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    GK_mineko

    @GK_mineko

    杉リパのみ。
    杉リパ/杉ㇼパ/sgrp
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    GK_mineko

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    ととさんの描いた警官sgmtさんに触発されて書いたパロディです。
    https://x.com/recoj33/status/1805975948405395957?s=61

    なお、まだここから続きます。

    #杉リパ
    Sugimoto/Asirpa
    #sgrp

    杉元巡査とアシㇼパさんのお話① 小学校への通学路には交番がある。アシㇼパが生まれた時からこの場所にあるのであまり気に留めることはなかったが、フチが「通学は必ず交番の近くの道を通るように」「何かあったら交番に行きなさい」と折に触れて言うので、交番の前を通る時は何となく視線で中の様子を覗っている。だが、中にいる警官は大抵暇そうだ。いつかは大あくびを見かけてこの街が平和な証拠だな、なんて笑っていた。
     ところが、その日は朝から様子が違った。この街には小学校から高校まであり、多くの学生がこの交番の前の道を通学路にしているが、何故か誰もが交番の前を大きく迂回して恐々足早に行き過ぎていくのだ。アシㇼパが首を捻っていると、快活な声が飛んできた。
    「おはようございます!」
     交番の前には見慣れない警官が立っていた。どうやらこの声が学生たちが足を早める理由らしい。皆彼を避けて通る。だが理由が分かってもやはり不思議だった。その声は夏の太陽みたいに明るくて、元気が風になって身体を吹き抜けていくようなのに。アシㇼパはいつも通りに交番の前を通り、交番の中を伺った。いつも暇そうにしていた警官は快活に挨拶をする若い警官の後ろ姿を見守っていた。
    「おはようございます!」
     声が少し柔らかくなったのは、自分に言葉が向けられたからだとアシㇼパは理解した。見上げると皆がこの道を足早に通り抜けて行った理由が分かった。快活な声の持ち主であるその若い警官は、顔に目立つ傷があったのだ。アシㇼパの目線に合うように屈むとその傷がよく見える。縦に横に切り刻まれた顔は、しかし笑うとやはり声の通りに明るさが増した。
    「おはよう。元気だな」
     若い警官は、お、とアシㇼパを見返すと、また笑った。
    「今日がこの街に赴任して初日なんだ。だから街の皆さんに早く俺の顔を覚えてもらおうと思ってね」
     周囲の様子を見る限り、『顔を覚えてもらう』ということには十分過ぎるほど成功しているように思える。
    「杉元佐一巡査だ。何か困ったことがあったら言ってね」
     こんなに人懐こい笑顔を持っているのに、もったいないな、と思った。アシㇼパは両手を頭の高さに上げ、杉元を見上げた。彼はすぐにアシㇼパの意を察し、両膝についた手をアシㇼパの手の高さまで上げる。ぱちっ!と音を立てて杉元の両の手のひらを叩いた。
    「アシㇼパだ。すぐそこの狼之神小学校の六年生だ。よろしくな、杉元」
    「うん、よろしく、アシㇼパさん」
     朝の街の空気がほっと和らいだ瞬間だった。
     以来、ここを通る時はハイタッチをして挨拶をするのが杉元とアシㇼパの習慣になった。
    「おはよう、アシㇼパさん。今日はたくさん荷物を持ってるね」
    「うん。今日な、家庭科の授業があるんだ」
     アシㇼパの表情が曇っているので、杉元も眉を八の字にして子供を見返す。
    「家庭科が嫌いなの?」
    「料理を作るのは好きだけど、裁縫は嫌いだ。ボタン付けくらいしか上手く出来ない」
    「え!アシㇼパさん、ボタン付け出来るの!すごいじゃん!」
    「ボタン付けくらい、クラスの子はみんな出来る」
    「ええ〜?そうなの〜?俺、ボタン付けも出来ないから、シャツのボタン外れっぱなしだよ。ほら」
     そう言って捲っていた制服の袖を広げて見せた。
    「だから俺が教えてやるって言ってるのに、めんどくさがりやがって」
    「菊田さん」
     いつも交番の奥で眠気を噛み殺していたおまわりがひょっこり顔を出す。
    「めんどくさがってるうちにボタンも無くしちまいやがったんだぜ、こいつ。ボタンのないシャツが溜まる一方さ」
    「あれはそのうちやりますってー」
    「ふふ、杉元は案外だらしないんだな!」
     きらきらの笑顔で言われた杉元は反論する術を持たず押し黙った。
    「学校が終わったらボタンを付けに来てやる」
    「え!いいよ、そんな…自分でやるし!」
    「そう言っていつまでもやらないんだろう?」
    「うぐっ…」
     呻いた杉元に、アシㇼパはまた明るく笑った。すると小学校のチャイムが鳴り響く。急がなきゃ、と杉元が呟き両手を上げると、アシㇼパもさっと両手を掲げて大きな両手をパチン、と叩いた。そして先ほどまでの表情が嘘のように明るい笑顔で走って行く。
    「また帰りにな〜!」
     小学校へ続く角を曲がる前に、ぶんぶん手を振りながら声を張り上げるアシㇼパに、杉元も笑いながら手を振り返した。
    「随分懐かれたな」
     菊田は微笑ましい、と言うように走って行くアシㇼパの姿を見送った。
    「そうかな。そう見えます?」
    「お前はそう思わないのか?」
    「あの子、年よりもかなり大人ですよ」
    「へぇ?」
    「俺の赴任日初日に、あの子の方から挨拶返してくれたでしょ。あれ、周りがみんな俺を避けてたから、助けてくれたんですよ」
    「ああ、そういえば…」
     初対面の大人の男とハイタッチをしようなんて人懐こい子供だ、と菊田は思っていたが、この街に配属されて長い菊田にはそんな砕けた態度は見せたことがない。いつもこの交番の前を通る時、奥にいる自分があくびを噛み殺しているのを見て母親みたいに微笑むような、そんな大人びた顔しか見たことはなかった。
    「まあ、だけどな。いくら賢くて子供らしくない気配りを見せる子でも、大人とは違うんだ。俺たちが見守っててやらないとな」
     そう言って一枚の紙を杉元に差し出した。
    「最近この辺を不審者が徘徊してる。登下校中の子供が声を掛けられる事案が多数発生しているそうだ。巡回はいつも以上に念入りにな」
    「了解です」
     杉元は不審者の人相風体の描かれたその書面をよく見て、胸ポケットにしまった。

     ひと度巡回に出れば、杉元は街の色んな人に声を掛けられた。布団が屋根に落ちてしまったから拾って欲しいとか、バドミントンの羽根が公園の木に引っ掛かってしまったから取って欲しいとか、散歩中の保育園児たちに遊んで欲しいとせがまれるとか。赴任日初日の避けられようが嘘のようだった。こうして街の人たちに受け入れられたのも、アシㇼパのあのハイタッチのおかげだ。
    (あの子は俺の恩人だ)
     アシㇼパとのハイタッチはもはやあいさつというだけでなく、ちょっとした儀式かおまじないのようなものだった。
     昔世話になった菊田に憧れて警察官になった杉元にとって、人の役に立てるこの仕事で街の人に受け入れられることはとても大事なことだったのだ。そのきっかけを作ってくれたあの小さな手の持ち主の笑顔を守ってやりたい。両手を打ち鳴らし合うたび、杉元にとってのアシㇼパの存在はそれほど大事なものになっていった。
    「あ、やべ!」
     腕時計で時間を確認し、いつの間にかアシㇼパの下校時間が近付いていることに気が付いて、慌てて自転車を走らせた。
    「杉元巡査、戻りました!」
     どたばたと交番に駆け込むと、菊田がのんびりした様子で「おう」と返事をした。
    「あれ?アシㇼパさんは?」
    「まだ来てないぞ」
     腕時計を見る。いつもならとっくにこの交番の前を通っているはずだ。今朝はボタン付けをしてくれる約束までしたのだから、素通りするとは考えられない。いつもとは違う嫌な予感がぞろりと背中を撫でていく。杉元は胸ポケットにしまった不審者情報の書面をもう一度広げた。中肉中背、黒のパーカーと黒いズボン。年齢は二十代〜三十代前後。取り立てて目立った特徴はない。突然呼び止められ、人気のない脇道へ連れ込もうとするのがその手口だと。
    「この男、見た気がするのでもう一度巡回に行ってきます!」
     言うや否や杉元は交番を飛び出して、今朝アシㇼパが笑顔で手を振って曲がって行った道へ駆け出して行った。小学校の下校の時間を過ぎた通学路は子供たちの姿もまばらだ。数人で固まって下校しているのは、学校から不審者の注意喚起があったためだろう。
    「あれ?杉元ニㇱパ。そんなに慌ててどうしたの?」
     丸い目を更にまんまるにして声を掛けたのは、エノノカや他の低学年の子と一緒に下校中のチカパシだった。
    「アシㇼパさん、見なかったか?」
    「アシㇼパならもう帰ったよ。裁縫セット持って」
     それを聞いて杉元はすぐに駆け出した。やはりアシㇼパは交番に寄って杉元の制服のボタン付けをしてくれるつもりでいたのだ。だからまだ授業で使うはずの裁縫セットをわざわざ持って下校した。
    (アシㇼパさん…!!)
     この街に来てから、地図は頭の中に叩き込んである。巡回中、実際にどんな道かも確認している。小学校の周辺で子供が連れ込まれるような道があるとすれば。頭で考えを巡らせながらも、脚はそこまでの最短ルートを既に走っていた。そして一番最初に見当を付けていた袋小路に走り込もうとした時、ガシャン!とプラスチックの箱が落ちる音がした。
    「……ッ!!」
     落ちた裁縫箱からは針や糸、裁ち鋏などが転がって散らばっていた。
    「大丈夫だから、嫌なことは何もしないから!」
     そう言って全身黒ずくめの男がアシㇼパの細い二の腕を掴んでいた。それを見た瞬間、杉元は身体中の血が一瞬にして沸騰し、また急激に冷えた気がした。制帽を被り直し、後手に警棒を抜く準備をする。
    「…お兄さん、ちょっとお話いいかな?」
    「…杉元!」
     アシㇼパが縋るような目で杉元を見る。そして男の手から逃れようと踠き出した。
    「その子、お兄さんの妹さんには見えないけど、何やってるのかな?」
    「いや…はは、何でもないですよ…ちょっと道を聞こうとしただけで…」
    「…道を聞くだけで手の跡が残るほど強く子供の腕を掴むのか?」
     言うと、男はその手に掴んだアシㇼパを杉元目掛けて放り投げた。
    「アシㇼパさん!!」
     杉元が両手で抱き止めたアシㇼパの身体には、男が付けた手の跡以外は怪我はないようだった。ひとまずそれに安心する。しかし彼がそれに気を取られている間に、男はあろうことか落ちていた裁ち鋏を拾い上げて杉元に向き直った。細い袋小路である上、杉元が道を塞いでいたため、逃げ出すことが出来なかったのだ。
    「…お前、それを俺に向けた時点でもう公務執行妨害だからな」
     杉元はアシㇼパを後ろに庇い前に出る。男は裁ち鋏を構えながら後ろに下がる。
    「そこをどけぇーーーっっ!!」
     裁ち鋏を前に突き出しながら突進して来る男の襟首に手を伸ばし、絞り上げると、男の身体は軽々と宙に浮いた。
    「…うっ!!」
     コンクリートの地面に叩き付けられた衝撃で男が手にしていた裁ち鋏はアシㇼパのいる方まで滑り落ちた。アシㇼパは咄嗟にそれを掴み上げ、万が一男が立ち上がって来ても手が届かないよう、道の反対側に放り投げた。
     杉元は地面に転がった男を素早くうつ伏せにさせ、逃げられないように腰を全体重をかけた膝で押さえ付けて片腕を捻り上げる。その手首に手錠を掛けられた音で、男は戦意を喪失したようだった。
    「確保」
     杉元は短く言って、男を押さえ付けたまま無線機で応援を要請した。
    「こちら杉元巡査。警ら中、公務執行妨害により男を確保。女子児童一名が軽傷。応援をお願いします」
    『菊田了解』
     無線機からは菊田の硬い声で短い応答があった。杉元は手近にあった道路標識の柱と男を手錠で繋ぐと、その場に立ち尽くしていたアシㇼパに近付いてしゃがみ込んだ。
    「…怪我はない?」
     アシㇼパはぶんぶんと首を振った。勢い、くしゃくしゃになった黒髪が肩に背中に散る。だが、アシㇼパの手に血が付いていることに気付いた杉元は、驚いてその握り込んだ手を開かせた。
    「これはお前の血だ」
    「え?」
    「お前の血の付いた鋏を握ったから…」
     アシㇼパが目に涙を溜めて、杉元の皮膚を切り裂いた一筋の傷を見た。
    「ごめんな、杉元」
     杉元はそんなアシㇼパを優しい子だと思った。怖くて泣くのではなく、彼が怪我を負ったことに泣いているのだ。
    「大丈夫だよ、アシㇼパさん。こんなのかすり傷だ。俺は怪我の治りが早いから、こんなのすぐ治るよ」
     アシㇼパは頷くが、表情が晴れることはない。
    「…怖い思いさせてごめんね」
     菊田と他数名の警察官がパトカーで到着した後、交番まで迎えに来た祖母に連れられてアシㇼパは帰って行った。
    「…全く、お前はまたこんな傷作って」
     病院で治療を受ける時には既に血は止まって乾いていたが、杉元の傷は五針縫う怪我だった。杉元を昔からよく知る菊田は渋い顔をした。そもそも菊田を慕ってこの交番への配属を希望して来たこの新人は、顔の傷以外にも、身体中に大小様々な傷痕があるのだ。当の本人は傷の治りが早いという特異な体質のせいもあってか、傷跡には無頓着だ。
    「もう塞がってるからいいって言ったのに…」
     怪我よりも破れて血で汚れた制服のシャツの方が杉元には痛手だった。何せ他のシャツと言えばことごとくどこかのボタンがないのである。袖のボタンがないだけでちゃんと着られるあのシャツは唯一まともに着られるものだったのに。
    「シャツなら俺の替えを貸してやるから。それよりもうあんまり無謀なことするなよ?一人で行くからこんなもん書かされてるんだぞ」
     杉元は目の前の始末書に目を落とした。公務執行妨害の現行犯逮捕とはいえ、道路標識に手錠で括り付けるというのは非人道的である、として始末書を書かされているのだ。菊田だけがその場にいたのなら誤魔化すことも別な方法を取ることも出来たが、現行犯逮捕の応援要請とあってはパトカーでの出動もやむを得ず、他の警察官の帯同もやむを得なかった。
    「それは反省してますよ」
    「反省ってどっちを?」
    「一人で行った方」
     菊田は人間を手錠で道路標識に括り付ける方をも反省して欲しかった。
    「…アシㇼパさんが危険かもって思ったら、いても立ってもいられなくて」
     ぎゅっと両手を握る後輩の姿に、菊田はため息をついた。
    「そんなに大事か、あのお嬢ちゃんが」
    「………はい」
    「それなら余計に自分の行動に気を付けろ。お前の怪我は自分のせいだって、あのお嬢ちゃんはずっと落ち込んでいたぞ。自分が危険な目に遭ったっていうのに、ずっとお前の心配をしてたんだ。二度と怪我をするような事態に自分を追い込むんじゃない」
    「はい…」
     別れ際のアシㇼパの表情は、杉元の心にも棘のように突き刺さっていた。
    「スギモトォー!」
    「え!?アシㇼパさん!?」
     祖母と共に交番にやって来たアシㇼパに、杉元は始末書を放り出して駆け寄った。
    「ボタン、つけに来たぞ」
     あざになっている二の腕には包帯を巻いているものの、祖母に伴われたアシㇼパは自分の裁縫箱を抱えながら満面の笑みだ。
    「それから、あの破けたシャツも貸してくれないか?」
    「え、でも血だらけだよ?」
    「血はタンパク質を分解する成分の入っている台所用洗剤で洗えば落とせるんだ。破けたところはフチに教わりながら私が直す」
    「でもそこまでさせるのは悪いよ」
    「やらせてくれ。私の不注意のせいでお前を怪我させてしまったんだから」
    「アシㇼパさんのせいじゃないよ。それが俺の仕事なんだから」
    「いいや。そもそも私が一人で帰らなければあの男に狙われることもなかった。私があの男に狙われなければ、お前がそんな怪我をすることもなかったんだ。だからお前の怪我は私の責任だ」
     見事な口上に菊田は舌を巻いた。
    「驚いた。このお嬢ちゃんの方がノラ坊よりよっぽど賢くて責任感があるぜ」
    「菊田さん!?」
    「だってさっき俺がお前に言ったこととおんなじことだろうが」
    「ノラ坊?」
     首を捻るアシㇼパに菊田は笑いかける。
    「コイツ、昔は荒れててなぁ。指一本でも攻撃して来るような暴れん坊だったんだよ。顔の傷もその時のヤンチャのせいさ」
    「なんだ、杉元。お前全然成長しないなぁ〜!」
    「……返す言葉もねぇ……」
     その日、交番はまるで一般家庭の茶の間のように平和だった。アシㇼパの祖母が持って来た菓子を食べながら、菊田の話す杉元の昔話に笑いながら、アシㇼパは杉元の全てのシャツにボタンを付け直して帰ったのだった。
     帰り道、フチはアシㇼパに言ったものだ。『将来あんな男と結婚してくれたら安心だ』と。
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    GK_mineko

    DOODLE昨年夏のちかポリさん祭りでととさん(@recoj33)の描かれた巡査元さんから始まった妄想の第2弾。asrpさん中学生編。やっと形に出来ました。もう妄想が捗っちゃって捗っちゃって。
    ③は多分書きません。このお話の杉リパのその後は皆様の心の中に…
    ↓妄想元のととさんのイラスト
    https://x.com/recoj33/status/1805975948405395957?s=61
    杉元巡査とアシㇼパさんのお話②(フチが悪いんだ)
     アシㇼパは足早に交番を立ち去りながら心の中で言い訳をする。耳が熱い。早足だった足はだんだん駆け足になって行った。
    (フチがあんなこと言うから)
     将来あんな男と結婚してくれたら安心だ、なんて言うから。
     いつも気軽に叩いていた大きな手だったのに、今日初めて杉元からアシㇼパの手のひらを打った。ほんの一瞬感じる熱さに手が痺れて顔にその熱が感染した。こんな顔、彼には見せられない。
     手のひらを弾いた一瞬で頬を中心に広がった熱は未だ冷める気配がない。交番から一刻も早く離れたい気持ちと急に湧いた初めての感情に戸惑う心とで、アシㇼパは訳もわからず走り出していた。
    (もう、何なんだこれは〜〜!!)
     桜の花びらがセーラー服のリボンを掠めて行く。大きめのプリーツスカートを膝で蹴り上げるようにアシㇼパは中学校までの道のりを全速力で駆け抜ける。これだけ走っていれば、顔が赤いのは走って来て暑いからだとクラスメートには言い訳が出来るだろう。だが、今朝ハイタッチをした杉元に用意していた言い訳はない。
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