後を継ぐ者「でも…」
ドクターイエローを見せてもらった後、指令室へとリュウジさんと共に向かう途中、自分では期待に応えられない気がして僕は否定の言葉を吐こうとする。
リュウジさんが歩みを止め、僕もつられて立ち止まる。
「でも?」
そう言って顔を寄せてくるので、緊張して少し後ろに下がる。
「ぼ………僕では」
「僕では?」
また一歩詰め寄られるので、また一歩下がる。
「………」
僕を強い瞳で見つめてくる。その感情を読み取りにくい無表情な顔に、リュウジさんの整った目鼻立ちを一層意識してしまって焦る。僕は思わずまた一歩下がる。あっという間に壁が背に触れる。
リュウジさんは僕を廊下の壁に、意識的にか無意識的にか追い込み、僕の頭の上の壁に左手首をつく。
…………これは、壁ドンと言うやつなのでは!!??
蛇に睨まれた蛙みたいに身体が緊張してしまって動かない。
「シンカリオンに乗るのは怖いか?」
ギクリとして心臓が跳ねる。
「ドクターイエローを使いこなせるのは現状お前しかない。」
その言葉に、リュウジさんの視線から顔を背けて逃れる。リュウジさんのジャンパーの胸元についている、超進化研究所のバッジが目に入る。どんなに顔を背けても距離が近い。
怖い、と言ってしまったらリュウジさんに呆れられてしまう。僕はあの大きくて強い機体を、かつてのリュウジさんのように使いこなす自信をはっきりと持てないでいる。
「わかっています。」
掠れた声で答えれば、リュウジさんが短く呟く。
「手が届く。」
ドクターイエローに乗れば、今、生身の僕の手の届く範囲では守れない、シンやナガラ、運転士たちを守れる。指令室からジリジリと見ているだけではなく、隣で、手の届く距離で、庇うことができる。
「想像しろ。」
そう僕の耳元に口を寄せて囁くように話してくる。
鼓膜がリュウジさんの声を拾って僕はビクっと肩を震わせてしまう。
「あの大きくて黄色い機体はお前の手足のように動く。相手の動きを読んで攻撃を避け、隙を見つけて技を繰り出す。お前が持っている身体感覚を超えて、あいつは動くぞ。」
心臓が鳴る。
足の裏からムズムズとしてくる。
ドクターイエローを扱ってみたい。
リュウジさんが扱っていたという機体を改良したシンカリオンZドクターイエローはどんな風に動くのだろう。
自分の力を試してみたい。あの機体が変形し、自分の思うままに動くとしたら……。そんなことを想像すれば恐れではない震えが背筋を走る。
僕は観念してリュウジさんをゆっくりと見上げる。至近距離で視線が絡む。その深い青色に飲まれてしまいそうだ。心臓はもうずっと変な音を立てている。僕はごくりと喉を鳴らす。
「乗り…たいです……。」
きっと僕は欲求を隠しきれてない顔をしている。
リュウジさんの言葉はずるい。
僕の全てを見透かされているのではないかと不安になってしまう。
「それでこそシマカゼだ。」
そう言うと、リュウジさんは目を細め、唇の端を微かに上げて満足そうに微笑む。
「期待している。」
そう言って壁から手首を離す。
リュウジさんのあらゆる圧から解放されて、僕は小さくため息をつく。ち…ちかかった…。
僕は、歩き始めたリュウジさんの後を慌ててついて行く。
「……俺も怖かったよ。」
リュウジさんがぽそりと小さな声で呟く。
驚いてリュウジさんの背中を見つめる。
「だがそれ以上に、無我夢中だったからな。」
そう言うと僕の方をチラリと振り向く。
「シマカゼはドクターイエローのことを気に入る。」
そう言ってまた前を向いて歩みを進める。
僕はリュウジさんの背中を追いかけながら、いずれ僕が乗るであろうドクターイエローのことを考えるのだった。