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    ナナ氏

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    ナナ氏

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    【世界樹Ⅲリマスター】真面目系ファランクスのカヤが可愛い絵を生み出したお話

    落書きの経緯「今日は暇だからお絵描きをするぞ!」
    「ぼくまものだけどおえかきする」
     本日の探索はお休み。
     いつも仲良しなサクラとどりぴは一日という長い時間を潰すため、自室の床にスケッチブックを広げていました。なお、同室であるスオウは占いの仕事に出かけていて不在です。
     鉛筆を持ったサクラが真っ白い紙にオリジナルティ溢れる世界を形成しようとした時、ドアをノックする音。
    「どちらさーん?」
     ドアを見て答えると、ドアが静かに開いて、
    「サクラさん、どりぴさん、今日の昼食はご一緒にどうですか?」
     そう尋ねながら入ってきたのはカヤ、非番なのでワイシャツとズボンの私服姿です。
     入室と同時に床に広がったスケッチブックと筆記用具を見て、カヤは顔をしかめます。
    「こ、これは……」
    「よっすかやぴ! 今な、芸術しようとしてんだ!」
    「わざわざ床で描く必要はないと思いますが……片付けておかないと、スオウさんにまた燃やされてしまいますよ?」
    「ヤベッ」
     即座に顔を引き攣らせたサクラは立ち上がり、慌ててスケッチブックを持ち上げます。
     ゾディアック兼横暴の擬人化であるスオウは散らかしているものは容赦なく燃やす女。渾身の力作を燃やされてしまった悲劇は記憶に新しい出来事です。
    「ぼくまものだけどおかたづけ」
     鉛筆やクレヨンなどの筆記用具を持つどりぴ、床から椅子、椅子からテーブルへと飛び移ってからまとめて置くのでした。
    「ふう、危なかった……かやぴのお陰で助かったっしょ」
    「危ない場面でもなかったと思いますけど?」
    「ウチがすっかり忘れてたことを思い出せてくれたからな! 十分に危ないっしょ!」
    「そこは忘れないでくださいね。ところで、何を描くつもりだったんですか?」
    「知らん!」
     堂々と胸を張って答えました。テーブルの上にいるどりぴも同じようにポーズをしています。ドリアンに胸はありませんが。
     カヤは自然と顔が引き攣る感覚を覚えまして。
    「……じゃあ、一体何を、どうするつもりで……?」
    「今から考えるところ! 芸術ってのは急に降ってくるもんだからな〜“これだ!”ってのを形にしたらそれが芸術になるし」
    「はあ……私は芸術家ではないのでその感覚はよく分かりませんが……」
    「そう? んじゃかやぴも描く?」
     軽く提案して鉛筆を差し出すと、カヤは目を丸くするではありませんか。
    「描く!? 絵を!? 私がですか!?」
    「わからないんだったらやればいいだけの話っしょ!」
    「体験することでその物事を深く理解できるという言い分はわかりますが……ええっと、何を描けば……?」
    「んー、どりぴとか?」
     深く考えてない提案、カヤは恐る恐るどりぴに視線を向けます。
    「ぼくまものだけどモデルになる」
     当のどりぴは両手をぱたぱたと振り、気合いとやる気を表していました。
     他者の善意とやる気を無碍にするほど鬼になれないカヤ、小さく息を吐いてから鉛筆を受け取り、
    「わ、わかかりました。出来る限りのことはしますね」
    「カッコよくかいてね」
    「善処します」



     数十分後。
    「できました」
     椅子に腰掛け、絵を描いていたカヤが声を上げ、鉛筆をテーブルの上に置きました。
     それに伴い、隣で立ったままスケッチブックに絵を描いていたサクラは顔を上げ、ベッドの上でモデルをしていたどりぴは飛び降ります。
    「マジでマジで!?」
    「みせてみせて」
     一人と一匹は意気揚々とカヤの元へ向かいます。サクラは後ろに回り込み、どりぴはカヤの頭の上に飛び乗りました。
     そして、同時にカヤの描いた絵を視界に入れます。
     カヤの手元にある絵は。
    「……………………」
     一人と一匹を絶句させました。
     上部に三本のトゲ、目はまんまる、上部から伸びている短い手、下部には短い足、上下の殻の間に生える黄緑色の果実部分は胴体幅よりも長くて髭のように伸びています。そして尻尾がない。
     簡潔に説明すると「幼児が一生懸命に描いたお化けドリアン」でした。
    「……………………」
     一人と一匹は静かにカヤを見ます。いつも騒がしい一人と一匹とは対称的な、静かな瞳で。
    「どうしたんですか?」
     静かな反応を不思議に思ったのか首を傾げている中、サクラは口を開きます。
    「かやぴってさ……どりぴのことがこんな感じに見えてんの?」
    「え? 見たままを描いただけですけど?」
    「写生でこれなん!?」
     サクラ絶叫。どりぴはカヤの頭から落ちて床を転がっていき、
    「ぼくあんなのだったんだ……」
     テーブルの下に伏せてしまいました。少なからずショックを受けている様子。
    「ええと……下手、ですよね? やっぱり……」
     一人と一匹の反応を見て察するところがあったのでしょう。カヤは苦い顔を浮かべて絵から目を逸らすと、それをテーブルの上に置いてしまいました。
     その表情は、絵を描いたことを後悔し始めているように見えます。
     すぐに気付いたサクラは咄嗟に絵を取ると、
    「下手とかの問題じゃないっしょ! これはその、味があるっちゅーか、なんつーか……」
    「“味がある”という表現は“下手”をできるだけマイルドに伝える時に使う言い方ですよ……」
    「そーだけどそーじゃないし! かやぴの絵は下手とかの次元じゃなくってな!」
    「驚嘆に値するほど下手ということですか!?」
    「違う違う違うし! なんちゅーかな! すっげえ可愛いんだよ!」
    「は!?」
     カヤ、口を大きく開けて驚愕。
     その間にサクラはカヤの絵をまじまじと見て、真剣な表情を浮かべます。
    「ぷわぷわ丸(注:船の名前)を名付けた時とかそうだったけどよ、かやぴってセンスがすんげえカワイイんだよな。なんだろう、媚び売ってない自然な可愛さって感じがする。かやぴって可愛い系じゃなくてどちらかっつーとカッコイイ系だけど、見えないところで可愛さが大爆発してるんよなあ」
    「すごく真面目な顔で中身があまりないことを……私に可愛さは無縁のモノですよ? クレナイさんは可愛い可愛い言ってきますけど、あの人は特殊だからさておいて……」
    「そうだ! くれっちにこれ見せてこ!」
    「え」
     シノビ顔負けのスピードで話を切り替えたサクラは即座に行動。カヤを置いて部屋から飛び出してしまったではありませんか。
    「ちょちょっと! サクラさん!?」
     慌てて追いかけるカヤですが、神速のナイフを持っているサクラに追いつくなどシノビでもない限り無理なので、あっという間に置いて行かれてました。
     部屋から飛び出した俊敏なサクラは廊下を駆け抜け、階段を勢いよく降りていき、
    「くれっちー! 見てみて! くれっちー!」
     アーマンの宿一階、玄関先にある共有スペースに姿を表すと、ちょうど通りかかっていたクレナイを発見。早速、元気な声をあげて飛び込んで行きました。
     女の子の声を聞いて反応しないクレナイではないので、すぐに振り向いて微笑みます。
    「あらサクラちゃん、どうしましたの?」
    「これ、くれっちに見てほしいっしょ」
     と言いながら例の絵を見せるので、クレナイはすんなりと受け取り、
    「まあ。可愛らしい絵ですこと。サクラちゃんが描きましたの?」
    「ううん、かやぴが描いた」
     当たり前のように答え、カヤが共有スペースに降りてくるのはほぼ同時でした。
    「あの!」
    「まあまあまあ! この可愛らしい絵をカヤちゃんが!? そんなっ! カヤちゃんが可愛すぎるあまり可愛らしい芸術品を生成したということですの!? この愛おしさの結晶体が世界に産まれてしまいましたのね! もはや天才! 世界レベルでしてよ! 黄金の額縁に納めて後世という世界が終わる日まで大切に保存しなくては!」
    「たかが絵のひとつでそこまで賞賛しなくてもいいですから!!」
     カヤ絶叫。わざとドスドスと足音を立てながら近付いてくるので、サクラはクレナイの後ろにさっと隠れました。
    「あらまあカヤちゃん、何を不機嫌になっておられますの? カヤちゃんの可愛さによって神話ともなり得る芸術品が誕生したのですから、もっと誇りを持って胸を張っておくべきかと」
    「ないモノを張ったところで仕方ありませんから…………じゃなくて、あの絵のどこがいいんですか……」
    「全体的にすごく可愛らしいですわ」
    「ウチもそう思う」
     クレナイの肩の後ろからすぐさま同調するサクラ、何度も頷いています。
     しかし、この答えはカヤにとって納得できるものではなかったのでしょう。苦い顔を浮かべるばかり。
    「……そうなんですかねえ……」
    「かやぴはこの絵のこと、何だと思ってんの?」
    「何だとって……絵は絵でしょう? 見たままを描いた絵にそれ以上の感情がありますか?」
    「…………」
     クレナイとサクラは黙ってしまいました。真顔でキョトンとしていました。
    「はあ、もういいです。どりぴさんを部屋に置いてきてしまいましたし連れてきますね。そろそろ昼食にしましょう」
     ため息を吐いて踵を返すと、階段を登って行ってしまいました。
     クレナイとサクラは黙ったまま、何かを言いたそうな表情のまま、お互いを見つめていました。
    「…………」
    「ただいま〜って、アンタら何してんの? 不倫?」
     玄関を開けて早々に毒を吐くのはやはりスオウ。怪訝な顔でクレナイとサクラを見ていました。
    「すーちんお帰り〜、これ見て、かやぴが描いたどりぴ」
    「は? 何このゆるキャラ……」
     と、スオウは言葉を止めると、ゆっくりとサクラを見て、
    「……ほほう」
     ニヤリと笑いました。



    「というワケで! かやぴが描いたどりぴを勝手にグッズにちゃったぜーい!」
    「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
     一週間後、アーマンの宿の共有スペースにカヤの絶叫が木霊しました。
     共有スペースのテーブルにあるのは、一週間前にカヤが描いたどりぴの絵が描かれたバッジ。それも数十個という数。
    「おー、ギルドのくんしょーみたい、かわいいね」
    「か、可愛い……」
     この絵を初めて見たのかワカバは目を輝かせ、コキはバッジのひとつを手に取って静かに感動していました。
    「でしょうでしょう!? カヤちゃんの絵はこの世のモノとは思えないぐらいの可愛さですわ〜! 世界文化遺産として登録しましょう!」
     興奮しているクレナイをしっかり無視し、カヤはバッジを刺しつつサクラを睨みます。
    「なんでっ?! どうしてこんなことをしたんですか!?」
    「かやぴには自分が生み出したものが可愛くなるって自覚を持って欲しいと思ってな!」
     堂々と答えるサクラですがカヤの反論は止まりません。
    「か、可愛くなるって……それを自覚したところで何になるって言うんですか!」
    「長所を知ることは大事だぞ? ほら、履歴書とかにも書けるぢゃん? 長所はあればあるほどオトクっしょ!」
    「この特技で採用される職業なんてないでしょう!?」
    「んもー、かやぴは何でそんなに不満なんだよー」
    「ぼくまものだけどきになる」
     サクラだけでなく彼女の頭の上にいるどりぴまで疑問の声を出すと、カヤは一旦言葉を止めます。
     そして、少しだけ視線を落としてから、再び口を開くのです。
    「自分はあまり可愛いと思ってないのに、可愛い可愛いと言われると……心底複雑なのですが」
     嘘偽りのない正直な気持ちを口にすれば、周りは目を丸くするばかりでした。
     ただ一人だけ異なっているのはサクラだけ。彼女は手を軽く叩き、
    「自分の評価と周りの評価が異なっている矛盾がむず痒いってことかあ。ま、可愛いって価値観は人それぞれだからしゃーないけどよ、かやぴ以外はみんな可愛いって思ってるぞ?」
     との発言を受けたカヤが咄嗟に周囲を見れば、コキもワカバもクレナイも、遠くで様子を見ている宿屋の少年も頷いています。
    「ぼくまものだけどかわいい」
     どりぴ本人も納得している台詞により、この場にカヤの味方は誰一人としていないことが事実として突きつけられてしまいました。
     カヤは大きなため息を吐いて、
    「……この絵が世間的には“可愛い”と評価されることは理解しました。けど、描いた本人の許可もなくバッジを作るのは如何なものかと」
    「だってこれをバッジにして売り飛ばしたら結構な儲けになるってすーちんが言ったから」
    「スオウさん!!!!!!」
     占い業により不在のスオウに対する怒りの叫びは、本人に届くことはなかったとか。

     後日、スオウが見た未来は現実になったとさ。
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