悠久の時を君と ああ。美味しそうだな……。
隣で踊る百の首筋を汗が流れていく。
それを目にして千はゴクリとツバを飲み込んだ。
あの首筋に噛み付いて、牙を突き立てて貪るように血を飲んでしまいたい。
きっと美味しいだろうな。
甘くて芳醇で……。そこまで考えて千は頭を左右に振った。その瞬間に軽い目眩のようなものを感じて、思わずその場に膝をついた。
「ユキっ? 大丈夫?」
百が血相を変えて駆け寄る。
幸いなことに本番ではなく、リハーサルだったからよかった。などと千は他人事のように思いながら自分の顔を心配そうに覗き込む百に笑いかける。
「大丈夫。少し、目眩しただけだから」
その言葉に百の眉間にシワが寄る。
「ユキ……」
そのまま他の人には聞こえないようにするかのように、千の耳元で問いかける。
「血……足りないんじゃない? ちょっと来て。すみません! 一回休憩ください!」
千の腕を掴んで、そしてスタッフにペコリと頭を下げる。
「ちょ、モモっ!」
ちらりと送られたビーフブラッドルビーの瞳は珍しく、反論を許さないという頑固さを宿していた。
やれやれと千は肩を竦めた。
血が足りないのは、否定できないからね……。
千は小さくため息をつく。
Re:valeの千こと折笠千斗は実は吸血鬼であった。
吸血鬼とはいっても、普通の人間たちが想像するような、映画やドラマに出てくるようなそんなドラマチックなものではない。
血は必要だが、あんな風に首に齧り付いて、血を吸い尽くすような真似はする必要はない。
いや、全くないわけではないが、それはそう簡単にするものではない。
普段は人間たちの傷口などから摂取する少量の血液で事足りるのだ。
ドラマチックにしたいがために、あんな生き血を吸う生き物と認識されるから、迫害されるんだよね……。
千はそう思っている。
隠してはいるが、千にも牙はある。
それを使うことは限られているし、そう無闇矢鱈に使うものではない。
なぜなら、その牙を使って血を啜った相手は、同じく吸血鬼になるのだ。
そして、悠久の時を、いつ終わるかわからない刻を生きなければならないのだ。
それがどれだけの苦痛を伴うか、千は身を持って知っている。
他の仲間たちは共に時を過ごす相手を見つけた時に牙を使う。