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    ナナ氏

    なんかいろいろ置いてる

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    ナナ氏

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    【ととモノ3D】フェアリーの少年オズと黒髪セレスティア美女のリーヤがパーティメンバーを探し、焼きそばパンとも出会うお話

    そうだ、仲間を探そう フェアリーの少年、オズがモーディアル学園郊外に倒れていた黒羽のセレスティアを拾ってから数日が経ちました。
     黒い羽に黒い髪のセレスティアは「リーヤ」と名乗り学生として学園生活を始め、ミステリアスで落ち着いた性格と堕天した姿は生徒たちの話題を……。
    「姐御〜! リーヤの姐御〜!」
     集めることはあんまりなく、放課後の廊下で身長十五センチほどの赤髪のフェアリーのオズに後ろから呼び止められ、面倒くさそうに振り返るのでした。
    「何」
    「なにって、置いてかないでくれよ〜。俺と姐御は同じパーティの仲間同士なんだからさ、なるべく一緒に行動しなきゃじゃん?」
     軽口を叩きつつも前に遮るように飛ぶオズ、足を止めたリーヤは冷たい視線で見つめます。
    「そんな決まり事があるの?」
    「厳密に言うとないけど。姐御はまだ学園に……というより社会に慣れてないって感じだろ? なら! 学園にも一般社会にも慣れている俺がいた方が良いじゃん? オトクじゃん? 損はないじゃん?」
     調子良く言っていますがリーヤは無言です。オズをじっと見つめてしばらく言葉を止めたまま。まるで何かを考えているよう。
    「…………」
     数十秒ほど無言を貫いて。
    「……それもそうね」
     と、結論付けてから再び歩き始めます。ちゃんとオズを避けて。
    「嫌な間だなぁ……」
     苦い顔を浮かべつつもオズは飛んで追いかけ、リーヤの隣にぴったりとくっつくように進みます。
    「私がこの世界に不慣れなのは事実。その点を補うためにもオズに頼らざる得ない……と、いうことになったわ」
    「姐御の頭の中で俺についての扱いがどう展開されていったのか知りたいような、知りたく無いような」
    「手放すのには惜しい人材ということよ」
    「そう言って貰えるなら光栄っす」
     複雑な気持ちは完全に拭えないものの、オズはそこまで指摘せずに手を頭の後ろで組みました。
     変わらずリーヤはオズを一切見ていませんが会話はします。
    「いつの間に私はアナタと同じパーティになったの?」
    「そりゃあもう最初から。姐御が入学してくれたら俺のパーティメンバー枠が一人埋まるし! 後衛魔法職の俺とバリッバリの前衛の姐御だからバランスも良い感じだし!」
    「そういう下心ありきだったのね……ま、いいけど。でも、邪神の力が使えない邪神を味方に引き入れるなんて……いい趣味してるわね」
    「下心あるって分かっていても受け入れてくれた姐御の慈悲深さに感謝感激〜! あ、俺以外の人の前で自分は邪神どうとかって言わない方がいいっすよ?」
     そこまで言った時、リーヤは足を止めてオズを見ます。
     突然の急停止にオズは組んでいた手を離し、驚いた様子でしばらく浮遊していました。
    「え、姐御?」
    「……いや、何でもないわ。オズの言う通りね」
     再び歩き始めるのでオズも急いで並走します。
    「この姿じゃあ私が邪神だって証明もできないから説得力もないし、神の力も使えないもの」
     自分に言い聞かせるように言うリーヤですが、オズは苦虫を噛み潰したような顔。
    「……そういう意味じゃなくて、神様を信仰しているヤツにとって神を名乗るなんて地雷以外のナニモノでもないってだけの話で」
     オズの指摘はリーヤの耳に入ってそのまま突き抜けていき、空中で離散しました。
     そんな会話や一般社会における常識を解説しつつ、二人は学園にある中庭までやってきました。
     無駄に広い学園内にある憩いの場には、放課後ということもあって生徒たちもそれなりにいました。
     木陰で休んだり、友達同士で団欒したり、仲間たちで冒険の作戦会議を行ったり……と、各々が好きな時間を過ごしていますね。
     渡り廊下から中庭に踏み込んだリーヤは足を止め、その生徒たちを見渡しながら言います。
    「本当に、この世界には色々な種族がいるのね……しかも、大きな争いもなく互いに共存している。奇跡にも近い光景だわ」
     中庭の光景を眺める青い瞳は、奇跡のような美しい景色を見ているかのようにキラキラと輝いていました。
     彼女の後ろでそれを見ているオズは、呆れたような逆に感心したような心境の中、軽く息を吐きます。
    「姐御は大袈裟だなぁ。ま、仲悪い種族もいるっちゃいるけどな? 有名どころだとセレスティアとディアボロスとかドワーフとエルフとか」
    「セレスティア……あの白い羽が生えている人のことね。羽を漂白するなんてよっぽど白が好きなのね」
    「一応そっちがノーマルだからな!? なに!? 姐御って堕天使以外見たことないん!?」
     絶叫しつつリーヤの世間知らずっぷりを再認識するオズでした。
     すると、リーヤは振り返ります。
    「で、こうして学園でのんびりしていてもいいのかしら? 見習い冒険者としての経験を積むため、ダンジョン探索をしないといけないんでしょ?」
     そう真面目に意見するものですからオズは面喰らった顔。
    「え……あー、姐御の言うとおり、最初の探索課題を進めなきゃだけど……さすがに二人だけじゃあ厳しいってのが現実問題にあるんだよなあ。姐御がいくら強くてもこればっかは」
    「他にも協力者がいるということね」
    「そうそう。最低でもあとひとりは……いやでも、姐御は完全に未経験だしやっぱ六人フルパーティが望ましいなあ」
    「つまりあと四人も仲間を見つけないといけないのね。簡単に見つかるのかしら?」
    「当たって砕けるしかないっすねー」
     軽口を叩くオズ、話している間にも暇そうな生徒はいないかと視線だけで探しています。
     作戦会議をしている冒険者グループは六人組、談笑している生徒の会話では他にパーティメンバーがいる雰囲気、木陰で休んでいた生徒はいつの間にか姿を消していました。
     そして、今さっき中庭に入ってきたであろうフェルパーとドワーフの女の子二人組。購買で何かを買ってきた後なのか、二人とも同じ紙袋を抱えていました。
    「お? 前衛になりそうな子たち見っけ! ちょいと声かけてくる!」
     すぐさま二人に狙いをつけたオズはリーヤを置いて飛んでいき、二人の女の子の元へ物理的に急接近。
     そして、確実に声が届くであろう距離まで来ると、
    「へい! そこの可愛いお嬢さん方! ちょいと俺らのパーティに入らない?!」
     まるでナンパのような誘い文句を披露すれば、ドワーフの女の子はぽかんと口を開け、
    「ん? なんなのですかこのショウジョウバエは」
     フェルパーの女の子に怪訝な顔をされてしまったのでした。虫扱いまでされて。
    「誰が蝿かな!? 誰がどう見ても立派なフェアリーだけど!?」
    「そうだよ!? 虫扱いは酷いよ!?」
     オズだけでなく一緒にいたドワーフの女の子まで抗議してくれました。真面目な良い子のようですね。
    「やっぱり虫よね、サイズ的にも」
     ここでオズに追いついたリーヤまでもが追い打ちをかけてきたので、オズは即座に振り返って姐御を凝視。
    「姐御!?」
    「いやあ、このサイズの虫は中々にエグいやつなのです。夜中に見つけたら悲鳴が出ると思うのです」
    「君も虫から離れてくんない?!」
     フェルパーの女の子は二歩ほど下がりました。
    「いや俺からじゃなくてな!?」
    「ご、ごめんね……悪気も悪意もないの……」
     ドワーフの女の子の気弱そうな謝罪により、オズは我に返りました。
    「悪意があったらさすがの俺でもキレちゃってるよ……あ、それでさ? 俺たちパーティメンバーを探しているんだけどさ、君たちでよかったら入らない?」
     このまま話を戻しますがドワーフの女の子は気まずそうに目を逸らしまして。
    「ご、ごめんね……アタシたちはもう六人フルパーティで揃ってるんだ」
    「そうなのです。掛け持ちはあんまりよくないのです」
     フェルパーの女の子も頷くと、オズは手と首を振ります。
    「いやいや、申し訳なさそうにしなくてもいいよ。すんなりメンバーが揃うなんて思ってないからさ〜ね? 姐御?」
    「そうなのね」
    「なんで絶妙に他人事なんすか……」
     肩を落としていると、フェルパーの女の子がさっさと口を挟みまして。
    「あれ? まだパーティメンバーが揃ってないのですか? かなーり出遅れてるのですね?」
    「うん。色々あってちょっと出遅れちゃったんだよね」
    「そうなのですか。せいぜい頑張るのです」
     他人事のような言い方ですね、事実他人事ですが。
     それを横目で見たドワーフの女の子は声を上げます。
    「も、もしフルパーティ揃ってない子がいたら声をかけておくね!」
    「おお! それはありがたいねえ! 優しいねえドワーフのお嬢さんは」
    「あはは……」
     乾いた笑いを出すドワーフの女の子、同年代の子から「お嬢さん」と呼ばれたことに引っ掛かりを覚えつつ、口には出さないでおきました。
    「あ、アタシはドワーフのトパーズって言うよ」
     疑問は言わずに自己紹介を口にすると、隣にいたフェルパーの女の子も早速便乗。
    「私はフェルパーのネネイなのです! 侍なのです!」
    「しくよろ〜! オズで〜す! こっちはリーヤの姐御」
    「ども」
    「姐御……?」
     またもや疑問が生じたドワーフの女の子ことトパーズは、じっとリーヤを見つめます。
     リーヤはその視線を気に止めることなく、トパーズが持っている紙袋を指し、
    「ところで、何を大事そうに抱えているのかしら」
     簡潔に尋ねると、答えたのはネネイです。
    「何をどう見ても焼きそばパンなのです!」
     開けっぱなしの紙袋の口からは一般的な焼きそばパンたちの姿が丸見え。かなりの数を買い込んでいると想像できます。
    「うちのパーティの回復係はルンルンちゃんしかいないから、万が一も考えて道具でも回復できるようにしないといけないのです! 小腹が空いた時にも重宝するのです!」
     追加で説明するネネイ。オズは腕を組んで感心した様子で聞いていましたが、リーヤの疑問はまだ尽きません。
    「やきそばぱん? それはなに? 初めて見たわ」
    「お前マジなのですか。どんだけ世間知らずなのですか」
     絶対零度にまで下がったネネイの視線。リーヤは全く気にしてない様子ですが、オズは慌ててその間に入ります。
    「リーヤの姐御は超絶箱入りの世間知らずのお嬢さんだから知らなくてもしょーがない! しょーがないんだよな! なっ! 姐御!」
    「確かに、箱入りと言えばそうかもね」
     八百年も封印されていたし……と、小さくぼやきましたがネネイの耳には入っていないようで。
    「ワケアリというやつなのですね。じゃあ、焼きそばパンを一個だけ分けてあげるのです!」
     景気良く言ったかと思えば自分が持っている紙袋に手を突っ込んで、焼きそばパンを一個だけ取り出しました。
     トパーズはネネイを見上げて尋ねます。
    「いいの? あげちゃって」
    「一個ぐらいなら大したことないのです! ノープロブレムなのです!」
     こうして差し出された焼きそばパンを、リーヤはそっと受け取りました。
    「ふーん……これが焼きそばパン……折角もらった施しだし、無碍に扱うのもよくないわね」
     と言い、袋から焼きそばパンを取り出すと、さっそく端の方から一口齧りました。
     その刹那。
    「うぅっ!!」
     口元を抑え、蹲ってしまってではありませんか。焼きそばパンは右手でしっかり持ったまま。
    「どうしたのです!?」
    「リーヤちゃん!?」
    「姐御!?」
     三人が驚いて声を上げる中、リーヤは口元を抑えたまま、肩を振るわせているではありませんか。
    「な、なに、この、この……」
    「もしかして、口に合わなかったのです?」
    「この素晴らしい食べ物は……!」
     そして、三人は動揺から解放されました。
     口元から手を離したリーヤは焼きそばパンを両手でしっかりと持ちます。そして、自分が齧った焼きそばパンをまるで宝物のような目で見始めるのです。
    「しょっぱいようでほのかな甘みも感じるソースが絡んだ麺に、食べやすいようにかなり細かく刻まれた野菜たちが互いを邪魔しないように共鳴し合っている、食物同士が手を取り合った技……! さらにこのソースが染み込んだパンがほどよくしっとりしていることで食べやすさを助長するだけでなく、麺と野菜とパンの三重の合体を助け合い口の中で素晴らしい食感と味を生み出しているわ……! まさに奇跡の合体、産まれたことに感謝するしかない幸福感、おまけにボリューミー!」
    「つまり“おいしかった”ということなのですね」
     ネネイは冷静でした。
    「あ、姐御って焼きそばパンが好きだったんだ……」
    「今まで食物なんて必要なかったもの。この体になってから初めて食べ物というものを口にしてきたけど……この焼きそばパンという物は本当に素晴らしいわ。食物を司る豊穣の神を馬鹿にしてきた自分がとても恥ずかしい存在だと認識してしまうぐらいには」
    「病弱だったんすか?!」
     オズのツッコミはスルーされ、リーヤはすっと立ち上がります。
    「ねえ、この素晴らしい食べ物はどこで手に入るのかしら」
     質問に答えるのはトパーズです。
    「購買部だよ? たくさん売ってあるはずだけど……」
    「増産されているの!? この美味の宝庫が!? この世界の技術は恐ろしく進歩しているのね!?」
     珍しく大声をあげて驚愕するリーヤですが。
    「姐御……カルチャーショック受けてんなあ……」
    「おっそろしく世間知らずなのですね」
    「う、うん……」
     他三名は恐ろしく冷静です。トパーズに至っては世間知らずな彼女に居た堪れなくなったのか目を逸らしてしまいました。
     すると、ネネイは鼻を鳴らして、
    「でもまあ、好物が増えることは良いことなのです! 好きな物があればあるほど自分の人生に彩りが増すとお父さんが言っていたのです! だからよかったのですね!」
    「ええ。ありがとうネネイ、私に焼きそばパンを教えてくれて」
    「喜んでもらえたならよかったのです!」
    「じゃあ私たちは購買部に行くから」
    「待て待て待て待て待て!」
     残った焼きそばパンを食べ切る前にリーヤは踵を返そうとしたので、オズは慌てて前に立ち塞がりまして。
    「購買部に行く前にパーティメンバー確保っすよ姐御! 今の俺たちには子供の小遣い程度のお金しかない! 焼きそばパンも買えるかどうかちょっと怪しいんすから!」
    「……」
     あからさまに不機嫌な顔になりましたが、オズは怯まず続けます。
    「金を手に入れるにはダンジョンに入って魔物を倒していかないとだろ!? な?」
    「私とオズだけでどうにかなるでしょう?」
    「ならない無理。魔物は基本的に群れで襲ってくんの。一体一体は弱くて大したことなくても、群れで襲われたりすりゃあ数の暴力に押し負けちまう。数には数で抵抗するためにも仲間の確保は必要不可欠なの」
     リーヤはちらりとトパーズとネネイを見やります。二人とも首を縦に振っていました。
    「む……困るわね。なら、オズが分裂すれば話は早く解決するわ」
    「単細胞分裂とかできないからな! フェアリーだから!」
     オズ絶叫。「フェアリーじゃなくてもできないと思うのです」という声が聞こえました。
    「困ったわね……オズが分裂できないとなると早急に人員を確保しなくちゃいけないわ。焼きそばパンのためにも」
    「動機はともかく探索に積極的になってくれてよかったよ……本当に動機はともかく」
    「マジでアテはないのですか?」
    「ないんだよなこれが。俺もこっちの地方は初めてだから知り合いとかもいないし……誰かいい人いねえかなあ」
     と、ぼやいた時。
     オズは見つけてしまいました。
     木に背中を預けて木陰で本を読んでいる水色の髪をしたエルフの少年を。
     外見は少年を通り越して青年と称しても差し支えませんが、十代後半であると仮定するのであれば少年という表現でも間違ってはいないでしょう、きっと。
     オズがエルフに気付き、続いてリーヤとネネイとトパーズもその存在を初めて認識して。
    「え、エルフだ……」
     トパーズがネネイの後ろにそっと隠れました。
    「おー、あんなところにイケメンがいるのです」
    「アイツ暇そうね。ちょっと取り込んでみましょうか」
     どこからともなく剣を取り出したリーヤ。何を考えているのかは一目瞭然ですね。
    「武器を出さないで姐御! あのエルフに何をどれしようってんの!?」
     武力によるトラブルを避けたい一心で絶叫した時、エルフはふと顔を上げました。
     騒いでいるオズたちに気付いたのでしょうか、怪訝な顔をするどころか柔らかい微笑みを浮かべてこちらを見ています。イケメンに耐性のない人であれば、男も女も一発でノックアウトしそうな微笑でした。
     が。
    「ん? あのイケメンは知り合いなのです?」
    「あ、アタシは全然知らない人……だよ?」
    「私も」
    「俺も初対面な?」
     少なくともこの四人には耐性がある模様。皆が首を傾げ、エルフの動向を見ています。
     エルフは本を閉じるとそれを懐に仕舞い、歩いて木陰から出ると四人に向かって進んで来るではありませんか。
    「んあ?」
    「こ、こっちに来た……」
    「なにかしら?」
    「え、なに、マジでなに?」
     疑問と動揺に包まれる中、エルフはネネイの目の前で足を止めました。背が高いためネネイが自然と見上げる形になります。
    「どうしたのです?」
     首を傾げた刹那、
    「おぉ……愛しの我が子よ」
     エルフは愛おしそうに言って、ネネイを抱擁したではありませんか。
     紙袋がネネイの足元に落ちました。
    「ネネイちゃん!?」
    「我が子?」
    「はぁ!?」
     衝撃が走る中、ネネイは間髪入れずにエルフの顔面にパンチを繰り出しました。
    「うご」
     うめき声も美しいエルフは背中からひっくり返ってノックアウト。見事な手腕です。
     右手の拳を握り締めたまま、ネネイはエルフを見下しながら冷たい声色を発します。
    「出会い頭にセクハラをかますとはいい度胸をしているのですね……最近のエルフの流行りなのです……?」
     ゆっくりとした足取りで、落とした紙袋を蹴飛ばさないように気をつけながら進み、エルフに止めを指すべく近づいて、
    「だ、ダメだよネネイちゃん! 暴力はよくない! 暴力は!」
     慌てたトパーズが尻尾を引っ張って止めに入ります。が、怒り心頭のネネイは聞く耳持ちません。
    「セクハラ野郎は暴力で締め上げても罪にならないのです! ここでトドメを指すのです!」
    「ダメだってそんなことしちゃ! それもお父さんが言ってたの!?」
    「ルンルンちゃんが言ってたのです!」
    「もっとダメな情報発生源だった!!」
     エルフの命が左右される緊張感のある光景のはずですが、オズもリーヤも冷めた目です。離れるタイミングを伺っていますね。
    「ふふ、じゃじゃ馬なところも愛らしいね」
     喧騒の中、エルフはそう言ってゆっくりと起き上がります。右頬は赤く腫れていました。鼻の骨が折れる悲劇は避けた様子。
    「ただ、いささかお転婆すぎる気もするよ。落ち着きを覚えなさいとまでは言わないけど……淑やかさを加えることで、君の魅力にアクセントを加えることになると思うよ。これは父からのアドバイスだ」
    「誰がお父さんなのですか、もう一発顔面に喰らいたいのですか」
     ネネイが拳を握り締めますがエルフは怯みません。それどころか、立ち上がった彼はネネイを愛おしそうに見ています。
    「それで娘の気が晴れるというのなら、僕の顔ぐらい何度でも殴ってくれて構わないよ。その傷を愛の証として語り継ごうじゃないか!」
    「誰が娘なのですか、頭部ごと粉砕してやった方がてっとり速そうなのです」
    「ダメだって! ダメだってぇ!」
     トパーズが必死に止めますがやっぱりネネイは聞きません、尻尾が引っ張られていることも気にせずトパーズを引きずる勢いで殴りに行こうとしています。武器を取り出さないのは温情か、血の処理が面倒と判断したのか。
     その間にオズは慌てて入りまして、
    「待て待て落ち着けい! 腹立つ気持ちは分かったけどそこでストップ! トパーズの言う通り暴力は良くないぞ暴力は!」
     ネネイを説得しますが彼女は怪訝な顔を浮かべるばかり。
     次にオズはくるりと振り返ってエルフと対面。
    「お前も! 初対面の女の子に抱きつくってのは関心しないな! いくらエルフが美男美女ばかりの種族だからって言ってもな! 初手セクハラが許される道理はねーの! ビジュアルが良くてもやっていいことと悪いことがあんだろうが! その歳でそれが分からんのは人として問題だろ!」
     少々長めのお小言が炸裂。ネネイは無言で頷き、トパーズは血相を変えたまま、リーヤは残った焼きそばパンを食べていました。
     エルフは次に出したのは謝罪ではなく、大きなため息。
    「常に僕の心から溢れ出てる我が子への愛は理性で抑えられるものではないからね……」
    「抑えろや」
    「やっぱり体で覚えさせてやるのです」
    「ダメェ!」
     ネネイが一歩踏み出し、トパーズが悲鳴を上げて、
    「僕の愛が大きすぎる故に驚かせてしまったのならすまなかったね。今度からは愛が僕という器から零れ落ちる前に一声かけるとしよう“僕の愛を受け止めてくれないかな?”って」
    「愛云々は関係ないのですが謝罪があったのならいいのです、でも愛云々は永遠にノーセンキューなのです」
     しっかりお断りしたところで握った拳を解放し、足の力を緩めました。これによりトパーズはホッとしつつネネイの尻尾から手を離すのでした。
    「ほっ……」
    「僕の愛の大きさに気付かせてくれてありがとう、フェアリーの我が子。君がそのサイズでなければ僕の愛をその身で感じてもらいたかったのだけど」
    「イヤーッ!! キモいこと言うなぁーっ!!」
     オズ高めの悲鳴で絶叫。
     騒ぎの最中で焼きそばパンを完食したリーヤは、近くのトパーズに問いかけます。
    「エルフってみんなこうなのかしら?」
    「いや……あの人がおかしいだけだよ、絶対に……」
     弱々しく答えると一歩下がり、リーヤの後ろに隠れてしまうのでした。
    「トパーズ?」
    「てかセクハラエルフは何なのですか! さっきから娘だの我が子だの! ふざけんてんじゃねえのです! いい加減にするのです!」
     激おこのネネイがエルフを指して怒鳴り散らせば、彼は驚いたように口元を抑えて、
    「そうだった……失礼、僕としたことが衝動的な愛のあまりうっかりしていたよ。まずは名乗らなければね」
     衝動的な愛と書いてセクハラと読めそうですね、とにかくエルフは名乗ります。
    「僕はライムント、見ての通りエルフだよ。狩人学科を選考しているんだ。これからもよろしくね、我が子たち」
     美しい微笑を向けて自身を語るも、目の前にいる四人、彼に対する好感度は既に地底の底に達しているため、視線は冷ややかです。例えイケメンであっても、言動によって全てが損なわれてしまうという例ですね。
    「……だから我が子じゃないっての」
     呆れたようにオズが反論しますが、ライムントは首を横に振り、
    「血の繋がりがなくてもエルフ以外の種族として生を受けたその時から、君たちは僕の子として愛を受け取り続ける運命なのさ!」
     高らかに叫びますが冷ややかな視線は収まりません。
    「ダメなのですコイツ頭おかしいのです」
    「冒険者学校ってたまーにこういうのが湧くからなあ……初見じゃ分かりづらいってのが良識人の辛いところよ……」
     オズがため息を吐いた時、黙っていたリーヤが一歩前に出ました。トパーズがネネイの後ろに隠れました。
    「姐御?」
     声も無視して進み、ライムントの前に立ったリーヤは腕を組んで言います。
    「ねえ、ライムント。アナタのパーティメンバーはいるのかしら?」
     この時オズの脳裏で嫌な予感が爆発しましたが、声を出す前にライムントが答えていました。
    「残念なことに僕はまだひとりだよ。仲間を募るために我が子たちに愛を捧げようとしていたのだけど、何故かみんな恥ずかしがって逃げてしまってね……この年頃の子達は反抗期真っ盛りだから覚悟はしていたのだけど……やはり寂しいものだよ」
     反抗期以前の問題がありますが、リーヤはそこを指摘せず。
    「そう。なら私たちのパーティに入りなさい」
     こうして真っ青になるオズ、目を丸くするライムント。
    「えええええええええ!? マジなのです!? マジで言っているのです!?」
     絶叫するネネイの声を涼しい顔で聞き流し、リーヤは続けます。
    「大マジよ。今はとにかく人手が欲しいの、変態でもエルフでもなんでもね」
    「や、焼きそばパンのために……?」
     ネネイの後ろからトパーズが小声で尋ねてくるので、リーヤは首を縦に振ります。
    「もちろん。焼きそばパンのために贅沢を言っている場合じゃないのよ。それに……」
     と言葉を濁しつつライムントを一瞥し、
    「彼は変だしセクハラもしてくるけど、悪人ではないと断言できるわ。邪気が全く感じられないもの」
    「当然! 僕の肉体は我が子たちへの愛でできているからね!」
     なんて言っていますがそこは無視して。
    「……なんというか、熱い信仰の気配を感じるのよ。彼から」
    「熱い信仰の気配ってなんすか……」
     これも自称邪神の戯言かと思ってため息を吐くオズですが、
    「おや。よく気付いたね」
    「は!? マジで!?」
     想定外の肯定の言葉により驚愕は隠せません。それは話に参加していないネネイとトパーズも同様で、二人とも口をぽかんと開けて驚いていました。
     ライムントは続けます。
    「ご指摘の通り、僕たち一族は深葉樹森に伝わる土地神ゲルンカ様を信仰し、彼の方の教えを守っている。素晴らしい教えを未来永劫伝え続けるためにね。それらを誇りにも思っているよ」
    「教えって何だ? セクハラとか?」
    「まさか!」
     悪意しかないオズの言葉ですがライムントは怒りません。まるで余裕のある大人のような言い草で両手を広げて。
    「ゲルンカ様の教えとは即ち“エルフ以外の種族は短命で儚い生命であるため、我々が父、あるいは母となり深い愛で包んで守ってあげましょう”という、慈愛に満ちた素晴らしい教えのことだよ! だから君たちは皆、僕の可愛い子供たちなのさ!」
     両手を広げたまま演説を終え、にこやかな笑みで四人を見ますが全員微妙な顔。
    「……ろくな教えじゃねぇ」
    「だから初手セクハラ野郎だったのですね」
    「熱い信仰心の出所が分かったのはいいけど、ゲルンカなんて聞いたことない名前だわ」
    「ずっと我が子って言ってたのは、そういうことだったんだ……」
     引いているとも言えるリアクションですね。現代の若者たちの冷めた態度もライムントにとっては可愛い我が子の愛くるしい姿の映るようでして、笑顔が絶えません。
    「我が神の素晴らしさを理解してもらって嬉しい限りだよ。とはいえ、本来は成人するまで里を出てはいけない掟があったんだよね」
    「制御の効きにくい子供を放置しておけないからかー」
    「いや。力の弱い子供のうちに我が子が窮地の場面に遭遇してしまったら、我が子を守れないかもしれないだろう? 己の無力に打ちひしがれ心が折れてしまわないようにするための大切な掟だよ」
     至極真っ当な答えによりオズはリアクションが取りにくくなりました。
    「志は立派なんだけどなぁ……手放しに納得したら負けな気ぃすんだよなぁ……」
    「頭おかしい奴が急にまともなことを言い出したらこっちの頭がおかしくなりそうなのです」
     ネネイの言葉には悪意しか詰まっていませんでした。ライムントには一切効きませんが。
    「僕はこの素晴らしい教えをもっと知ってもらいたくて、里の大人たちを説得して実力を認めてもらって……冒険者学校に入ったんだ」
    「努力家……なんだね……実際にやってることはどうかと、思うけど……」
     いつも以上に弱々しい口調のトパーズが言うと、ライムントの目はその怯えている他種族へ向けられます。
    「しかし、さっきからずっと怯えた顔をしているね? ドワーフの我が子。何か怖いことがあったのなら、この父に言ってご覧? きっと解決してみせるよ」
     優しい表情に優しく頼もしい言葉、我が子扱いすることを除けば非常に頼もしいものですが、トパーズの顔色は悪くなるばかり。
    「ひゃっ、あの、その……えと……」
     具体的な意味を持たない声を発しつつ、ネネイの後ろに引っ込んでしまいました。
    「ん? ドワーフの我が子? どうして隠れてしまうんだい?」
     ライムントは問いかけつつ歩きます。するとトパーズはネネイの後ろから離れてそのままバックステップ、とにかく一生懸命に距離をとるではありませんか。
     と、ネネイの横を通り過ぎようとしたところで、
    「トパーズちゃんはエルフが苦手なのです。だからお前は近づいたらダメなのです」
     行手を阻むように前に出て進行を阻止。話を聞いているだけだったリーヤとオズも腑に落ちた表情を浮かべ、手を軽く叩いていました。
     問題のエルフと言えば、顎に左手を当てて、
    「なるほど……古来よりドワーフとエルフの関係はお世辞にも良いものとは言えない。文化や考え方が発展し変化を遂げた現代社会においてもその関係性に大きな変化はないとされている。これは、種族的な相性の悪さによって先祖代々歪み合ってきたしがらみがある以上、仕方ないとも取れるね」
    「ご、ごめんね……全部のエルフが悪い人じゃないってことは分かっているんだけど……どうしても……」
     弱々しく謝りつつ言葉を濁した次の瞬間、
    「でも! 僕はそんな相性だのしがらみだの関係ないって思っているよ! 例え歪み合う種族同士だったとしても、エルフ以外の種族として生を受けた瞬間から君は僕の娘となるからね! 僕の愛は全てを包み込む! 性別も! 年齢も! 種族も! 関係のないことさ!」
     行手を遮ったネネイの横をひょいっと通り抜け、トパーズに詰め寄るではありませんか、距離的な意味で。
    「あ! お前!」
    「びゃっ! あ、ええっ!?」
    「だから怖がらなくていいんだよ我が娘よ! その恐怖で強張った顔を僕の愛の力で笑顔に変えてみせるから! 安心して!」
    「え、あ、い、いやいやいやいや、そそそそそそそういうのじゃ、ななななななくて……」
    「大丈夫だよ。怖くない、怖くない……」
     己の正義と愛で突き進む度にトパーズの顔色の悪さは悪化の一途を辿り、今にも泣き出してしまいそう。
     ネネイが恐ろしい顔で刀を抜き、リーヤが静かに剣を持ち出し、オズが事態を見守ることに徹しようとして、
     ライムントの側頭部に拳大ほどの岩が激突しました。
    「ごえ」
     うめき声も美しいエルフは横に倒れてノックアウト。その傍らには岩塩が転がっていました。
    「……え?」
     呆然とするトパーズが次に見聞きしたのは、
    「人の彼女に何をしている……」
     激しい憎悪をエルフに向けているディアボロスの男子生徒の姿。
     憎しみと怒りしか込められていない声を出しつつも人目があるからか冷静さを保っているようで、静かな怒りを向けつつ睨みをきかせていました。
     彼の姿を見たトパーズはパッと明るい笑顔になり。
    「バムくん!」
     それはそれは嬉しそうに名前を呼びました。恐怖に震えていた小動物のような姿はもうどこにもありません。
     すると、刀を収めたネネイは拍手喝采を彼に送り、
    「おぉ〜! トパーズちゃんを颯爽と助けたのです! バムくんってばカッコいい彼氏なのです〜!」
     なんて褒め称えていますがバムと呼ばれた男子生徒は言葉を返すことはないのでした。
     代わりにオズが彼とトパーズを交互に見て、
    「え!? 彼女!? 彼氏!? 君ら付き合ってんの!?」
    「う、うん」
    「はぁ〜……ドワーフとディアボロス……ありそうでなかなか見ないカップルだなぁ〜」
     オズが関心の声を上げている最中、バムは落ちていた岩塩を拾い上げ。
    「ほら、頼まれていた岩塩だ。さっき実家から届いたぞ」
     そう言いつつ、差し出した先にいるのはネネイでした。
    「この岩塩ってそれだったのです? 思いっきり側頭部に重い一撃を喰らわせていたのですけど、これを使えと言うのですか?」
    「当たった場所だけ取り除けばいいだろう。それによく考えてみろ、この岩塩にはトパーズを守ったという箔が付いているぞ」
    「それもそうなのですね」
     どうして納得してしまったのか、ネネイは岩塩を受け取ると懐にしまうのでした。
    「えぇ……」
     トパーズどん引き。いつか、この岩塩を作った料理を食べる日が来るのだろうと思うと複雑な心境にしかなりません。
    「……もしかしなくてもいっつもこんなの? 君らのパーティって」
    「うん………………」
     肯定の言葉はオズの目を見ずに発せられました。これにより疑問も生じましたが、そこは察するだけに留めておいた方がトパーズのためになりそうです。
     すると、剣を収めたリーヤが前に出て、
    「うちのパーティメンバーが失礼したわね」
     静かに謝罪の言葉をバムに向けて言いました。申し訳なさそうな気配は毛ほども出していませんが。
     当然、バムはリーヤを睨み、
    「お前のところのパーティか。メンバーの管理制御ぐらいちゃんとしておけ」
    「管理できるかは保証できないわね」
    「しろ」
     淡々と言い返すとオズが慌てた様子でリーヤの周りを飛び始めます。
    「いやいやいやいやいやいやいや!? ちょっと待って姐御?! 本当にコイツをパーティに加えるつもりなんすか!?」
    「信仰深い者が秘める力は時には神に届くこともあるわ。彼は変態とは言えその素質は十分にある……信仰心の強い者の力は私が身を持って知っているもの、そこは心配しなくていいわ」 
    「俺が今問題として出してんのは力不足だとかそういうのじゃなくてな!? コイツ絶対に今みたいなトラブル起こすじゃん!? そしたら連帯責任で俺らが何かしらのペナルティを受けることになんじゃん!? 絶対によくない! 焼きそばパンが食べたいからって血迷わないでくれよ姐御ぉ!」
     なんて叫びながら飛び回るものですから、リーヤから舌打ちが飛び出すと同時に右手を素早く伸ばしてオズの胴体をがっしり掴みました。
    「ぐえぁ」
     結構な力を加えられたため苦しそうな声が自然と飛び出します。
    「ヨナグニサンの分際でごちゃごちゃとうるさいわね。パーティメンバーが決まらなかったら困るのはアナタも私も一緒でしょう? このチャンスを逃す理由がどこにあるのよ」
    「それ蛾……い、いや……さっき、俺が、言ったような、リスクが……」
    「強大な力を得る代償ととしてリスクがあるのは自然界の摂理。例外なんてないわよ」
    「姐御は、いいんすか……でっけぇ、リスクが、あっても……」
    「別にいいわよ。嫌ならオズがパーティから抜ければいいでしょう?」
    「それは…………無理っす……」
    「じゃあ二度と私に逆らうな」
     こうしてオズは解放され、肩で息をしつつ浮かび上がります。
    「ぜぇ……ふぅ……死ぬかと思った……」
    「恐ろしく理不尽な暴力を見てしまった気分なのです」
    「だ、大丈夫……?」
     声をかけるネネイとトパーズにオズは軽く手を振ります。
    「へーきへーき、姐御の凶暴性は文字通り体に教え込まれているんだもん」
    「逃げるなら今がチャンスだったのですよ?」
    「いいのいいの! 姐御みたいに世間知らずのお嬢さんには、俺みたいな後見人がまだまだ必要そうだしね〜」
     屈託のない笑顔で答える彼、無理をしている様子は感じられず。ネネイはトパーズと顔を見合わせるのでした。
    「お節介さんなのです」
    「優しい人なんだよ、絶対」
    「……ところで、さっきから何だこのユスリカは」
     と、話が丸く収まる直前にバムはオズを指差せば、次に出てくるのは当然、文句の言葉で。
    「誰がいっぱい集まってうわんうわん飛び回っている蚊の仲間かな!?」
    「そうだよ!? なんでみんなさっきからオズくんのことを虫扱いするの!?」
     とうとう叫んだトパーズの声が途切れた時、ライムントは頭を抑えながら起き上がりました。
    「いたたたた……愛する者を守ろうとするその勇姿、しかと見届けたよ」
     もちろん反省の色はありません。
    「ネネイ刀を貸せ、奴の息の根を止める」
    「おうなのです」
    「殺さないで!!」
     流れるような凶行は絶叫により免れました。その隙にリーヤは腕を組み、ライムントを見下します。
    「さてライムント。話が逸れてしまったけど、アナタの信仰強さを見込んで私のパーティに入れてあげる……というか、入りなさい。どうせこんな調子じゃあ他のメンバーなんて見つからないでしょう? 断らせるつもりもないわよ」
     横暴の擬人化のようなセリフでした。並の人なら怒りの声を上げているところですね。
     まあこのエルフは並ではなく異常なのでニッコリ微笑んで。
    「分かった。是非ともその手を取らせてもらうよ」
     そう言って立ち上がりました。
    「マジかよ……い、嫌なら断ってもいいんだぞ? お前が逃げたって俺の羽か触覚が犠牲になるだけだし……」
     恐る恐る言うオズですがライムントの微笑みは絶えません。
    「断る理由なんてどこにもないよ。僕も冒険者仲間として行動を共にすることで切磋琢磨する我が子たちの成長を間近で見届けることができるからね……僕は幸せ者だ」
    「誰が我が子だよ」
     幸せそうなエルフとは裏腹にオズは心底嫌そうな顔。これから先、自分が望んでいない展開に突き進んでしまうことを悟ってしまったのでした。
    「話が済んだならどこかに行け、お前の存在は色々と問題だ」
     当たり前ですがバムは冷淡です。しっしと手を振ってまるで野良犬を追い払うような動作ですね。
    「ちょっとバムくん」
    「おやおや反抗期だね。この年頃の我が子らしい反応だ……仕方ない、僕はここで退散するとしようか。新たな我が子との語らいの時間を設けたい所だからね」
    「やべえっすよ姐御、父性の矛先がこっちに向いた」
    「父性って矛を持っているものなのね」
    「父性は物騒な感情じゃないよ……」
     恐る恐るトパーズはツッコミますが、誰も相手にしませんでした。スルーですね。
    「とにかく、他のメンバーも探しに行きましょう。早くしないと焼きそばパンが買えないわ」
    「あっ、はいっす。じゃあなお前らー」
     ライムントの父性が暴れ出す前にと、リーヤとオズは彼の背中を押しつつ立ち去ろうとして……。
    「おい、そこの妖精」
     バムに呼び止められ、オズは振り返りました。
    「ん? なに?」
    「強く生きろよ」
    「なんで?」
     理由は教えてもらえませんでした。



     中庭から離れ、オズとリーヤはライムントと共に廊下を歩きます。
     エルフなので美形なライムントが少し微笑むだけで女子生徒から黄色い声が上がりますが、その度にオズは苦い顔を浮かべるのです。断じて嫉妬心ではなく。
    「……何も知らないって、幸せだな……」
     無知に対する羨望と呆れが入り混じった感情でした。
    「あの状態で父性に襲われたらどんな反応をするのかしらね」
    「やめてくれ姐御、まだ幼くて儚い夢見がちな乙女たちの夢を真っ先に壊そうとしないでやってくれ」
    「ところで、このパーティは誰が指揮を取るんだい? やっぱりキミかな? 堕天使の我が子よ」
     騒ぎと話題の中心にいるエルフは何食わぬ顔でリーヤに尋ねて、すぐに睨まれます。
    「リーヤと呼びなさい。パーティのリーダーはもちろんオズよ」
    「俺ぇ!?」
     突然の使命にオズ絶叫。自分を指しつつ信じられないような顔でリーヤを凝視しました。
     堕天使の彼女は横目でオズを睨み。
    「私は意志のある生き物を使役したことはないからやる気はないわ。それに、私は“世間知らずのお嬢さん”なんでしょう? なら指揮を取るには向いてないわね」
    「う、姐御……お、怒ってます?」
    「別に」
     そっぽを向かれてしまい、オズは大きくため息を吐きました。
    「はあ……ま、やるしかねーか……」
    「なるほど、ではリーダーはフェアリーの我が子ということだね。了解したよ。僕は父だけど隊のリーダーの命には従順に従うことを誓おうじゃないか。時には父として厳しく指導することもあるかもしれないけどね」
    「せめて名前で呼びやがれ」
     目も見ず一蹴しました。もう不安しか残っていませんが、世間知らずのお嬢さんのためにも腹を括ると決意するオズなのでした。
    「わかったよ。そうだ! パーティメンバー探しのついでで構わないのだけど、同郷のエルフも探してもらいたいんだ」
    「この学校にもうひとり父性の異常者がいんの!?」
    「やっぱりエルフってこんな感じなのね」
    「父ではなく母だよ。彼女がこの学校に編入したという話を聞いていたのだけど……なかなか見つからなくてね。もちろん、メンバー探しのついでで構わないよ」
    「気が向いたら探してあげるわ」
    「今年で一番聞きたくないこと聞いちまった気分だ……絶対に会いたくねえ、会いませんように……」
     なお、同郷のエルフとはこの三十分後に遭遇します。
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