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    SkydiveR_ay

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    SkydiveR_ay

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    進捗です
    昔に書いたこういうやわらかい雰囲気のものが書きたくて、ちまちまやっています

     深夜の三時半過ぎに目がさめてしまって、うまく眠れなくて、布団でごろごろ転がっていたところを、彼に見つかった。眠れないなら、起きていればいい。ただ何もしないのも退屈だから、ドライブにでも行こうか。じゃあ、海に行こう。そんなおかしな理由で、彼はさっさと車の鍵を掴んで、気づけば玄関で待っていたのだった。自分は何も準備もしていなかったのに、白いシャツに薄手のカーディガンを羽織って、充電がいっぱいの携帯と中身のすくない財布だけを持つと、準備ができたことになってしまった。肯定とみなした彼は扉を開けて、夜の世界に足を踏みいれる。滲んで濁った空、低い月がかすんで見える空は、息がしやすいように思えた。
     赤いオープンカーは、夜の中では色がよくわからない。車のライトに照らされればわかるけれど、街灯の隙間に一瞬だけ映る影の中では、その色をとらえることができない。駐車場のライトから抜け出したその一瞬の暗闇で、昼にすればよかった、なんてすこし後悔した。でも彼が行こうと言うのだから、それに従うほかなかった。このまま朝まで眠らずに待っていたって、彼の言うとおり退屈なのだ。どうせ明日の予定もないから、布団の上でごろごろ転がるだけの時間をくりかえすだろう。
     運転席で、彼は煙草を吸う。マルボロの香りが風にさらわれては流れていく。なにか物足りないと思った。においがこもってしまうのが嫌だから、窓を開けて吸ってくれと言うと、彼はその言葉の通りに従って、窓を開けて煙草を吸う。においは同じように風に流れているのに、車の中では少なすぎるように感じた。それが物足りないのは、さみしい、ということなのだろうか。自分の中に生まれた感情を言語化したり、表現したりするのはむずかしい。屋根を閉めないか。口まで開いたその言葉は、彼の横顔を見ると消えてしまった。
    「眠いのか?」
    「え?」
    「ぼーっとしてねえ?」
    「ああ、いや」
     まさか、お前の顔を見たかった、なんて言ってしまうのは照れくさくてよくない。あなたをきれいだと思う。そうやって言葉にあらわしてしまうのは、おろかなことで、または、幼稚なことだ。少ない語彙でなんでも言葉に縛りつけるより、無言にたよって泳がせていたかった。横目でこちらを見た彼は、まあいいか、と言うように視線を戻す。
     今は、海がきれいに見える季節だ。みじろぎのように波を穿ち、青くきらきらと光る水面は脈打って、ざあざあと遠くまで響く音が呼吸のようで、大きな生き物のような海が好きだった。一桁のころだったか、祖父とふたりで海に来たことがある。海の底は聖域で、中心は神の領域で、人間が触れることはできない。すべてを知ることは許されない。波の音とともに聞いていた祖父の話は、幼い自分には理解ができなかった。それでも海が好きだった。
     あの底には行けない。聖域に足を踏みいれてはならない。血液のごとく流れる水に従う、うつくしい魚たちのようにはなれない。自分はこの世界にとらわれていて、いつになっても抜け出すことはできないのだ。その身分がわずらわしいと、思ってしまうことだって、ある。災害のない世界に生まれたなら、自分はきっと、ふつうの人間として暮らせていたのだと、思ってしまうこともある。
     東京湾は人に支配されている。水面は自由なようでいて、それなりに不自由だった。海洋ごみやら海面上昇やら何やらで騒ぎ立てる世だが、たいして気にしていないことだろう。海は変わらない。人の手では安易に変えられない。その中心は、あの底は、神の聖域だから。真夜中でも、それはかわらないだろうか。かわらず神の場所であるのだろうか。うん、きっとそうだ。海の存在は、神様だって手放したくないはずだ。
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    SkydiveR_ay

    DONEふわふわしたせそです
    約束する話
    0.12% 深夜の三時半過ぎに目がさめてしまって、うまく眠れなくて、布団でごろごろ転がっていたところを、彼に見つかった。眠れないなら、起きていればいい。ただ何もしないのも退屈だから、ドライブにでも行こうか。じゃあ、海に行こう。そんなおかしな理由で、彼はさっさと車の鍵を掴んで、気づけば玄関で待っていたのだった。自分は何も準備もしていなかったのに、白いシャツに薄手のカーディガンを羽織って、充電がいっぱいの携帯と中身のすくない財布だけを持つと、準備ができたことになってしまった。肯定とみなした彼は扉を開けて、夜の世界に足を踏みいれる。滲んで濁った空、低い月がかすんで見える空は、息がしやすいように思えた。
     赤いオープンカーは、夜の中では色がよくわからない。車のライトに照らされればわかるけれど、街灯の隙間に一瞬だけ映る影の中では、その色をとらえることができない。駐車場のライトから抜け出したその一瞬の暗闇で、昼にすればよかった、なんてすこし後悔した。でも彼が行こうと言うのだから、それに従うほかなかった。このまま朝まで眠らずに待っていたって、彼の言うとおり退屈なのだ。どうせ明日の予定もないから、布団の上でごろごろ転がるだけの時間をくりかえすだろう。
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    SkydiveR_ay

    PROGRESS進捗です
    昔に書いたこういうやわらかい雰囲気のものが書きたくて、ちまちまやっています
     深夜の三時半過ぎに目がさめてしまって、うまく眠れなくて、布団でごろごろ転がっていたところを、彼に見つかった。眠れないなら、起きていればいい。ただ何もしないのも退屈だから、ドライブにでも行こうか。じゃあ、海に行こう。そんなおかしな理由で、彼はさっさと車の鍵を掴んで、気づけば玄関で待っていたのだった。自分は何も準備もしていなかったのに、白いシャツに薄手のカーディガンを羽織って、充電がいっぱいの携帯と中身のすくない財布だけを持つと、準備ができたことになってしまった。肯定とみなした彼は扉を開けて、夜の世界に足を踏みいれる。滲んで濁った空、低い月がかすんで見える空は、息がしやすいように思えた。
     赤いオープンカーは、夜の中では色がよくわからない。車のライトに照らされればわかるけれど、街灯の隙間に一瞬だけ映る影の中では、その色をとらえることができない。駐車場のライトから抜け出したその一瞬の暗闇で、昼にすればよかった、なんてすこし後悔した。でも彼が行こうと言うのだから、それに従うほかなかった。このまま朝まで眠らずに待っていたって、彼の言うとおり退屈なのだ。どうせ明日の予定もないから、布団の上でごろごろ転がるだけの時間をくりかえすだろう。
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