。安心していい。今日の残りはきっとラッキーだ」
     そしてしばらくはきっと。
     青年があまりにも不思議なことを言うので烏丸は眉根を寄せた。こんなずぶ濡れで夜にこそこそと動き回る先に幸運が訪れるとは到底思えない。それに彼は誰なのだろう。どの寮生のカラーも身に着けないまま、するりと青年が指を持ち上げる。
    「そのまま真っすぐ。突き当りだと思った場所へ進んで」
     どういう意味なのかと聞こうとしたのに、階段を降りた先に見えた壁から視線を戻すともう誰もいなかった。冷たい廊下にぬるりと触感の在る風が吹き抜ける。わけがわからない。けれども、スリザリンの嫌がらせの延長ではないような気がした。途方に暮れていた烏丸の足を動かすには十分な理由だ。
     なにせ、新しい教科書を買うような金はない。あの教科書は、ホグワーツへの入学許可証が届いた後に、見知らぬ誰かから貰ったものなのだ。上級生にも知り合いはいない。同じ時に貰った箒はなかなか手懐けられず、かなり枝が抜けてしまっていて、こればかりは最悪借金をしてでも買い替えなければと思っていた矢先の今日なのだ。
     ええい、と烏丸は諦め半分で突き当りまで駆け下りて、壁に向かって手を伸ばした。あの、列車に乗った日を思い出すのだ。するり、と身体が突き抜ける。まさか、と目を見開いてももう遅い。身体は宙に放り出され、そのまま床へと真っ逆さまだ。
    「うわっ、なに?」
     激突する! そう思い腕を伸ばしたはずなのに、気づけば空中で逆さまになっている。
     なに、と言う声はまだどこか幼さを含んでいた。瞬きの間に、烏丸の目の前には寝間着のローブを着た青年が積み上げた本の中から抜け出してくる。
    「だ、だれ」
    「いや、誰はこっちの台詞だっての。どうやって入っただよ、ここ」
     施錠は完璧だったはずなのに、とぶつぶつ独り言を言いだす人物はなぜか顔が見えないままだ。しかしふと、顔が上がったと思うと同時に金髪、薄い茶色の目が烏丸を捕らえる。
    「お前、グリフィンドール生だな。名前は?」
    「烏丸、京介です」
    「こんな時間になにしてる。減点でもくらいたいのか?」
    「……いえ、さっきそこで……茶髪の若い人に、そのまま突き当りを進めって言われて」
     逆さまになっているせいでしどろもどろになりながら烏丸が伝えるとパッと重力がなくなった。
     その代わりに訪れた引力のせいでぐえっと潰れるような音を立てて烏丸は床に落ちた。叩きつけられる直前に体の向きを変えたのは胸元に入れているネズミを庇うためであり、そのせいで抱えていたボロボロの教科書が散乱する。
    「なに、これ」
     どうみても古書ではなく、意図的に汚されたそれらを醜悪なものと見つめる少年に烏丸ははくりと口を動かした。嫌がらせを受けている。それは、自分のせいではないけれども正直に言うのは難しい。
    「あー……うん、うん。ちょっと待ってな」
     くるり、くるりと家具の位置がいくつか変わり、そこから何かが床に落ちる。いずれも金属の音が三つ。白い指が伸び三つの鍵を手に取ったかと思えばおや、と首を傾げた。
    「この部屋はあるなしの部屋なんだけど、これってどう見ても鍵だよな?」
    「鍵、に、見えますね」
    「んー……まぁいっか! よし、行くぞ! あと、悪いけどもうそれは駄目だ」
     ぐいと手を引かれて起こされたと同時に散乱していた教科書が燃えた。悲鳴を上げそうになった烏丸は、逆に聞こえてきた断末魔に息を呑む。どうやら行き過ぎた悪戯が、残り香のように仕掛けられていたらしい。しまった、証拠として提出すればよかった、と手を引く少年が顔を歪めた。
     体温がかなり低くなっているせいか、少年の手は熱かった。どこへ、と聞くよりも早く少年はいくつかの扉に鍵を差し込んで、そのうち一人を開錠した。
     その先から流れ込んでくるのは空気ではなく泡だ。無数の泡に囲まれ、続いて湯気に囲まれる。
    「お、ラッキー。監督生の風呂場だ」
     なにもかもわからないのは烏丸のほうで、なにもかもわかったかのように過ごすのは少年だけ。
     名前もわからないままに魔法をかけられたかと思えば一糸まとわぬ状態にされ、手の中にはタオルが一枚。
    「え、なにこのネズミはお前が飼ってんの?」
    「あ、違います。明日の授業で必要で。俺、ペットがいないから、現地調達なんです」
    「げんちちょうたつ」
    「飼うってなっても餌代も出せないし。ちょっとだけ懐いて貰うようにしてるんです」
     フェロモンを差し出す代わりに協力して貰うのだと言えば、あんぐりとした顔を見せられる。
     そうしてずぼんっと思い基地お湯の中に沈められてすぐさま泡で全身を現れた。かと思えば息が触れそうなほど近くに迫った顔が怒ったような表情で、洗いざらい吐けと言う。
     烏丸は最初戸惑ったが、話していくうちになぜか止められなくなり結果ぜんぶ話してしまった。泡の中に混じるキラキラとした光に気付いたのは喋りきった後だ。ただ、それがなにを意味するのかはわからなかったけど。
    「ったくもー、あいつらまじでしょうもねぇな」
     少年はぷりぷりと怒ったかと思えば、そんなことなに一つとして正しくないし聞かなくていいのだと、高らかに言う。体がどんどん温まっていく。足の先まですっかり体温が戻った。すると不思議と、少し前まで感じていた絶望感が薄れていった。
    「そもそも魔法省が、魔法学校が、素質のある人間を振り分けた。ホグワーツに来ることを許可するんだ。血が選ぶんじゃない。魔法を操る、あるいは知ることができる人間に、正しく魔法と言う力がなんであるかを教える。それは、この世界の摂理なんだ。力とはなにか、それを見ることができる世界から読み解かなければならない。学ぶべき場所を用意するのは世界の義務だ。純血だのなんだのってのが、その根幹を左右することなんてできない」
     組み分け帽子をかぶっても、談話室で話していても、図書館の本を開いてみても、学長と話していても知ることのなかった論理を少年は一言一句間違わずに口にした。世界の義務など考えたこともなかった烏丸は目を丸くして、言葉すべてをまた落っことしていた。まさに目から鱗。ぽろぽろと泡が鱗になって落ちていく。
    「よし、とりあえず教科書だな。いいぜ、寮を問わず探すようになるけど、きちんとぜんぶ集めてやるから安心しろよ。あとはスリザリンの馬鹿たちだよな。そういうくだんねー遊びを、どうにかしてとことん減点さしてやんねーとな」
     ぶつぶつと言う少年は烏丸の腕を引く。自分が全裸であることに気付いたのは一瞬で、温かい風が身体を包み、どこからか現れたローブがくるりと巻き付いた。少なくとも、触り心地といい烏丸に支給されたものではない。
    「あれ、出水か?」
     そこで、ガラガラと音を立てて扉が開く。入ってきたのは体格的にも更に上の学年だろう男子生徒だ。荒船さん! と金髪の少年が言う。
    「なんでグリフィンドール生のお前がレイブンクローの監督生の風呂場にいるんだ」
    「ここレイブンクローなんですね。鍵を開けてそのまま来たから」
    「……心配になるから、あんまりひょいひょいそういうのを使うんじゃない」
    「今回は大丈夫です。こいつが、迅さんに会ったっていうから」
     迅さん? と首を傾げたのは荒船と呼ばれた男子学生と烏丸だ。そんな話を、自分はしただろうかと考えて気づく。そうだ、あの部屋へは見知らぬ青年の導きで訪れることになったのだ。
    「あ、それで荒船さん。こいつ、スリザリンの馬鹿たちの嫌がらせにあって教科書全部ぼろぼろにされたんです。一年の教科書って、誰か持ってるやついますか?」
    「ア? 誰だそんなことをするやつは。とっちめてやるから、名前を言え」
    「それはまた後で。とりあえず、教科書なんですけど」
    「一年のか。俺のは半崎にぜんぶやったんだよな。あいつ、調合で教科書全部燃やしたとかで」
    「うわぁ」
    「だがわかった。今日の内には見つけておいてやる。お前、名前は? グリフィンドールか?」
    「あ、はい。烏丸、烏丸京介です」
     なぜかとんとん拍子に進む話に呆気に取られていると、了解とだけ言って荒船は出ていってしまった。いつの間にか場所はレイブンクローの風呂場ではなく、グリフィンドールの談話室になっている。暖炉の前にはもう誰もいないが、烏丸の目の前にはココアの入ったマグカップは浮かんでいた。
    「あの。名前を教えて頂けませんか?」
     するりと消える気配を感じて慌てて烏丸がそう言うと、猫のような目が瞬く。
     あれ、名乗ってなかったっけ。「出水。出水公平。お前の一個先輩だよ、京介」勝気な目が細まり、同じく手にしていたココアを冷ますためふうふうと息を吹きかける。
    「すご。荒船さん早い」
     足元にぱぱっと入り込んできたのは小さなネズミだ。加えている手紙に、一時間目の前に食堂東、五階の南向きの廊下で教科書を引き取ってくれという文字が浮かんだ。
     そのネズミは烏丸が捕まえてきたネズミだったが、するりとソファの下に入り姿を消した。しまった、と気づいたと同時に膝になにか温かいものが触れる。
    「でもって、明日の授業は体力的にネズミじゃあ不利だ。協力してくれるやつの鍵が開いたよ。加古さんが飼ってる猫だ。ミセス・ノリスとは相性が悪いから近づけないでくれって。あ、加古さんが飼ってた猫の孫? になるみたいだけど。城の中のネズミ退治をするから、ネズミはやめといたほうがいい。すっかり忘れてたけど、そういえば思い出した」
    「はぁ……」
    「ってなわけで、俺はもう寝る。そういえば課題があるんだよな。はいこれ」
     ゼロゼロハチの二分の五。そう書かれた番号に烏丸の目が輝く。なぜならばそれは、烏丸の席番と同じだからだ。ならば、これはきっと烏丸の課題と同じに違いない。歓喜に心が震えた。まさか、席番も同じなのだろうか。生きてきて初めて、運命という言葉がこの世界にもあるのだと烏丸が思えた瞬間だ。
    「っ先輩!」
    「じゃ、また明日」
    「また明日……え?」
    「え? だって鍵もう一個あんだろ。でもってこの鍵は俺の知る先輩の部屋のやつによく似てっから、もう明日にしようぜ。眠いし」
     今日は読書もしないで寝るよ、という出水の言葉を烏丸は脳内で反芻した。また明日。また明日? 鍵がどうとか言っていた気がする。
    「おやすみ、京介」
     やわらかく、まろい響き。するりと頬を撫でた指先が離れる。
     暖炉の火が消えて、ほんの少しだけ烏丸の前で灯る。早く部屋に戻れと導くように。布団に入るまで、寒い思いをしないように。
    「……おやすみなさい。また、あした」
     口の中に転がした言葉に、心臓が跳ねるのを自覚しながら。烏丸はいつもよりもいい匂いがする布団に潜りこみ、そういえばこのローブが誰のものか聞き忘れたことに気付いて、溶けるほど耳まで赤くした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works